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なぜアクロイドにたのまなかったのか [雑記]

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アガサ・クリスティのミステリに出てくる探偵であるミス・マープルのフルネームは、ジェーン・マープルっていうんです。「そういうことかっ!」 っていうのはコナン君の口癖ですが、その意味はつまり 「いけねぇ、やられちゃった」 ということなんで、知らないというのはこわいことです。ジェーン・マープルってシャーリー・テンプルなんかと語感は同じなんですが、やるもんだなぁ〜 (ジェーン・マープルもシャーリー・テンプルも洋服のブランド名です)。だって若い女性用の服なのに、おばあさんの名前のブランド名なんですよ。

先日、といってももう随分時間が経ってしまいましたが、ソネブロのぼんぼちぼちぼちさんのオフ会に参加してきました。他の参加者のかたがたが、その日のことと、ぼんぼちさんの魅力についてはすでに詳しく書かれていますので、いまさらストレートにそれを書くのもどうかと思ったので、その日に考えていた妄想を書いてみます。ホントはミステリ仕立てにしようと考えたんですが、うまくできませんでした。ですので、以下はかなり謎な文章かもしれません。

新宿にはこのところあまり行ったことがなくて、ちょっと早めに出てぶらぶらしようと思って、でも実際にはそんなに時間がなかったので、すげー中途半端な時間になってしまいました。その日、ネットでF●rever21のサイトを見ていて (伏せ字になってないよ〜) たまには行ってみようかと思ったんですが、それは目的地にごく近い場所に店があるということもあったんですけど、でもいざ行ってみたらとても混んでいます。欲しいものが見あたらない……。
欲求不満なのでその後、某・一人勝ちデパートに行ってみたらここもすごい人の数。だって週末ですから。その時、この 「ごったがえし感」 は farce なんだと気がつきました。ディクスン・カーの得意な farce です。farce のダイレクトな意味はドタバタ喜劇のことですが、つまり意味もなくゴチャゴチャした雰囲気のところで事件が起こるという手法です。

ディクスン・カーのことはいいとして、クリスティですが、クリスティの一番有名なミステリは、たぶん『アクロイド殺し』なんじゃないかと思います。他にも幾つも有名な作品はありますけど、代表作としてだけでなくトリックの新奇なことで有名なんでしょう。
もし読んでないかたがいると申し訳ないのでどういうトリックなのかは書きませんが、すごい、やられちゃったというだけでなく、フェアじゃない! という意見もあります (wikiなどで調べると種明かしが書いてあるのは、もう誰でも知っているということなのかもしれませんが)。

かつて最も売れたミステリ作家といわれるヴァン・ダインには 「ヴァン・ダインの二十則」 というのがあって、正統派ミステリー作家であったヴァン・ダインは、これはやっちゃいけないあれもやっちゃいけない、という規則を作っていて、アクロイドはその禁忌に該当するんです。
アクロイドの場合は、いわゆる 「信頼できない語り手」 unreliable narrator というカテゴリーになるんですが、これを最初に考えたのはやはりすごいので、でも難点はトリックの方法として同一の作者では1回しか使えないことです (2回やったらバカです)。でも、だめだだめだ、と言われながら結局追従者がいっぱいいますけれど。
farce に似た言葉で false (ニセの、不誠実な) というのがありますがアクロイドはこれです。

江戶川亂步なんかはどう考えているのか調べてみたら、アクロイドはクリスティの代表作って書いているので、ちょっとびっくりしました。こんなの卑怯だっていっているのかと勝手に想像していたんですが、そうではなかったです (『海外探偵小説作家と作品』早川書房・1957年。但し参照したのは再刊本)。
昔の本ですが、知ってる人は知ってるサザランド・スコットという人の推理小説論でも、彼はアクロイド肯定派でした。

確かにフェア/アンフェアっていうのは見識のように見えてそうじゃなく、つまりミステリは読者を欺せれば何やったっていいんですよ。一種のゲームなんですから。キタナイとか卑怯っていうのは負け惜しみなんであって、コナン君の 「そういうことかっ!」 ってうのも負け惜しみなんです。実際には規則を作ったヴァン・ダイン本人が自作でそれを破ってますし。

スコットの翻訳をした長沼弘毅は本職は大蔵官僚でシャーロキアン (シャーロック・ホームズ研究家) なんですが、亂步の上記の本を読むと、長沼弘毅以前の日本でのホームズマニアな話題が出ています。
コナン・ドイルのホームズ・シリーズには Baker Street Irregulars という、ホームズの手下の実行部隊が出てきますが、日本のホームズ好きのための 「ベーカー街不正規隊日本支部」 というがあったのだそうで、Irregulars を不正規隊と訳出してしまうのがいい味を出しています。
それでその支部の、いわばニックネームみたいなのが Baritsu Chapter というのだそうで、支部にあたる言葉もブランチといわずチャプターというのだそうです。そのほうが古風なんだとのこと。
バリツというのは、ホームズの中に出てくる2つある日本語のひとつで、たぶん武術という言葉を誤ってバリツと書いてしまったのではないかということなんですが、それが面白いからそのまま名称に付けてしまうというアイデアです。

