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鈴木茂とはっぴいえんど — ギターマガジン12月号 [音楽]

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鈴木茂 (BARKSより)

「鈴木茂とはっぴいえんど」 というのが『ギターマガジン』12月号の特集タイトルなのだが、ギター雑誌という性格からすれば、大瀧詠一でも細野晴臣でもなく、まず鈴木茂という選択なのだろう。
ざっと読んでみて強く印象に残ったのは、鈴木はバンドの中で最年少で、1stアルバム《はっぴいえんど》を録音したとき、彼はまだ18歳だったのだという。影響を受けたのがバッファロー・スプリングフィールドとかニール・ヤングとか、もちろんその時代はそういうのがトレンドだったのかもしれないが、18歳の音にしてはとてもシブい。逆にいえば、はっぴいえんどというグループは若いメンバーでありながらすでに一種の老成した思考を同時に備えていたのではないかとも考えられる。

その1stアルバム (通称・ゆでめん) についての各曲解説があるのだが、〈しんしんしん〉に関しては 「これはデイヴ・メイスンだね」 という発言がある。アルバム《Alone Together》(1970) に収録されている〈Only You Know and I Know〉が大好きだったとも言っている (といっても直接の影響というわけではない。なぜなら《Alone Together》のリリースは1970年7月、〈しんしんしん〉の録音は1970年4月だからだ。あくまでデイヴ・メイスンのプレイ全体を指すと考えてよいだろう)。
そして〈あやか市の動物園〉はバッファロー・スプリングフィールドの〈Uno Mundo〉だという。そう言われて聴けばなるほどと思うが、何もなしに特定することは不可能だ。それだけ鈴木自身の中で消化されたうえで出てきたプレイだというふうに思える。

〈12月の雨の日〉は、鈴木茂がはっぴいえんどに加入するに際しての運命的な曲であり、過去の日本のロックにおけるエピソードの中でもはや伝説に近い。こんな曲がある、と細野晴臣が披露した〈12月の雨の日〉に対して、鈴木は 「1発であのイントロ・フレーズ」 を弾いてみせたのだという。それがきっかけとなって、彼ははっぴいえんどのギタリストになったのである。
その鈴木のフレーズの解釈についても言及があり、作曲者の大瀧詠一は 「最初のコードがAmなのにキーがトニックのDだってよくわかったなと。最初がAmだと普通はAmのキーで弾いちゃうじゃん。でも茂のギターは、Dに行くことをガイドしている」 と述懐したのだという。

だが〈かくれんぼ〉に関して、鈴木はジュディ・コリンズのアルバム《Who Knows Where The Time Goes》の〈My Father〉の影響があるかもしれないと述べているが、ジュディ・コリンズのことを私はよく知らないのだけれど、音に関しての影響というのなら〈My Father〉ではなく同アルバムの中では〈Pretty Polly〉の音か、あるいは〈First Boy I Loved〉の最後のほうのギターワークなのではないかという気がする。

また〈飛べない空〉はほとんど細野晴臣単独で作られた曲であるが、鈴木は 「これはプロコル・ハルムっぽい」 「サイケデリック」 などと述べている。プロコル・ハルムはそんなにハマッたわけではないが鈴木も好きで、2ndの《Shine On Brightly》を涙しながら聴いていたのだという。

1stアルバムは音もくぐもっているし全体のトーンがダークだけれど、このグループの表情が最も読み取れるアルバムのように感じる。2nd、3rdアルバムについての解説もあるのだが、それは同誌をご覧ください。

ギターなどの機材に関する話題はいつもながらいかにも『ギターマガジン』的で面白い。
《ゆでめん》で使用したギターはヤマハ渋谷店からレンタルした1968年から70年頃のストラトだったのだという。といってもオリジナルそのままではなく、ピックアップがP-90を2本というかたちに付け替えられていたギターであったという。当然ピックガードも対応したものに変更されているので、ストラトでありながら音のキャラクターはかなり異なるはずだ。その時代にしてすでにヤマハ渋谷店はマニアックである。

