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G.RINA《Tolerance》 [音楽]

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fnmnlのインタヴューの中で、アップされるムーヴィーは緑色が印象的だがなぜ緑色が多くなっているのか、という問いに対してG.RINAは、そもそも植物が好きだし 「圧倒的な緑と湿潤な空気」 がアルバムの受容とも繋がる気がすると答えている。湿潤な空気とはまさにこの国の気候の特徴に他ならない。

初めて〈i wanna know〉のMVを観たとき、思わず笑ってしまったのは、え、これでいいの? という素朴な印象に違いなくて、でもそれはたとえばFNCYの〈みんなの夏〉を観たときにも同様に感じたことなのだ。日本情緒とまるで合わない音楽形態のようでありながら、でもだから逆になんとなく何度も観て聴いてしまうという、半分ふざけた遊び心で、でも半分は本気というような、そこまで考えてるよなぁと思いながらも、その音と映像の乖離の半端なさにどうしたもんだろうと逡巡してしまうような、そういうのも含めてG.RINAの戦略にからめとられているのがくやしい (FNCYとはZEN-LA-ROCK、G.RINA、鎮座DOPENESSの3人のユニット)。

むしろ〈close2u〉なんかのほうがアジアン・テイストで一見なるほどと思うのだが、でも結局これって日本じゃないから、というところに落ち着く。いや、映像はどうでもいいのだ。どうでもいいのだけれど、やはりそれに引き摺られる。

で実は〈i wanna know〉の場合、引きつけられるのは冒頭に映される砂浜への波と、それにかぶさるディレイを通したトランペットのような、ECMのアルバムで良く聴く暗くて頽廃さを感じさせる音で、でもそれはすぐに裏切られる。その落差がむしろ心地よい。このローカルな、避暑に来たついでに撮ってみましたみたいなチョロい画像は、実はそんなにチョロくない。
妙に事象から離れて客観的に風景を見ているというような、引き籠もった心象風景の具現化のようでもある。

映像でいうのならばFNCYの〈みんなの夏〉のようなオワライぎりぎりみたいなビールを飲むカットと、山下達郎のカセットテープ (RIDE ON TIME, FOR YOU, Melodies) とサンヨーのラジカセという瞬殺的なショットが、まるでキンチョーの 「日本の夏」 CMを連想させてしまうほどに日本を醸し出す。ああ、これでいいんだ。

G.RINAは《Tolerance》発売時に、FNCYも一時休止があったことを語り、そして昨今の 「荒んだ風潮」 について、

 人をジャッジするっていうことは自分もジャッジしてしまうっていうこ
 とで。それは自分の身の回りで起こったことに限らず、いろんなことで
 そう感じて。SNSにしろ何にしろ、とにかくみんな断罪したがるけど(笑)、
 TVに映ってる人でもアーティストでも誰でも、みんな生活とか人格があ
 って、何を言ってもいいわけじゃないっていうか。人を傷つける過激な
 言葉が簡単に放てるからこそ、それは絶対自分に返ってくるし。だから、
 優しさも巡り巡って自分への優しさになるっていうか。そうやって世界
 を見る時にもう少し寛大になることが自分への寛大さにも繋がるから、
 もっと優しさで世界を見れないかなって。(bounce 451号)

と言う。ナイフはものを切ることにつかう道具だが人を傷つけることにも使える。言葉も同様で、人を優しく包むこともできるが、人を傷つける凶器にもなりうる。

で、つまりラップなんてそんなにむずかしく考えなくてよいし、わかりやすいこと、クリアなこと、その中にひっそりとした、しれっとかすかな哀愁があることがtoleranceを際立たせる。そう。どこまでならOKなの? ということなのだ。ぶっちゃけていうのならば。


G.RINA/Tolerance (ビクターエンタテインメント)
Tolerance




FNCY/FNCY BY FNCY (キングレコード)
FNCY BY FNCY




G.RINA/i wanna know feat. 鎮座DOPENESS
https://www.youtube.com/watch?v=vlXgpFc63tA

G.RINA/close2u (2021REMIX) with Kzyboost
https://www.youtube.com/watch?v=1yeFRuntIDQ

FNCY/みんなの夏
https://www.youtube.com/watch?v=m6HTFFj1wyU
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末尾ルコ(アルベール)

