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Summer Night — 1964年のアート・ペッパー [音楽]

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Art Pepper 1964

アート・ペッパーはジャズ・アルトサックスのプレイヤーとして最も有名な一人であるが、チェット・ベイカーと並んで、薬禍の罠にはまったことで語られる人でもある。
初期の頃のインプロヴィゼーションは流麗で、チャーリー・パーカーとは異なる美しいメロディラインを持っていたが、後期にはそうした美学とは異なるアプローチになってしまったことでも知られる。

Fresh Sound Recordsから1991年にリリースされた《Art Pepper Quartet ’64 in San Francisco》は、ペッパーの麻薬中毒の空白期の中に存在する記録としては貴重だが、内容的には残念ながら絶頂期には遠く及ばない。でもそうしたプアな演奏でも聴きたくなってしまわせるほどの力を持っているのがアート・ペッパーの魔力である。

フレッシュサウンドのライナーによれば、前半のTV番組用のセッションが1964年5月8日、後半のサンフランシスコのジャズワークショップでのライヴが1964年6月とクレジットされている。
この前半部のTV番組《Jazz Casual》の動画をYouTubeで見つけた。この番組の別の日の他のミュージシャンの動画も幾つかupされているようで、そうした点ではYouTubeはありがたい。

アート・ペッパーの最も有名なアルバムは《Art Pepper Meets the Rhythm Section》(1957) であることは間違いないが、それにプラスして、ごく初期のXanaduの2枚のアルバム《A Night at the Surf Club》(1952) や《Surf Ride》(1952) あたりが愛聴するのに耐えうる内容であって、後はどうでもいいと思っていた時期もあった。
アルチュール・ランボーと同様に、ペッパーはごく若い時期にその輝きが限られることは確かなのだが、でもその後の音だって、そんなに悪くないと思うようになったのは、きっと私が齢をとったからなのに違いない。切れ味の鋭い音ばかりでは疲れてしまうという意味でもある。

この1964年のサンフランシスコの音は、どちらかといえばすでに後期に属しているのだが、でもまだ生硬で、緊張していて、演奏のクォリティとしてはペッパーの歴史の中ではかなり低い。だが、ペッパーの外見は、薬に蝕まれて崩壊していく前段階であり、やはり後年崩壊してしまったサンソン・フランソワの若い頃などと同様に、まだイケメンである。

アルバム後半のジャズワークショップにおける〈Summer Night〉は、ペッパーの歴史を俯瞰してから聴いたりするのでなければ、ちょっとゆるくて結構雰囲気がよくリラックスした演奏に聞こえる。サイドメンは3人とも、普通に2流だがその2流さ加減がかえって心地よい。
そう。単純にそのタイトルが夏の夜だったのでこのアルバムを聴き始めたので、そんなに深い必然性はなかったのだ。でも、ジャズは、誰でもが知っている名盤よりも少し崩れた佳盤か、2流のアルバムのほうがその音の籠められた時を確実に再生するし、それを聴いているときの記憶にも、より強く残るのかもしれないと思う。

〈Summer Night〉は、長めのピアノソロが終わってペッパーが還ってくるところなど、最初はほとんどメロメロで、なんだかよくわからない音が次第に組み立てられていくのだが、最後まで結局輝きは取り戻せないままな様子が、この1964年という年のペッパーをかえってくっきりと浮かび上がらせている。


Art Pepper Quartet ’64 in San Francisco (Fresh Sound)
In San Francisco '64




Jazz Casual Art Pepper Quartet May 9.1964
https://www.youtube.com/watch?v=eabBiWdAyWM
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Rchoose19

『作家と自殺』『ミュージシャンと薬』は、
私の中ではペアなんですよねぇ^^;
まぁ、違う人の方が多いのはわかってますけどね♪
by Rchoose19 (2015-08-19 07:27) 

lequiche

>> Rchoose19 様

あ〜、そうですね。強固なペアです。
ただそれで夭折しちゃうとカッコイイんですけど、
そうならずぐずぐずになってだらしなく死んじゃうみたいなの、
パーカーとかランボーにはそういう印象がありますが、
アート・ペッパーも何とか復活して人生を全うしたのが
カッコワルくもあり、それがカッコいいのかもしれないとか、
いろいろと思うことは多いですね。
というようなことを考えさせる真夏の夜の夢なんです。(^^)
by lequiche (2015-08-19 11:56) 

sig

こんぱんは。
腱鞘炎のせいと他にやることもあり、ブログは一応おしまいにしましたが、ディズニーの過去記事までご訪問戴き、ありがとうございました。
by sig (2015-08-19 23:31) 

lequiche

>> sig 様

こちらこそいつもコメントありがとうございます。
ディズニー作品にも御造詣が深くて大変参考になります。
最も有名な過去の一連の作品は、
パワーのあった頃の典型的アメリカを反映していますが、
最近のデジタルよりもやはり手作りのすごさを感じます。
一度そういう話題についても直接お話をお伺いしたいです。(^^)
by lequiche (2015-08-21 10:43) 

U3

 麻薬や薬物で亡くなったり人格が崩壊してしまったジャズミュージシャンは多いのですね。まあ、わたしはジャズに造詣が深い訳ではないので知っているのはマイルス・デイビスとチェット・ベイカーくらいしか知りませんが。

 予定よりも少し早いのですが本日昼より恋愛小説の連載を開始致します。よろしければご覧になって下さい。更によろしければコメントも頂ければと(笑)
by U3 (2015-08-23 11:58) 

lequiche

>> U3 様

立ち直る人もいますが、立ち直れない人もいます。
やはり麻薬は怖いですね。

小説は大作ですね。
随分長いものになりそうで、結末まで期待しております。
本にできるといいですね。(^^)
by lequiche (2015-08-25 15:38) 

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