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ベルクの弦楽四重奏曲を聴きながら [音楽]

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Alban Berg (1885-1935)

BGMのつもりでなにげなくベルクのCDをかけてみたのに、その音に引き込まれてしまった。ベルクってこんなだったっけ? 昔、渋谷にヘンな盤ばかり扱っているクラシックCDショップがあって、たしかそこで買ったものだと思う。

アルバン・ベルク (Alban Maria Johannes Berg, 1885-1935) には弦楽四重奏曲が2曲ある。弦楽四重奏曲と名付けられた曲 (1909-1910) がひとつと、もうひとつは《抒情組曲》(Lyrische Suite für Streichquartett, 1925-1926) というタイトルを付けられた曲。

DGには《Alban Berg Collection》という廉価盤があって、代表曲はほとんど収録されているのでベルクはとりあえずこれで聴いていたはずで、もちろん弦楽四重奏曲も入っていた。演奏者はラサール・クァルテットで、でもあまり強い印象がなかった。
もっとも最初に私が聴いたのは前述した渋谷のショップで購入した Kich Schwann/ Musica Mundi というレーベルのCDで、シェーンベルク・クァルテットによる演奏である。弦楽四重奏団には作曲家名を冠にしたグループが多く存在していて、アルバン・ベルク・クァルテットというのもある (あった) が、といってその作曲家名のクァルテットがその作曲家の弦楽四重奏曲を、必ずしも最上に演奏するわけではない。
それにシェーンベルク弦楽四重奏団の演奏をネットで検索しても、シェーンベルクの弦楽四重奏曲が選択されてしまい不便である。作曲家名と同様に地名を冠したグループも多いけれど、そうした安直な名付けかたでなくて、もう少しひねったアイデアはないものなのだろうか。
ちなみに、繰り返し聴いていたバルトークの弦楽四重奏曲の最初に買ったCDはアルバン・バルク・クァルテットで、バルトーク・クァルテットというのもあるらしいけれど、アルバン・ベルクのほうが全然有名だ。

まぁそんなことはどうでもいいのだけれど、このシェーンベルク・クァルテットによるアルバン・ベルクも、ラサールと同様に私にはあまり強い印象がなくて暗い感じがしたのでそんなに聴かなかったようで、つまりその頃の私はまだ幼くて、耳が順応していなかっただけなのだろうと今では思える。

《抒情組曲》は面白い。俗っぽ過ぎるかもしれない。比較的後期の作品だから、こなれているといえばその通りなのだが、新ウィーン楽派とか12音技法とかで括られるものではなくて、ごく普通の曲に近い。もはや古典的な曲の範疇に入るといってもよい。しかし《弦楽四重奏曲》op.3 はベルクがまだシェーンベルクに師事して24~25歳の頃に書かれたもので、作品番号からもわかるようにごく初期の作品である。
この曲のほうが、まだ硬い感じはするがフレッシュでスリリングで、それでいてわかりやすいというベルクの特徴が出ていて、次々に 「そう来たか」 と展開していくので飽きることがない。

4つの音の絡み合いが対等で、その重なりかたがとても教科書的のように思えてしまう。つまり典型的な12音技法という意味なのだが、シェーンベルクのようにしかつめらしくない。これがベルクの特徴だともいえる。古典的な弦楽四重奏曲ではどうしても1stヴァイオリンが主導してしまう曲調がほとんどだが、ベルクでは4つの弦楽器がどれも同じ重要性を帯びていて、たとえば第1楽章 Langsam の冒頭だって、弾き始めの6連符 (1個目の音は休符なので音は5つ) は2ndヴァイオリンなのだ。ヴィオラが同じ音型を模倣した後、幽霊のように1stヴァイオリンが入って来る。
アッチェレランドして、だんだんと高まってゆき、それがpppに静まると、アム・シュテークでチェロが、そしてヴィオラが悪魔のささやきのようにきざむところがカッコイイ (41)。ピツィカート、トレモロが多用されるが、それも今となってはごく古典的だ。
第2楽章 Mäßige Viertel でも、sehr heftig と指示された1stヴァイオリンが刺激的な音で入ってきて、リズムも3/4から6/8、9/8と現代曲の教科書のようにくるくる変わってゆき、リタルダンド・エ・ディミヌエンドして、またもpppにしておいてからsffzのピツィカートでどっきりさせる (72)。こうした手口って同じだなぁと思いながらもうっとり。
ピツィカートとかフラジオレット、スル・ポンティチェロ (=アム・シュテーク) などの特殊奏法は奏者によって差が出てくるけれど、このシェーンベルク・クァルテットはそのバランスが心地よい。

ベルクというと《ヴォツェック》と《ルル》という2つのオペラがあるが、以前ネットで知り合った人で、ベルクのルルが好きでハンドルをルルにしていたことを今突然思い出した。あの人どうしたかなぁ。
まぁそんなことはどうでもいいとして、《ヴォツェック》はゲオルク・ビューヒナーの戯曲《ヴォイツェック》が元になっている。なぜ作品名が違うのかというと、Woyzeckという綴りが手書きだったので Wozzeckと読んでしまったため《ヴォツェック》になってしまったのだという。それで戯曲は《ヴォイツェック》、オペラは《ヴォツェック》のままなのだ。どちらかに統一すればいいのに。ま、いいか。

