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ヒラリー・ハーンのサラバンド [音楽]

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Hilary Hahn (HMV onlineより)

「サラバンド」 というワードを検索していた。何となく、ということではなくて、メディアが入手しにくかったイングマール・ベルィマンの作品の中から、7月に《野いちご》と《第七の封印》が突然のように (突然ではなかったのかもしれないが私にとっては突然に) ブルーレイで発売されて、でもこれは高価過ぎると逡巡しながらあれこれとベルィマン・ワードを検索していたのである (《サラバンド》Saraband, 2003 はベルィマン最後の作品タイトルである)。
ベルィマンは以前、DVDが投げ売りされているときに数枚買ってはいたのだが、すでに品切れが多くて全部は買い切れなかった。確か《秋のソナタ》(Höstsonaten, 1978) と《冬の光》(Nattvardsgästerna, 1962) は買ったと思うが、今、どこにあるのかは不明だ。

そして 「サラバンド」 の検索でヒットしたのがヒラリー・ハーンの弾くバッハのサラバンドだった。もっともハーンの弾くサラバンドはバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータのサラバンドであり、ベルィマンの《サラバンド》に使われたのは無伴奏チェロだから直接的な関係性は無い)。

ハーンのアルバムは昨年の《Eclipse》というタイトルの下に弾かれたドヴォルザーク、ヒナステラ、サラサーテに続いて、今年7月にリリースされたのがウジェーヌ・イザイの無伴奏ソナタである。ハーンはイザイの孫弟子にあたるわけであり、そして私の偏愛するセザール・フランクのソナタはイザイに献呈された作品であるが、そのイザイがバッハの無伴奏へのリスペクトとして書いたのがこの作品27の無伴奏である。イザイと、そしてバルトークの無伴奏はいずれもバッハへの敬愛であり挑戦であるが、バッハの強大な構築性の前では無力なのかもしれない。
ヒラリー・ハーンのYouTubeチャンネルでイザイの全曲を聴くことができる。

YouTubeで見つけたハーンのサラバンドは、おそらく2023年2月24日のフランクフルト・ラジオ・シンフォニーのコンサートでプロコフィエフのコンチェルト1番を弾いたあとのアンコールとして弾かれたものだと思われる。ハーンは拍手に応えてさりげなく弾き出すがステージとオーディエンスの距離が近くて親密で良いホールである。一瞬にしてバッハの世界に引き込まれる魔のときが記録されている。
尚、その日のメインであるプロコフィエフのコンチェルトの動画もYouTubeにある。指揮は2021年からの首席であるアラン・アルティノグリュ。プロコフィエフ1番には駒近くを弾くスル・ポンティチェロという破壊的奏法があるが、ハーン自身が1番と奏法について解説している動画もある。
そしてフランクフルト・ラジオのYouTubeチャンネルには優れた演奏動画が多いのでお勧めである。

プロコフィエフといえば今年、ワーナー系の音源を集めたCD36枚組のボックスが発売されたがちょっと欲しい。でも、これ全部聴かないよなぁとも思ってしまう。それよりも今年の超弩級ボックスは La Divina/Maria Callas in all her roles というマリア・カラスの135枚組で、単純に場所とりだけど、でも今までに出たなかでは一番完璧なセット。ファンのかたは是非お買い求めください。


Hilary Hahn/Ysaÿe: Six Sonatas for Violin Solo op.27
(Universal Music)
イザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 作品27 (通常盤)(UHQCD(MQA))




Hilary Hahn/Eclipse (Universal Music)
エクリプス (UHQCD/MQA)(特典:なし)




Hilary Hahn/Bach: Sarabande (Partita No.1 for Solo Violin)
https://www.youtube.com/watch?v=5XzZudf5LJ0

Hilary Hahn, Alain Altinoglu, Frankfurt Radio Symphony/
Prokofiev: Violin Concerto No.1 in D major, op.19
https://www.youtube.com/watch?v=x3OFoMvqjtc

