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須藤薫《Summer Holiday》 [音楽]

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古書店で、あまりターゲットを絞らずになんとなく気に入った本を手に入れるには、その店に何度も行くことだと思う。これが欲しいと思って目的を決めているときは、不思議にその他のものは目に入らない。つまり視野狭窄。ところがぼんやりと漠然と見ていると、あ、こんなものがある、と気がつく。それは中古レコードでも同じだ。意味もなく、ざっと見ているとき、何かがひっかかって来る。もちろん引っかからないことのほうが多いけど、それはつまり魚釣りと同じなのだろう。

そうやって目にとまったのが須藤薫のベストアルバム《SUMMER HOLIDAY》だった。須藤薫って名前は知っていたけど曲はどうなのかなぁ……たぶんほとんど知らなかった。でもその名前が繰り返して意識の片隅に登場してきているような気がして。それはきっと、もうすぐ《ナイアガラ・トライアングル vol.2》が再発されるからで、ナイアガラ・トライアングルというのは大瀧のナイアガラ・レーベルで大瀧詠一、杉真理、佐野元春の3人によりリリースされたアルバムなのだけれど、その杉真理からの連想で須藤薫が気になっていたのだと思う。
そうしたとき、アルバムは向こうからやって来るのだ。

中古レコードの棚で何枚ものレコードを見ているうちに、ふとこのレコードジャケットで手が止まった。あ、これいいなぁ。何なんだろう、この懐かしいような、でもこんな風景など知らないのに郷愁を感じてしまう気持ち。何台かの古いアメリカの車と人々が模型と人形で再現されている一種のジオラマ。
心のどこかが悲しいのかもしれない。現実であるはずの今の時間が希薄で、それは楽しかった過去に引き寄せられてしまうような、少し現実逃避の、感情過多の、忘れ形見のような色褪せたかすかな想い。
でもジャケットがちょっと傷んでいるしなぁ、と思ってそのときは買わなかった。ところが頭の隅のメモ帳にメモがずっと残っていて消えてくれないので一週間後に行ってみたらまだあったので購入。つまりジャケ買いです。もっともジャケ買いって基本的にレコードにだけ当てはまることなのではないかと思う。CDだったら画面が小さいので、これだ、と思って買う気にはならないのではないだろうか (いや、CDだってジャケ買いはあるよ、というご意見があっても否定はしません。それと、そのジャケットが良いと思うか否かはその人の好みによるので、もっと言えば美学なので、万人が良いと思うジャケットなんて滅多にないのかもしれない)。

大瀧詠一、杉真理、佐野元春という組み合わせがあったのと同じように、かつて松任谷由実、杉真理、須藤薫という3人で1982年から83年に 「Wonder Full Moon」 というジョイント・コンサートがあったのだというが、これは私にとっては後から加わった知識に過ぎない。1982〜83年の松任谷由実といえばアルバム《PEARL PIERCE》《REINCARNATION》《VOYAGER》の頃である。社会現象的に大ブレイクしていた頃。
そして須藤薫と杉真理の活動はかなり続いたようだが、すごくいい! 最高! と共感し、燃えたぎってしまうような音楽ではなくて、落ち着いて聴ける大人の音楽だなぁという気がする。そうした音楽のテイストがジャケットにあらわれているのだと思う。バブル前夜とかバブルの時代の頃の音楽と言ったって、全てが金まみれの狂奔の中にあったわけじゃない。

ジャケットには 「セット制作:(株)サンク・アール」 と記載されていて、写真よりもイラストよりも手がかかっているデザインなのだが、さらに《Tear-drops Calendar》というベスト盤の続編がある。こちらは同じジオラマで構築された夜の風景だ。CDは両方とも持っているが、この《Tear-drops Calendar》のLPが欲しいのです。この2枚が揃わないと神龍は出てこないから (違ってるし)。

リンクした〈恋の最終列車〉は《フォーク&ロックマスターズライブ》という番組の一部である。番組全体はおおらかでちょっとユルくて、それは昨今のネット社会のようにギスギスしていない。
しかし残念ながら須藤薫は2013年に亡くなってしまう。悲しいことだが音楽はとりあえずこのようにしてまだ残っている。音楽が記録として、あるいは記憶として残っている間は、その人が死んでも音楽が死ぬことはない。