戯曲の《ヴォイツェック》を俳優座劇場で観た記憶がある。それは68/71の劇場公演で、たしかあまり評判がよくなかったような記憶があるが、それは劇場という安定した空間で演じることが日和ったことだなどという拙劣な偏見から生じたものだったようで、その頃はそうした時代だったのかもしれない。なぜか舞台全面を板張りにしてあって、異国風な雰囲気のある美しい舞台だった記憶があるが、そうした記録がネットにはどこにもないので妄想に過ぎないのかもしれない。
演劇の記録は最も簡単に失われる。失われやすいからこそ貴重なのだろう。
さきほどTVで《トットてれび》というのを偶然観ていて、観ているうちにだんだん満島ひかりが黒柳徹子に同化してくるような気がしたのだが、今日の放送では向田邦子のことが描かれていて、心がちょっと、しんとしてしまった。TVドラマもまた、失われやすいもののひとつなのだと思う。

失われやすいから貴重なのか、失われやすいんだからそのまま失われてしまったほうがよいのか、つまり失われたときは求めるべきなのか求めないほうがよいのか、それはきっと誰にもわからない。


Schönberg Quartett/Berg: Streichquartett No.3 & Lyrische Suite
(Kich Schwann/Musica Mundi)
http://www.amazon.com/Alban-Berg-String-Quartet-1909-10/dp/B00008FA35
berg_schonbergQ_160604.jpg

Alban Berg Collection (Deutsche Grammophon)
Alban Berg Collection / Varrious (Coll)




Alban Berg Quartett/Berg: Lyrische Suite & Streichquartett No.3
(EMI music Japan)
ベルク: 弦楽四重奏曲 弦楽四重奏のための「抒情組曲」




Linden Quartet/Berg: String-Quartet op.3
https://www.youtube.com/watch?v=xqAU4SKqjLU
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末尾ルコ(アルベール)

ヘルツォークが『ヴォイツェック』を映画化しておりまして、ご覧になっておられるかもしれませんが、なかなか楽しい作品でした。もちろん主演は例の(笑)クラウス・キンスキー。
舞台芸術はどうしても映像で残そうとしても別物になってしまいますね。ただ、わたしはバレエの大ファンなのですが、ヘンな席で観るよりも、時に映像の方がよい・・・という場合もあります。
ベルクもまた、じっくり聴いてみます。

                     RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2016-06-05 00:46) 

lequiche

その映画は知りませんでした。
ヘルツォークはキンスキーを重用しているんですね〜。

バレエは確かに普通の演劇のような舞台とは
違うかもしれません。
毎年のウィーンのニューイヤーコンサートの映像でも
間にバレエが入りますが、とても美しいです。
もちろん普通の演劇だって映像として残されていれば
それを観ることで戯曲で読むよりはずっと理解が増しますが、
空間的なものを一番捉えきれないのが演劇の映像だと思います。

でも、たとえば能・狂言のような伝統芸だと
比較的違和感なく鑑賞できます。そのへんが不思議です。
by lequiche (2016-06-05 01:51) 

hatumi30331

コメントありがとうございます。
オフ会レポ、喜んでいただいたようで・・・・
よかったです。^^
井戸の話し・・・・面白かったでしょう〜♪
ブロガーが集まると、かなり楽しいですよ。^^

これからもよろしくお願いしますね。^^
by hatumi30331 (2016-06-05 05:21) 

lequiche

>> hatumi30331 様

和気藹々とした雰囲気が伝わって来ました。
めでたい電車も愛情こめて作られていてカワイイです。
電車を作っちゃうというのがすごいですね。
ソネブロではオフ会が盛んになってきているようですが、
そうした交流もネットの効用ではないかと思います。
こちらこそよろしくお願い致します。
by lequiche (2016-06-05 11:46) 

Enrique

ベルクがシェーンベルクに師事したと言うのも面白い事ですが,名前だけでなく,曲調も両者殆ど区別がついていません(汗)。
by Enrique (2016-06-05 22:15) 

lequiche

>> Enrique 様

あははは。まあ、そうですね。
一応、シェーンベルクが師匠でベルクとヴェーベルンが弟子です。
曲のイメージもワケわかんなくて、同じといえば同じですね。

私の印象ではシェーンベルクは12音への気負いがあって、
でも従来の伝統的パターンも引き摺っていて、ちょっと晦渋。
ベルクが3人のなかでは一番聴きやすくて、
絵にかいたような12音なのに、むずかしい感じが少ない。
ヴェーベルンはコンデンスト、つまり密度は高いんだけど
濃縮し過ぎで、難解過ぎて、曲が短くなってしまった。
っていう感じですけど、区別になってませんね〜。(^^;)
by lequiche (2016-06-06 02:26) 

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