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ビートルズ〈Now and Then〉を聴く [音楽]

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The Beatles/Now And Then (Official Music Videoより)

ビートルズ最後の曲として公開された〈Now and Then〉を聴く。
音源はカセットテープに残っていたのだがピアノの音が大きくて歌声を分離するのはむずかしいといわれていたのだという。だが技術が進歩し、今回、ジョン・レノンの声だけを抽出することに成功した。それに他の音を被せて曲として作成したとのこと。
その話を聞いたとき、また変なものを作ったのではないか、と眉唾な印象があったのだが、聴いてみたらびっくり。そしてまだ発表されて間もないのに、それに対する解説や批評がネットにあふれているのも驚きである。というより、やはりそれだけの対象となりうる楽曲なのだろう。なぜならそれこそがビートルズだからである。

特に楽曲に合わせて作成された動画が、新旧の動画が入り混じっていて、ところどころワザとスラプスティックっぽく構成されている個所もあったりするけれど、動画の編集技術のすごさに驚かされる。最後に画面がモノクロになり、若き4人の演奏風景が映し出される。お辞儀をして終わり、そして4人は消えてしまい、マイクスタンドとドラムセットだけが残るエンディングが美しくて悲しい。
これはつまりポールからのメッセージなのだ。これでビートルズは終わったのだ、と。

Short Filmのほうには、抽出されたジョンの声のみのトラックが収録されている (7:02〜7:27あたり)。「クリスタル・クリア」 な声。興味のあるかたは是非聴いて欲しい。
もっとも〈Now and Then〉というタイトルは、カーペンターズの最も有名なアルバムと同じであることを連想してしまう。よくある言葉ではあるのかもしれないが、最初にそれを知った時、ちょっと戸惑った。

YouTubeの 「みのミュージック」 というチャンネルの解説によれば〈Now and Then〉のジャケットは文字が斜め右上がりになっているが、その角度は、アルバム《プリーズ・プリーズ・ミー》や、あるいは《赤盤》《青盤》で使われている建物の手すりから顔を出している4人を下から見上げた有名な写真の手すりの角度と同じなのだそうである。

コード進行の解説では 「サッカリン 弾いてみたチャンネル」 が適切で細かくて参考になった。最初のAm→G6という進行は、G6をEm/Gとしている解説もあるが、音としてはまぁ同じであるからどちらでもよいとのこと。
その後、Am→Fmaj7→E→E7→Asus4→AmだがAsus4のときのメロディはd音なので、Aadd9が正解なのでないか、という。そしてオリジナルの歌唱でもジョンはAadd9を弾いているので、sus4を加えたのは現在のポールなのだ、と言い切っているのが素晴らしい。それ以後の転調の解説もわかりやすくて、最後の半端な小節数の収め方もまさにジョン・レノン・マジックというのがよくわかる。ざっと観たなかではここの解説が秀逸だった。

「David Bennett Piano」 でも、同じような分析をしているが (Am→G6もサッカリンと同じ解釈)、ベースとしている影響曲として〈Here, There and Everywhere〉〈Eleanor Rigby〉〈Because〉をあげている。これは多分に現在のポールの嗜好が反映しているともいえるが、もちろんレノン作の〈Because〉が重要である。
〈Because〉のC♯m→D♯m7♭5→G♯7→A→C♯m→A7→B13→D→Ddimの部分のD→Ddimと〈Now and Then〉のD→Dmという進行とは、その効果に共通性があると解く。
ただ、映像でポールはギターではG6を弾いているが、この曲でジョンはピアノを弾いていたのだから、G6の個所は、何となくだがEm/Gのような気がしないでもない。

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The Beatles/Now And Then (Official Music Videoより)

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ビートルズ最後の新曲「Now And Then」解説 (みのミュージックより)


The Beatles/Now And Then (Universal Music・国内盤)
ナウ・アンド・ゼン (生産限定盤)(SHM-CD)