Hilary Hahn/Prokofiev’s Violin Concerto No.1 in a nutshell
https://www.youtube.com/watch?v=015QVOO-5Ek

Hilary Hahn/Ysaÿe: 6 Sonatas for Violin Solo, Op. 27
https://www.youtube.com/watch?v=Mz71f4cCNSA&list=OLAK5uy_m5gUptkeUI5_l_a8LdS7lXux9xzDktUN0

Hilary Hahn YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCI9pm8WplvpIN8uKpoxcXaQ

hr-Sinfonieorchester – Frankfurt Radio Symphony YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/user/hrsinfonieorchester

Hilary Hahn/Bach: Allegro Assai (Sonata No.3 C Major)
https://www.youtube.com/watch?v=UXDVB-glRKw
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kiyotan

ベルイマンの映画は昔よく見に行きました。
もう一度見たいと思う時もありますがレンタルビデオ
屋にないかも。
by kiyotan (2023-09-09 11:10) 

lequiche

>> kiyotan 様

それはすごいです。
私はDVDで観たほうが多いかも、です。
完璧な映像美といわれますが後期はやや衰えたような気もします。
それにヘヴィーですよね。
レンタルにはあまり無いのでは?
何とも言えませんが。
メディア自体の販売も品切れとか廃番が多いです。
今回の再発はきれいなんでしょうけど高過ぎ! (^^;)
by lequiche (2023-09-09 12:23) 

末尾ルコ(アルベール)

なにせ「魔のとき」。このフレーズを見ただけでわたし、心も体も興奮の絶頂、陶然と詩的世界の中に没入してしまいます。もちろんわたし自身もこのフレーズ、時に使いますけれど、lequiche様がお使いになるとまたひとしおなのです。
そう、優れた芸術は必ず「魔のとき」を現出させるもの。前にいただいたコメントで、「人生応援歌」的な日本歌謡について言及しておられましたが、まさに「魔のとき」とは対極にある表現だとつくづく思います。それと幼児性ですね。
なのでヒラリー・ハーンの「サラバンド」、何度も視聴しちゃいました。リンクしてくださっている他の動画もじっくり愉しませていただきます。
ヒラリー・ハーンはまだ40代なのですね。ずいぶん貫禄ができてカッコいいです。

ベルイマンはモノクロ作品も大好きですが、『叫びとささやき』を初めて観た時はぶっ飛びました。あの「赤の氾濫」、そして映画自体すごくおもしろいんです。ベルイマンと言えば難解映画の代名詞的存在であり、それはそれで間違いないのでしょうが、「難解だけどおもしろい」という映画の強みをも内包している映画作家なのだなあと強く認識しました。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2023-09-09 21:23) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

確かに貫禄があるかもしれませんね。
上記本文にリンクしたソナタ3番のアレグロは
かなり若い時の演奏と思われますが、
鋭いですけれどさすがにまだバッハの深みは出ていません。
さらにもっと若い頃の演奏を発見しました。
パルティータ2番のジーグですが、
闇雲にこの速度で弾いてしまうという
怖い物知らずな面が感じられます。
画面下の説明文によれば15歳のときの演奏とのことです。
https://www.youtube.com/watch?v=upkP46nvqVI

ちなみにその後、彼女が録音した同曲はこんな感じです。
速度的には落ち着いていますね。
https://www.youtube.com/watch?v=YE5IkQP5xA4

もっといえば、別の奏者の演奏ですが、
このジーグはこのくらいの遅い速度でも全然構いません。
むしろこのほうがバッハの滋味が出るかもしれないです。
https://www.youtube.com/watch?v=Jv9ofibOSpo

《叫びとささやき》に使われている曲も
バッハのチェロ組曲第5番のサラバンドですね。
つまりサラバンドという様式は、
一定の物憂さというかちょっとけだるい舞曲というふうに
とらえることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=PiUJ2b8pjc8&t=8s
by lequiche (2023-09-12 03:34)