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須藤薫/SUMMER HOLIDAY
(ソニー・ミュージックダイレクト)
SUMMER HOLIDAY




須藤薫/Tear-drops Calendar
(ソニー・ミュージックダイレクト)
Tear-Drops Calendar




須藤薫・杉真理/恋の最終列車
https://www.youtube.com/watch?v=X80VHLc7Ii8

須藤薫/BEST COLLECTION
https://www.youtube.com/watch?v=ELN3gB9k-zc

須藤薫/ライブG
恋の最終列車、再会のエアライン、同い年の恋
https://www.youtube.com/watch?v=D6VbtQnbTjo
nice!(63)  コメント(6) 

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コメント 6

ゆうのすけ

須藤薫さん・・・懐かしいですね。もう悔しいくらいに(失礼な事なんですが)メーカーがプッシュしていたのに売り上げが・・・。テレビ(CM)やラジオでは彼女の歌が良く流れていましたが大ヒットは・・・。
私は彼女の残した作品の中で「恋のビーチドライバー」が一等好きなんです。
今はジャケ買いは滅多にしませんが 中古屋さんに行くとちょっと賭けの気分で・・・よくありました。^^;
このアルバムきっと lequicheさんに聴いてもらいたかったんでしょう!待っていてくれたのかも!^^
須藤薫さんのPOPSは何とも心地いいんですよね。あの当時は よくモニター会(CBS/SONYの)に行くたびに須藤さんのプッシュがこれでもかってくらい力を入れていたのを思い出すんです。業界のほんの片隅しか見ていない私が言うのは恐縮なんですが レコード会社がアーティストを大事に大事に育てていた夢のある時代でしたね。^^
by ゆうのすけ (2022-02-22 05:01) 

末尾ルコ(アルベール)

これまた美しくテンポの素晴らしい文章!ワクワクと読み進ませていただきました。
古書店文化の脆弱な高知はBOOK OFFが増えてから、かつての古本屋の影はすっかり薄くなってしまいました。正直わたしも意外な本がやたら安く手に入る可能性のあるBOOK OFF、利用してないわけではありません。ただ、特に子供時代から長きに渡って心弾ませた古本屋に対する憧れも消えることはないです。
「引っかかってくる」という感覚、ありますね。今まで以上にその感覚を大事にしたいと思う今日この頃です。ただわたしの場合、「引っかかってもお金が足りない」という哀しい現実も少なからずあって、経済状態改善もいまだ大きな課題です。

須藤薫については知りませんでした。リンクしてくださっている動画、視聴させていただきました。杉真理とのデュエットが特にいいですね。
杉真理もかつては興味の対象外だったのですがここ数年、坂崎幸之助と玉井詩織(ももクロ)の『しおこうじフォーク村』へ何度となくゲストで登場し、そのパフォーマンス、とても大人でありながら瑞々しさもたっぷりで、(ああ、素敵な歌い方だなあ)と聴き惚れるばかりでした。ナイアガラ・トライアングル関係では、佐野元春は若い頃からよく聴いてます。

>CDだってジャケ買いはあるよ

それはあるかもしれませんが、レコードのジャケットを見たときの心身に及ぼすインパクトとは大きく違いますよね。極端な例を出せば、映画館で観る映画とスマホで観た気になること、あるいは実物の絵画と画集の絵画の違いなどなど。
「大きさ」がもたらす心身へのインパクトを軽視してはなりませんね。現実のナイアガラの滝とテレビで見るそれはまったく違います。

>全てが金まみれの狂奔の中にあったわけじゃない。

そうですね。何でも十把一絡げにするのではなく、どんなことでも丁寧に見ていかねばなりませんね。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-02-22 19:49) 

lequiche

>> ゆうのすけ様

プッシュしていたわりには売れなかった、
ということなんですね?
そうだったんですか。とても参考になります。
微妙にトレンドとズレていたのでしょうか。
今聴くととても良いんですが。

今回の場合はLPジャケットが先です。
ヴィジュアル先行です。
といっても本人の顔とかじゃないのが屈折してますが、
ジャケットでビビッと来ることはよくあって、
でも賭けですから失敗も当然あります。(笑)
ジャズレーベルでECMという会社があるんですが、
ここのジャケットはどれも美しいので
ホントは全部欲しいんですがさすがに無理ですね。
たぶん全部持っているマニアっているだろうなと思います。