また、鈴木が最初に買ったギターの紹介もあって、それはエルクのElk Deluxeというモデルであったという。Elk Deluxeはジャガーのコピー・モデルであるが、ヘッドのかたちが異なっていて、ストラトだと丸くカーブした部分が逆に尖っているのが特徴的だ。
エルクというブランド名は久しぶりに聞いたような気がするが、その当時の日本製ギターのメインストリームはグヤトーンやテスコのはずで、エルク、ハニー、ファーストマンといったブランドはどちらかといえばマイナーだったのではないだろうか。以前出されていたビザールギターを扱ったムックにもそのようなニュアンスで掲載されていたような気がするが記憶が曖昧である。
それにエルクはビザールではなく正統派なのだが、鈴木はVOXのティアドロップ型シェイプに憧れ、このエルクを丸みを帯びたかたちに切ってしまったのだとのことだ。どのように切ってもティアドロップにはならないのに……。

実はElk Deluxeを私は知っていて、まだ子どもの頃だが、友人のかなり年齢の離れた従兄が所有していたのを見せてもらったことがある。やや無骨だが非常に良い材を使っていて緻密な仕上げの楽器だったように憶えている。たぶんその当時の楽器としては上位クラスの品位のあるギターだったと想像できる。たとえばヤマハのSG-3のような高級モデルと較べるのは無理だが、ジャガー・コピーとしては未完成かもしれないがその時代の熱気を感じ取ることができるように思う。
この雑誌には大瀧詠一が使用したElk Customというかなり大きなセパレートアンプの写真も掲載されている。Elkというメーカーはあまり知られていないように思えるが、1978年にミュージックランドという社名になり主に楽器販売業となったが、ミュージックランドKEYとして現在も存続している会社である。

プロコル・ハルムはSolid Recordsによる《Regal Zonophone Years》が発売されたが、まだ聴いていないし簡単にかたづけられる内容でもないのであらためて書きたいと思う。松任谷由実もプロコル・ハルムからの影響について語っていたが、特に最大のヒット曲〈A Whiter Shade of Pale〉は今も色褪せない。


ギター・マガジン2021年12月号
(リットーミュージック)
ギター・マガジン2021年12月号 (特集:鈴木茂とはっぴいえんど)




はっぴいえんど/はっぴいえんど (ポニーキャニオン)
はっぴいえんど




はっぴいえんど/12月の雨の日
オリジナル
https://www.youtube.com/watch?v=SWEsylPqImI

はっぴいえんど/かくれんぼ
https://www.youtube.com/watch?v=6EgYBEb-0CE

はっぴいえんど/12月の雨の日
中津川フォークジャンボリーlive 1970
https://www.youtube.com/watch?v=YA96KLuSWU8

Procol Harum/A Whiter Shade of Pale
https://www.youtube.com/watch?v=CJxpKlTID2Q
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コメント 4

末尾ルコ(アルベール)

鈴木茂についてはほとんど知らないんです。それで言えば、大瀧詠一についても細野晴臣についても、そしてはっぴいえんど自体についても今まで「追った」ことがないのであまり知らない、と言えるんです。
はっぴいえんどは確か高校時代、ロックの仲間内で「これ聴いとかなきゃ話にならない」という感じで紹介されて聴いたのが初めてでした。
正直申しましてその時は「お勉強」的に聴きまして、今ひとつピンと来なかったけど、(いや~、やっぱり凄いねえ)と分かったふりしておりましたね。当時のわたしには泥臭く感じたのです。
今回あらためて「12月の雨の日」と「かくれんぼ」を聴きますと、極めて強靭な印象を受けます。と言いますのも、10代の頃初めて聴いた際には(ふにゃっ)とした印象を受けたのです。それはわたしがパンク・ニューウェーブのノイジーな音中心だったことから来る理解力不足だったこと、今となってはよく分かります。
バッファロー・スプリングフィールドやニール・ヤング、若い頃には聴きませんよね。わたしの場合は今に至るまで積極的に聴いたことないです。でもこれからは聴いてみようかな。
プロコル・ハルムもそれほどまでに重要なミュージシャンなんですね。「A Whiter Shade of Pale」はもちろん大好きで、ちょいちょい前触れなく心の中を駆け巡る一曲なのです。プロコル・ハルムももっと聴いてみます。