江戶川亂步という人はちょっとアブノーマルっぽいミステリ作家みたいに思われていますが、その読書量は半端じゃなくて、しかも海外ミステリはほとんどすべて原書で読んでるんですね。その頃は翻訳もなかったでしょうけれど、なにより亂步は英語力があったんだと思います。
この本の巻末にあるミステリ本リストを見ていると、レイモンド・チャンドラーの The Long Goodbye (長いお別れ・1954) なんてこの頃 (1957年) はまだ翻訳されていないようです。

つまり亂步のアブノーマルはアブノーマルな思考から出てくるんじゃなくて、実はかなり冷静な構成力をベースとしてるように思えます。それと怪人二十面相などのジュヴナイルを読んでると、東京の阿佐谷とか荻窪あたりは当時はド田舎なんですね。だから妖魔の出る環境なわけで。

新宿という街に私が一番フィットすると思うのは椎名林檎の〈歌舞伎町の女王〉と馳星周の『不夜城』なんですが、もうそんな新宿はありません。すでに過去に失われた幻想です。
確か『不夜城』の中に、初めての人に会うときに目印なんかなくてもしっかりと相手を観察すればたとえ雑踏の中でもわかるだろ、みたいな場面があって、これカッコイイんですよね〜。でも言われてみるとそんな気もします。といって、いつでもそれができるわけじゃないですし。先入観が邪魔するってこともあるので。
でも映画の山本未來の夏美はちょっと違うような気がする……まぁお好みですけどね。

ここで唐突にコナン君に登場してもらうと、つまりコナン君は、ヒントがありながら見落としてしまったわけで、それはたとえばバーキンの黄色いサングラスだったりするので、いいところまでいっていたんですが、潜在意識の中で選び出しておきながら無自覚だったので、それがキーワードとして使えることに思い至りませんでした。「そういうことかっ!」 ってことです。
そう。ミス・マープルもバーキンもファーストネームはジェーンなんです。

梶井基次郎っていうのは檸檬の作者ですが、そのイメージで作者の写真を見ると 「えっ?」 っていうようなちょっと意外だなぁ、みたいなリアクションをしてしまいそうになります。私はそうでした。(なんて失礼な!)
最近、三省堂なんかでベストセラー本を積み木のように大量に積みあげてディスプレイしていることがありますね。あれ、下のほうから抜いたらどうなるんだろ? って思ってしまいます。さすがに実行はしませんけど。そんなにチャレンジャーじゃないので。

 見わたすと、その檸檬の色彩はガチヤガチヤした色の階調をひつそりと
 紡錘形の身體の中へ吸收してしまつて、カーンと冴えかへつてゐた。私
 には埃つぽい丸善の中の空氣が、その檸檬の周圍だけ變に緊張してゐる
 やうな氣がした。私はしばらくそれを眺めてゐた。
                        (梶井基次郎 「檸檬」)


アガサ・クリスティー/アクロイド殺し (早川書房/文庫)
アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)




馳星周/不夜城 (角川書店/文庫)
不夜城 (角川文庫)




椎名林檎/無罪モラトリアム (EMI Records Japan)
無罪モラトリアム




梶井基次郎全集 全一巻 (筑摩書房/文庫)
梶井基次郎全集 全1巻 (ちくま文庫)

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ぼんぼちぼちぼち

梶井の写真には、あっしも作品世界とのギャップを感じやした。
昨日、神田古本まつりで 近代文学について書かれているものを買って読んだら
その著者も、やっぱり同じことを書いてやした。
みんな思うんだなぁ~(◎o◎)
by ぼんぼちぼちぼち (2014-10-31 18:28) 

lequiche

>> ぼんぼちぼちぼち様

ヤンキースの田中将大っぽい雰囲気がありますね。
でも宮澤賢治なんかも同じような傾向ですし、
昔の日本人の平均的な顔だったのかもしれませんけど。(^^;)
だから文学は顔じゃないんですっ!
そのギャップがカコイイんですよ〜、きっと。
by lequiche (2014-10-31 19:44) 

coco030705

アガサ・クリスティー/『アクロイド殺し』、面白そう!買ってみます。
梶井基次郎全集(ちくま文庫)を持っていたので、お顔を見てみました。なるほど!顔と文章のイメージが一致しませんね。この人、宇野千代と付き合ってたようですね。(下世話な話ですみません)

宮沢賢治も、あの想像力に溢れた文章とは、ちょっと………。
才能と顔は関係ないんでしょうね。
by coco030705 (2023-11-06 21:17) 

lequiche

>> coco030705 様

古い記事をわざわざお読みいただきありがとうございます。
梶井基次郎に限らず、あの当時の文壇というのは
今よりも狭くて濃密で暴力的で、いろいろあったのだと思います。
現代の作家は作品に通じるそれなりのご容貌をお持ちですが、
昔はそうではなかったのでしょうね。
若くして亡くなったかたは残念ですが、
それもまたそのかたの運命だったような気がします。
by lequiche (2023-11-07 03:06) 

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