須藤薫さん、名前は知っていましたけど
どんな歌手だったのかは今回聴いて初めて知りました。
イメージしていたのとちょっと違ってました。(^^;)
それからあわてて上記のCD2点も買ったんです。
シングル・コレクションというベスト盤もあるんですが、
それも買いたいと思っています。
〈恋のビーチドライバー〉も収録されていますね。

超メジャーな歌手より、
ちょっとマイナーな歌手のほうが私は好きみたいです。
杉真理さんもほとんど知らなかったんですが、
今聴いてみるといいなぁと思います。
by lequiche (2022-02-23 01:56) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

お褒めいただきありがとうございます。
ところどころ体言止めにしたのは山尾悠子の真似。(爆)

BOOK OFFは安いのかもしれませんが、
正直にいえばああした店は文化破壊ですね。
新しい本、わかりやすい本にしか価値がないという評価で
知的なレベルがゼロですから。
本以外にも種々のものを扱っていますが、
良いものもジャンクも同列になっていますので
ある種の 「蚤の市」 なのかもしれないとは思います。

「引っかかってくる」 というのはつまり動物的 「勘」 なんですが
経験値が高くなれば、勘はかなり正確になります。
幸いなことにあまり高価なものは滅多に引っかかりません。

しおこうじフォーク村というのは知りませんでした。
面白そうです。まぁ坂崎さんですから。
大瀧詠一が杉真理と佐野元春でトライアングル vol.2を作ったのは
たまたまだったのかもしれませんが、今から考えると慧眼というか、
そういう人選ができたのはすごいなと思います。
杉真理は山下達郎のようにはビッグネームではないですが、
変わらない美学みたいなのがあって、
瑞々しいという形容はまさにその通りです。

LPという30cm角のジャケットというのは
日常性の中ではちょっと大きいなという感じがします。
生活感覚的にはA4判のファイルくらいが許容限界ですが、
LPジャケットはそれよりも大きい。
そのやや違和感のある大きさが良いんだと思います。

バブルの時代は諸悪の根源みたいな言い方もされますが、
たしかに大雑把で悪い面も多いですが、
逆にそのゆるやかさ、縛りのないところでできた
プロジェクトというのもあったのではないかと思います。
今の日本の現状はちまちまとし過ぎていて、
まさに吝嗇のきわみです。
by lequiche (2022-02-23 02:55) 

coco030705

このジャケットを観て、え!何このセンスのいいジャケットは。と思いました。とても懐かしい風景のように感じました。
須藤薫さんは知らなかったのですが、ユーミンともジョイントコンサートをしたのですね。工藤さんの歌を聴くと、ユーミンの曲の雰囲気とよく似ているので、ユーミンも影響を受けた人なのだなと思いました。
のびやかな声で歌がうまいし、メロディーもすばらしい。
BEST COLLECTIONの1曲目、演奏が豪華(?)でいい歌です。2曲目の杉真理とのデュエットも素敵。
ゆっくり聴きたい音楽ですね。
by coco030705 (2022-02-26 18:29) 

lequiche

>> coco030705 様

このジャケット、良いですよね。
思わずレコードを買ってしまったという動機を
わかっていただけてうれしいです。
アメリカン・グラフィティみたいにアメ車がカッコイイです。
このジャケットの裏面を画像追加しました。
もう少し引いた場所からのショットになっていて、
色合いも違っていて、これも凝ってます。
2枚目のTear-drops Calendarも良いかな、と思って
画像検索したのですが裏面はちょっと手抜きでした。(笑)

須藤薫さん、私もよく知らなかったのですが、
聴いてみるとデジャ・ヴのような懐かしい感じがしました。
3人のジョイント・コンサートの音源は入手できませんが
もしもあるのなら聴いてみたいですね。
ユーミンよりも明るい雰囲気の曲が多いように感じました。
2曲目の〈噂のふたり〉でデュエットしているのは
つのだ☆ひろさんです。作曲もつのださんですね。
6曲目の〈あなただけI LOVE YOU〉は
メロディラインだけでおわかりになると思いますが
大瀧詠一の作詞作曲で須藤薫の一番のヒットソングです。
さすがベスト盤で、どの曲もきらきらしています。
by lequiche (2022-02-27 02:37)