つんく♂と秋元康の差異についてのご説明、ありがとうございました。わたしずっとガールズグループに関しては敢えて見ない、聴かないを通していた期間が長かったので、とても有難いです。ガールズグループ自体が悪いとかでなく、やたら無批判に持ち上げる風潮がダメだったのですが、このところももクロのみならず、NiziUとかも観てまして(笑)、「Chopstick」という新曲、なかなかようございますよ。

夭折に関して逆に言えば、ちょっといけない想像となりますが、フランソワーズ・サガンが2~3作描いたところで亡くなっていたらとてつもない伝説になってたのだろうなあと。
SugarSoul のお話しでもありましたが、表現者にとって「旬」というのは切実にして残酷な問題ですね。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2021-11-27 19:19) 

きよたん

私が高校の頃にハッピーエンドすごく人気ありました
そのころはフォーク全盛時代でちょっと違う感じだったんですよね
今聞いても新しい感じがします。

by きよたん (2021-11-27 20:53) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

泥臭いという感想は正しいです。
鈴木茂も解説のなかで 「畳のロック」 だという表現をしています。
それが松本隆、大瀧詠一の世界観だったとも。
松本隆は東京ですが大瀧詠一は岩手県の出身なので、
という見方をする評論家もいたくらいです。
《ゆでめん》のジャケットは林静一ですから、
つまりマンガ誌『ガロ』の世界が根底にあります。
つげ義春とか、その手の世界観です。
後年になるとシティポップ的な言われ方もされましたが
もともとは泥臭いんです。
でもその泥臭さも多分にポーズな面もあるようです。
ちなみに同時期のあがた森魚のアルバム《乙女の儚夢》も
ジャケットは林静一が描いています。
そういうセンスがその当時、主流だったような気もします。

ニール・ヤングというと
バッファロー・スプリングフィールドというより
私はCSN&Yを連想します。
でも超有名アルバム《Déjà Vu》っきり知りません。
ザ・バンドの《ラスト・ワルツ》にも
若い頃にはあまり良い印象を持っていませんでした。
つまりフォークとかカントリーのにおいのする音楽は
基本的に好きではなかったように思います。
年齢とともにそれではいけないと考えるようになりましたが。
ただアメリカの音楽の根底には、白人の場合、
常にカントリー・ミュージックというルーツがある
というふうに考えても大げさではないと思います。
それは例えば最近のテイラー・スウィフトにも言えますから。

それと一番有名な人を避けてしまう傾向もあって、
ジェームス・テイラーは聴かないけれど
リヴィングストン・テイラーとケイト・テイラーのCDは
持っていたりします。(笑)
ですからあくまで自分の好みで聴けばいいんだと思います。

その点、プロコル・ハルムはイギリスですから
カントリーテイストなアメリカとはちょっと違いますね。
プロコル・ハルムはその音楽に占めるオルガンの存在が大きいですが、
オルガンという選択肢ではプロコル・ハルムとヴァニラ・ファッジが
非常に大きいと思います。
もっとも私の場合、このキーボードという括りのなかに
キース・エマーソンは入って来ないのです。
なぜならプログレって基本的にはよくわからないからです。

ガールズグループというのを私はよく知りません。
基本的には大人数でステロタイプ化された楽曲や振付で
歌って踊るというパターンには心を動かされないからです。
日本のガールズグループということで見るのなら、
プリンセスプリンセスが一番すぐれていたのではないか
と私は思います。
グループの存在価値には自立性と独創性が必須です。
もっともプリプリをAKBと同列で見るのはちょっと……
というご意見も当然あるでしょうが。
これは個人的な感想ですが、
女性を大量に用いることによって
視聴する者を圧倒しようとする方法論は
その昔のラインダンスによるショーなどと同様の
女性を商品化しようとする印象きり持ち得ません。

夭折ということも同様です。
若くして亡くなってしまったということすら
商品化することが可能なのですが、
ラインダンスと同じで真実をカムフラージュしてしまいます。
早世することそれ自体に価値は存在しません。
by lequiche (2021-11-28 05:30) 

lequiche

>> きよたん様

そうなんですか。それはすごいです。
それって先進的な高校だったのではないでしょうか?(笑)
グループサウンズとかフォークとかロックとか
その時代の栄枯盛衰な錯綜感はちょっと異常なように思います。
ごく短い間に色々な音楽が並立したのではないか
というふうな印象を持ってしまいます。
by lequiche (2021-11-28 05:31)