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ジョン・コルトレーン《A Love Supreme: Live in Seattle》 [音楽]

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挾間美帆のニューアルバム《Imaginary Visions》のプロモーションを見ていて、ビッグバンドのスリリングさを思い出した。といっても穐吉敏子のようなストレート・ジャズではなくて、確かにジャズ・イディオムは存在するのだが、ときに現代音楽風に聞こえたりするのは、彼女がもともとクラシック畑だったことにも拠るのだと感じる。それにしてもデンマーク・ラジオ・ビッグバンドが挾間の曲を評して 「こういう難しい曲がやりたい」 と言ったとのことだが、かなりトガッているなぁと思うし頼もしい (現在、挾間は当ビック・バンドの首席指揮者である)。それでいて挾間の作品は決して難解ではなく、健康的で直裁な明るさを持っている。

ただ、この時期にとりあえず話題にしなければならないのはジョン・コルトレーンの《A Love Supreme: Live in Seattle》だろう。1965年10月2日にシアトルのペントハウスにおけるのライヴ演奏の録音である (念のために書いておくと《Live in Seattle》というタイトルの既発売のアルバムは同年9月30日の同じペントハウスの録音であるが〈A Love Supreme〉はもちろん演奏されていない)。
だが、今回のCDジャケットの惹句には 「ジャズの聖典を巡る、音楽史を揺るがす大発見!」 と記されているがそれは大げさ過ぎるというものだ。コルトレーンのライヴというと、どうしても〈My Favorite Things〉のテーマばかりが思い出されてしまうので〈至上の愛〉のライヴ音源というのは珍しいのかもしれないが、このシアトルの録音より以前の7月26日にアンティーブ・ジャズ・フェスティヴァルで全曲が演奏されているし、それはアルバム《A Love Supreme: The Complete Masters》にセッション録音とともに収録されている。
それにマッコイ・タイナーによれば、1964年12月の〈A Love Supreme〉のオリジナルのセッション録音本番より前に、テスト演奏をライヴで10回くらいは行っているとのことなのだ。そしてアンティーブやシアトル以外にもライヴで演奏している可能性も当然あるから、そのうちそうした演奏録音が出現してくる可能性もある。

このライヴの特徴としてPart 1のAcknowledgementが21分53秒もあることで、パーソネルはセッション録音と同様のコルトレーン・クァルテットにプラスしてファラオ・サンダース、カルロス・ワードの2本のリード、それにドナルド・ギャレットのベースが加わったセプテットになっている。
コルトレーンがフリーフォームへの傾斜を顕著にしてゆく鍵としてファラオ・サンダースとラシッド・アリの存在があるように思えるのだが、ファラオ・サンダースは1965年6月28日の《Ascension》に参加した後、9月〜10月のペントハウスでのライヴで演奏している。オリジナルのクァルテットによる《A Love Supreme》とひと味異なる所以である。
そしてラシッド・アリは1965年11月23日の《Meditations》録音にエルヴィン・ジョーンズとのダブルドラムとして参加し、翌1966年5月28日の《Live at the Village Vanguard Again!》時にはエルヴィンの抜けた後のドラマーというかたちになっている。同時にピアノはアリス・コルトレーンで、このファラオ・サンダース、アリス・コルトレーン、ラシッド・アリが晩年のコルトレーンの最も過激なフリーを支えた人たちである。

《A Love Supreme: Live in Seattle》の録音はアンペックスのデッキを使用していて、テープはスコッチなどではなく量販店のオリジナルテープで (廉価品だろう)、7インチリールに4トラック、つまり往復で録音されていたのだという。とするとおそらくテープスピードは38cmではなく19cm/sのはずだ。正式のレコーディングのようなセッティングではないので、音が小さいとか遠いとか不満をいうのは無理である。だがテープの状態が非常に良好だったとのことで、それでインパルス盤として正式にリリースされるきっかけになったのだと思われる。

メディアは輸入盤はCD、国内盤はSHM-CDであるが詳細な翻訳解説が付いているので国内盤がオススメである。長3度で転調を繰り返していくいわゆるコルトレーン・チェンジの解説から始まって大変に詳しい内容で読ませる。LPは2枚組だが、レコードショップではオリジナルの《A Love Supreme》のLPも一緒に販売されているけれど現在市場に流通しているのはEU盤である。ところがこの《Live in Seattle》はUSインパルス盤である。US盤にこだわるのなら買いである。

尚、この《Live in Seattle》はYouTubeのJohn Coltraneサイトで公開されている。

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John Coltrane

John Coltrane/A Love Supreme: Live in Seattle
(universal music)
至上の愛~ライヴ・イン・シアトル (SHM-CD)(特典:なし)




YouTube: John Coltrane
https://www.youtube.com/channel/UCGiKlUaxFFNXkEYIW6mfbBQ

John Coltrane/A Love Supreme, Pt. I: Acknowledgement
https://www.youtube.com/watch?v=28FDmhoAV0M

挾間美帆 BLUE NOTE TOKYO Interview & Live Streaming 2020
https://www.youtube.com/watch?v=trhCfFJyUl4

挾間美帆 イマジナリー・ヴィジョンズ
https://www.youtube.com/watch?v=26PJuYVikKc
nice!(70)  コメント(8) 
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コメント 8

hagemaizo

ありがとうございました。
by hagemaizo (2021-11-10 06:49) 

