SSブログ

渡辺貞夫を聴く [音楽]

SadaoWatanabe2022_230903.jpg

YouTubeで日野皓正の演奏を検索して聴いていた。日野皓正は今年80歳だがそのブロウは相変わらずスリリングである。しかしそうして探していると、サイドの検索候補に渡辺貞夫が上がって来る。渡辺貞夫は1933年生まれだから今年90歳。聴いていると昔のマイ・ディア・ライフの放送録音なども含め、ハードなのからソフトなものまでヴァリエーション豊富だ。

最近の演奏だとブルーノート東京の2021年のライヴ〈BOP NIGHT 2021〉がここちよい。4管の厚みのある流麗なバックに乗るアルトのリラックスしたスウィング感が出色である。ピアノの小野塚晃のソロも品があって美しい。→1)
あるいは同じブルーノート東京における2022年のブラジル・テイストのライヴ〈SAUDADE TO BRAZIL〉。ナベサダのブラジル風味には定評があるが、まさにジャズというよりイージー・リスニングなサンバの響きの気持ち良さで身体が揺れる。この演奏における楽しさはマルセロ木村のギターとユニゾンする口笛のソロで、ギターのシングルトーンの美しさとそれに絡むピアノ、ドラム。最後にメンバー全員がメロディを歌うところなど、この曲のテーマから醸し出されるメロディの懐かしさのようなものはなんだろうか。→2)

もう少し前の演奏だと2005年のチャーリー・マリアーノとの〈Tokyo Dating〉を聴くことができる。チャーリー・マリアーノは2009年に亡くなっているのでかなり晩年の演奏と言ってよいだろう。→3)
チャーリー・マリアーノはもちろん穐吉敏子の以前の夫であり、つまりMonday満ちるの実父である。そして当時のバークリーでメソッドを学び、ここでジャズを学べと渡辺貞夫を呼び寄せたのが穐吉である。
かつてのキャンディッド盤〈Toshiko Mariano Quartet〉はフレッシュ・サウンドで再発されていたが、昨年、Solidレーベルで国内盤として再発になった。若き日のチャーリー・マリアーノと穐吉を知るには好適なアルバムである。

だが、ビ・バップの演奏バリバリを聴くのならもう少し時代を遡るしかないように思える。1999年の〈Kirin The Club〉における演奏。メンバーがすべて日本人ではないこともあいまって (pf: Cyrus Chestnut, b: Roland Guelin, ds: Rodney Green, tp: Terell Staford)、バップ・テイスト全開のソロを聴くことができる。→4)
もっとも、バップ・テイストということでいうのならば、もっとずっと遡った1969年のアルバム《Dedicated to Charlie Parker》の〈Au Privave〉が最も有名だろう。1969年3月15日の銀座ヤマハホールにおけるライヴであるが、渡辺貞夫はリズム隊も無しで延々とソロで吹きまくってしまい、その後に日野皓正のソロが続くが、最後はナベサダが簡単にテーマをワンコーラス吹いて終わりという、曲構成としては破綻している演奏である。ただ、この神がかった演奏は最もすぐれたインプロヴィゼーションのひとつといってよい。→5)


1) 渡辺貞夫 BOP NIGHT 2021
Blue Note TOKYO live 2021
https://www.youtube.com/watch?v=QbpNYr-v7J4

2) 渡辺貞夫 SAUDADE TO BRAZIL
Samba Da Volta, Blue Note TOKYO live 2022
https://www.youtube.com/watch?v=3SI6dskFI40

3) 渡辺貞夫&チャーリー・マリアーノ/Memorias
Tokyo Dating 2005
https://www.youtube.com/watch?v=ID2QU3GwD1E

4) 渡辺貞夫/Ko Ko
from 1999 Kirin The Club
https://www.youtube.com/watch?v=-J5x5SsxfdU

5) 渡辺貞夫/Au Privave
live at Ginza Yamaha Hall 1969.03.15
https://www.nicovideo.jp/watch/sm17892545

《参考》
渡辺貞夫/I’m Old Fashioned
from 1991 Kirin The Club
https://www.youtube.com/watch?v=RImZlu9Xfk8
nice!(73)  コメント(10) 
共通テーマ:音楽

nice! 73

コメント 10

mitu

音楽やジャズのことよくわからない私でさえ、渡辺貞夫さんの音楽を聴くと好い気持ちになります
お気に入りのCDの中のフルートを演奏している曲も大好きなんです♪
by mitu (2023-09-03 06:57) 

末尾ルコ(アルベール)

日野皓正80歳、渡辺貞夫90歳ですか。凄いし、本当の意味でカッコいいですね。そして二人とも昭和の時代からジャズファンでなくてもその名を知っていたメジャーな存在でした。そんなポジションにいる人も今ではあまり思いつきません。上原ひろみもこと知名度ではこの二人ほどではないような気がします。
日野皓正は5月に『ディア・フレンズ』に出演していました。本当の意味でカッコよかった、その話しぶりも。
リンクしてくださっている動画、概ね視聴させていただきました。どれもすばらしくて、わたしとしては特に、「SAUDADE TO BRAZIL」の心地よさ、そしてビ・バップの演奏に陶然といたしました。渡辺貞夫90歳、ますます凄い演奏をしていただきたいです。