わたしも植物が好きで、最近またもっと好きになってきていて、確かに以前はフラワーデザインなどやっておりましたが、当時よりも今の方が切り花を中心に花を愛し始めている感があります。とは言え我が家の庭は雑草によって民家にしては緑が好き勝手に伸び放題で、しかし雑草にも美があるはずなのでいかにそれらと共生していくかとか、無理矢理考えたりしております。
リンクしてくださっているG.RINA、そしてFNCY、視聴させていただきました。愉しいですし、とにかく気持ちいいです。そして以前lequiche様がおっしゃってくださった、「怒りのないラップがあってもいい」というお話が実感を持って理解できる感じです。もちろん鈍すぎる感覚による無神経な歌詞はいただけませんが、今回聴かせていただいた曲は、緩いようだけれど十分な緊張感がある、そんな気がいたしました。
そうですね。ラップでもロックでも、あるいはその他、外国由来の音楽を日本人がやっていく上で大きな示唆を与えられる音楽性と歌詞、あるいは映像だなと感じました。外国人の通りやっても仕方ないですからね。

>山尾悠子の真似。(爆)

いつも様様な文章の試みをしておられ、本当に刺激的です。毎回ワクワクです。そして「ワクワク」こそ人生の最も大切なことの一つ。

>経験値が高くなれば、勘はかなり正確になります。

わたしそれとですね、そのような「観」にどこか少しでも神秘的なサムシングを感じられたらと、まあこれは単なる素朴な願望に過ぎないのですが。
>やや違和感のある大きさが良いんだと思います。

なるほどです。そしてそうした「違和感」が日常生活、ひいては人生の中でとても大切ですよね。

NHK BS『玉置浩二ショー』の小室哲哉と坂本美雨が出演している回を観たのですが、坂本美雨の歌、凄いです、やはり。「美雨」とはよく言ったもので、まるで天空から降り注ぐ美しい声の雨音のような、ちょっとこの世離れした歌唱ですね。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-02-26 20:30) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ラップという音楽形態を考えた場合、
英語と日本語ではその言語の基本的構造が異なりますから、
並列して考えることは無理なのではないか、
とこの前、大和田俊之の本を読みながら思ったのです。
前述の本はアメリカの現状がよくわかる内容で、
特にケンドリック・ラマーの章など面白く読んだのですが、
ある程度の英語の素養がないとラップは無理です。
解説を読んで分かってもそれは分かったことにならなくて、
そのへんに言語の壁があるように感じました。
これはロックは日本語ではできないというような
その昔の論争みたいなことと同じであって、
でも日本語には日本語のラップがあると思うのです。
それがたとえばG.RINAとか鎮座DOPENESSであり、
以前の記事に書いたDiggy-MO’など、
日本語なりの方法論が当然存在するはずです。

FNCYはふざけているみたいな印象もありますが、
実は屈折したソフィスティケイトであって、
怒りもストレートに出てくるのではなく
でも単なるノーテンキかというと全くそうではないわけです。
上記記事に引用したG.RINAの言葉も
まさに今のネットの短絡的な反応への批判であって、
ネットは誰でも発言できるという自由さと引き換えに
幼稚だけれど強引で声の大きな者が跋扈するような
劣化した世界になってしまいました。

文章というのは言葉を重ねていくだけではなくて
そのリズムとか音感も大事なのではないかと思います。
最近は音読ということがあまり行われないようですが、
声に出してみたときの耳からの感覚も
大切なのではないかと考えていて、
それが最近の詩歌への興味へと繋がっているようです。
たとえばブルトンの『シュルレアリスム宣言』は
その音韻まで翻訳で移すことができません。
でも宣言の冒頭で最も重要なのはあの音なのです。
朗読するための文章といってもよいです。
それは『溶ける魚』などでも同じで、
自動記述などという方法論はまやかしで
もっと緻密に作られている作品のはずだと思います。

勘に関しては単なる自己満足あるいは
自己過信なのかもしれませんが、
特に詩歌などですと今、かなり多くの詩歌集が出ていますが
ぱっとページを開いて幾つか読めばわかりますよね、
それが買うに値する本か否かということが。
音楽でも同じことで、YouTubeという便利なものがあるので
それで検索して何曲か聴けばその傾向がわかります。
買うべきか否かを決めるのに有効です。

坂本美雨の声は母親ゆずりのものだと思います。
でも矢野顕子より、もっとピュアで透明感がありますね。
美雨という名前は坂本龍一が付けたもので
ミウという音はミュータントのミウらしいです。
ところが母親は 「うんこ」 と付けようとしていたという
有名な話がありますが、果たしてホントなのかどうか
微妙だと思えてしまうところがさすが矢野顕子です。
by lequiche (2022-02-27 03:22)