TBM

私もこれ、聴いています。
by TBM (2021-11-10 07:32) 

末尾ルコ(アルベール)

挾間美帆、いろいろ視聴してみました。知らなかったのですが、カッコいいですね。ご本人の指揮ぶりもカッコいいし、曲もカッコいい。服装や外見的にも素敵ですね。
確かにいかにもジャズと言うよりも、クリアな現代音楽の雰囲気がありました。「今」の感覚がとてもフレッシュに発散されていた感じ。これはまた愉しみが増えました。ありがとうございます。

ジョン・コルトレーンは最近聴いてなかったです。音楽だけではないですが、一日の時間は限られていて、いつも何をチョイスするか判断を迫られていますね。音楽ですとどうしてもその時期その時期に個人的にフォーカスしているミュージシャンに偏る傾向がありますが、例えば最近でもふとEL&Pを視聴したくなったり、視聴しながら(ああ、ピンク・フロイドもずっと聴いてないなあ)などと思ったり。フォーカスし過ぎて偏るのでなく、もっと常に一定の俯瞰的感覚で聴いていきたいなと思います。なのでコルトレーン、またじっくり聴きます。



『ユリイカ』の須永朝彦、読んでるのですが、めちゃめちゃおもしろいですね。作品に対するエッセイなどももちろんのこと、須永という人物自身のエピソードもとても興味深い。「芸術家の人生」という視点でもおもしろいし、作品となると名詞の使い方、そして厳密に選ばれた言葉によっていかに構築するかとか、とても刺激的です。
短歌には明るくないのですが、須永の作品を読むことで以前よりもずっと興味が持ててきました。映画を題材とした短歌シリーズも、ほとんどわたしも観てる作品でして、親しみも持たせていただきました。
何しろ、「言葉の使い方」という観点から、非常に刺激的です。

この前の渡哲也はですね、「lequiche様のブログに渡哲也」というインパクトが絶大でした。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2021-11-10 09:46) 

U3

コルトレーンは「Love Supreme」もいいけど「Plays Ballads」が好きです。
by U3 (2021-11-10 19:33) 

lequiche

>> hagemaizo 様

ご参考になりましたら幸いです。(^^)
by lequiche (2021-11-11 04:17) 

lequiche

>> TBM 様

そうでしたか。
やはりちょっとしたニュースなのだと思います。
by lequiche (2021-11-11 04:17) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

挾間美帆は私もまだよく知りません。
独立する記事を書くだけの知識がありませんので
メモ書きに過ぎませんが簡単な感想を書いた次第です。
挾間美帆は国立音大 (くにたちおんだい) の出身で
クラシックを学んでいるうちにジャズに目覚めたらしいです。
音の作り方に特徴があり、すでに彼女の個性が顕著です。
動画を見ていると簡単そうに見えますが、
自作曲でオーケストラをドライヴするというのは
とても大変なことのはずです。
それと気付いたのは指揮がとてもスクエアで
むしろ愚直なくらいに拍子がわかるように振っている姿が
穐吉敏子と同じだということです。
このようにきちんと振らないとわかりにくいのでしょうね。
フルトヴェングラーみたいな指揮ではダメなんです。(笑)

コルトレーンは今の時代には少し古いのかもしれません。
それはピンクフロイドでもEL&Pでも同様に古いのです。
ところが最近、ABBAの復活の話題もあり、
そうした過去の曲がラジオでよくかかるのですが
ビリー・ジョエルとかカーペンターズとか
ことごとく素晴らしいです。
その理由のひとつとして、元々の音源がアナログだから
ということはあると思うのです。
デジタルはどこまで細かくなったとしてもデジタルで
つまりデジタルは微分とはどういうものかという解説図を
見るとわかるように、ぶつ切りで不連続なのです。
人間の耳はそこまでとらえきれないという議論がされますが
感覚的にわかるのだと私は思います。

Billy Joel/Piano Man
https://www.youtube.com/watch?v=gxEPV4kolz0

Carpenters/Rainy Days and Mondays
https://www.youtube.com/watch?v=PjFoQxjgbrs

須永朝彦、お読みいただきありがとうございます。
私は須永朝彦→山尾悠子という流れがあったことを
今回初めて知って、ああやっぱり、と思ってしまいました。
それだけでも収穫です。

現代短歌におけるエポック・メイキングな人は塚本邦雄、
そして現代俳句が加藤郁乎であることは
おそらく動かないと思います。
しかしこのような大物な人はその大物性ゆえに
雑な部分も存在します。
(作品が雑ということでなく存在論的な粗雑さという意味です)
そうした視点からすると須永朝彦はずっとミニマリストで
全ての事象に対して繊細です。

渡哲也、そうでしたか!
では次は高倉健でいってみたいと思います。
いや、健さんじゃなくて八名信夫とか。(^^;)
by lequiche (2021-11-11 04:18) 

lequiche

>> U3 様

コルトレーンは
Duke Ellington & John Coltrane
Ballads
John Coltrane & Johnny Hartman
この3枚が彼のアルバムの中で心和む作品だと思います。
特にバラードは一番売れているのアルバムではないでしょうか。
by lequiche (2021-11-11 04:19)