ヴァーチャルの美空ひばり、個人的には心底嫌でした。そもそも美空ひばり本人の歌唱と葉程遠くわたしには聞こえたのですが、天童よしみなど関係者が泣かんばかりに「ひばりさんが蘇った!」とか言うもんだから、わたし一体どういう国に住んでいるのか理解し難かったです。
「幼稚化」というのはメディアによって国民が幼稚化したのは間違いないですが、現在はメディアがその幼稚化を利用しているのか、それともメディア事態も幼稚化しているのか、まあ両方だとは思いますけれど。

テオ・アンゲロプロスの『旅芸人の記録』とエルマンノ・オルミの『木靴の樹』が同じ年に日本公開されたことは文化芸術の大事件としていまだ記憶に新しいです。『ブリキの太鼓』や『ベルリン 天使の詩』などもそうですが、東京のミニシアターでムーヴメントを起こしている映画は高知の田舎へも届いてきていました。今は昔ですが。
アンゲロプロス、初期作品からじっくり観たいです。RUKO


by 末尾ルコ(アルベール) (2023-09-03 20:20) 

英ちゃん

渡辺貞夫さん、まだ現役なのか?
by 英ちゃん (2023-09-04 00:28) 

ゆうのすけ

あ~最近聴いてないな。
1960年代末くらいの作品を機会があったら聴いてみたいなと
思ってるんですよね。渡辺貞夫さんが作られた「白い波」という
作品がとにかく好きなんですよね。ヒデとロザンナのヒデさんこと
出門英さんが それ以前に ユキとヒデというユニットで歌われて
いた激甘のボサノバ調で 後にヒデとロザンナでもカヴァーしたの
ですが それが若かりし頃の渡辺貞夫さんの作品なんですよね。
その頃のオリジナル作品を聴いてみたい。^^
by ゆうのすけ (2023-09-04 01:08) 

lequiche

>> mitu 様

「好い気持ち」 になること、
まさに音楽の醍醐味であり楽しい部分ですね。
フルートの音色も心を安らかにしてくれますし、
明るい気持ちになれるような気がします。
by lequiche (2023-09-04 03:44) 

lequiche

>> 末尾ルコ様

ジャズに限らず現代の音楽は細分化されていますので
昔のようなビッグネームは出て来にくいように思います。
渡辺貞夫、日野皓正、ともにカリスマ性を維持していますし
まさに円熟味のある音楽という形容にぴったりです。
リンクした演奏の中では1965年のライヴ・アルバム
《Dedicated to Charlie Parker》に収録されている
〈Au Privave〉が最も尖った演奏だと感じます。
このとき、ナベサダは36歳、日野皓正は26歳ですが
ナベサダの演奏に日野が加わろうとしても
入れてくれません。
この何者をも寄せ付けないパワーがすごいです。

天童よしみはそんなに耳が悪いわけないですから
おそらくNHKに言わされたのだと思います。
もしヴァーチャルに自信があるのなら再登場があっても
よいはずですが、その後、続・ひばりはありません。
ですから単なる話題作りだととらえてよいと思います。
もっともAIは進歩していますから、
そのうちもっとリアリティを増したものが
出てくるかもしれませんが、それはいわゆるイタチゴッコで
仕方がないです。手柄が欲しいんですね。

岩波ホールのEquipe de cinémaは
まだ岩波書店というブランドが力を持っていた頃で、
今、そうした力は無くなってしまいました。
文化は根絶やしになってしまったので
もう日本が文化や芸術を存続していけるのかどうかは
わかりません
by lequiche (2023-09-04 03:44) 

lequiche

>> 英ちゃん様

もちろん現役です。
今年もオーチャードホールで
渡辺貞夫オーケストラによる
クリスマスコンサートがあります。
by lequiche (2023-09-04 03:45) 

lequiche

>> ゆうのすけ様

ユキとヒデの〈白い波〉のオリジナルはYouTubeにありますが、
渡辺貞夫の演奏はこれですね。1967年です。
https://www.youtube.com/watch?v=NzWKBLDpsAE

これ以外にもライヴでのレコーディングもあります。
この時期はかなりブラジルに入れ込んでいた頃で
ボサノヴァ系のアルバムが多いです。
その後、1970年の《Round Trip》を経て、
しばらくアフリカ系に傾倒して
それからグレート・ジャズ・トリオとの共演があります。
私の最初の渡辺貞夫のLPは友人から譲ってもらった
《I’m Old Fashioned》という1976年のアルバムでした。
下記は最近の再発盤ですが。

渡辺貞夫/I’m Old Fashioned
https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/4571177053084
by lequiche (2023-09-04 03:45) 

英ちゃん

芸術家(音楽も芸術だから)の人たちは死ぬまで全うする人が多いよね。
ぁぁ、腰お大事に。
実は私も慢性的な腰痛なんだよね(^_^;)
なので重い物を持ったりかがんで作業したり出来ないんだよね。
by 英ちゃん (2023-09-04 16:59) 

lequiche

>> 英ちゃん様

クラシックの指揮者は長命の人が多いと聞きます。
頭がボケないのかもしれないですね。
ジャズ・クラリネット奏者の北村英治さんは94歳ですが
お元気でライヴをされています。
by lequiche (2023-09-09 11:27)