The Beatles/Now and Then (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=Opxhh9Oh3rg

The Beatles/Now and Then ー The Last Beatles Song (Short Film)
https://www.youtube.com/watch?v=APJAQoSCwuA

     *

サッカリン 弾いてみたチャンネル/
【THE BEATLES】NOW AND THEN 徹底解説
【コード進行&歌詞】【隠されまくった秘密】
https://www.youtube.com/watch?v=6gD24IszlQc

みのミュージック/ビートルズ最後の新曲「Now And Then」解説
https://www.youtube.com/watch?v=gXpV8W9dH5Q

David Bennett Piano/
Comparing John’s demo to the final Beatles track
https://www.youtube.com/watch?v=Xk88M4ABo_4
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コメント 4

末尾ルコ(アルベール)

「Now and Then」、全英チャートで1位になったようですね。そして日本のネットでも続々と記事があげられている。まさにビートルズならではであり、そして常に潜在的にビートルズが求められている、どころか求められる強度が近年さらに上がっているのではないかとさえ感じます。それは最近わたしがかつてよりずっとビートルズの凄さを理解してきたから余計にそう感じているのかもしれませんが。
「Now and Then」の動画、ShortFilm、どちらも視聴させていただきました。どちらもおもしろい。哀切な美しさに満ちた楽曲と巧みにコラージュされた動画のおもしろさ。これは傑作ですね。そしてビートルズのメンバーのヴィジュアル的にもカッコいいこと。
「クリスタル・クリア」な声も聴きました。わたしの持っていた「クリスタル・クリア」のイメージとはやや違いますが、いずれにしても美しい。
「みのミュージック」の解説はまだ聴いてませんが、詳しい人の解釈はまた凄いですね。ビートルズ、汲めども尽きぬ音楽の源泉のような存在です。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2023-11-12 18:39) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

こうした動画を観てしまうと
AIもこき下ろすものだけではないな、と
少し反省したりします。
ドローンなどもその悪い点ばかりがクローズアップされますが
簡単に空撮ができることなどTVの映像からもわかりますし、
そうした技術は技術として評価しなければならないです。
今回の〈Now and Then〉の作成に
最も貢献したのがポールであることは間違いないですが、
ジョンとポールが不仲だったとか、いろいろ言われますけれど
そうしたくだらない雑音をクリアしてしまうほどの
圧倒的な説得性をこの曲は持っています。
動画の最後で4人のモノクロの演奏映像が映りますが、
生きているポールとリンゴが暗く影のように加工してあります。
こうした細かい技巧がポールの特徴ともいえます。

評論家や識者はいろいろ言うでしょうが、
そうした理論的なこと、下世話なことはどうでもよくて、
一番重要なのはこの曲から醸し出されてくる悲しみです。
それをどう感じ取れるかが大切だと覆うのです。
by lequiche (2023-11-13 02:58) 

coco030705

「Now and Then」聴かせていただきました。
lequiche さん、本当に有難うございます。ビートルズがよみがえるとともに、若かった時の色々な出来事も同時によみがえってきました。
懐かしく、感傷に満ちています。いい曲ですね。またビートルズを聴きたくなりました。ビートルズは永遠です!
by coco030705 (2023-11-13 23:41) 

lequiche

>> coco030705 様

こんな曲が出てくるとは思いませんでしたね。
驚くべき技術の進歩です。
ジョージ・マーティンというプロデューサーが
ビートルズのほとんどの曲を担当していましたが、
今回のプロデュースは彼の息子のジャイルズ・マーティンです。
そうやって仕事が受け継がれていくことに
深い感慨があります。

音楽というのは音楽そのものだけではなく、
それを聴いていた自分のそのときの状況や心情が重なって
より強い記憶として残ります。
それが音楽の特殊性であり、唯一無二のものです。
by lequiche (2023-11-16 01:10)