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長門芳郎『パイドパイパー・デイズ』など [雑記]

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Lisa Batiashvili

ここのところ落ち着いてブログを書いたり読みに行ったりする時間がなくて失礼してます。

仕事の合間合間に、いままで読めなかった本のなかから長門芳郎『パイドパイパー・デイズ』を読んでみました。長門芳郎——シュガー・ベイブやティン・パン・アレ-などのマネージャー、そして南青山にあったというレコード店パイドパイパー・ハウスの店長、さらに海外ミュージシャンのコンサート等のプロデュースを多数してきたというすごい人です。

書名はそのレコード店からとられているのですが、伝説の店として名前だけは知っているけれど、残念なことに私はそのパイドパイパー・ハウスという店に行ったことがありません。
あの近くだとたとえば嶋田洋書とかヴィヴィアン・ウエストウッド青山店は知っているのに。もっとも嶋田洋書も一昨年に閉店してしまいましたけれど。

最初の音楽の出会いとしてラヴィン・スプーンフルというのがちょっと特異です。世の中がビートルズやストーンズだった頃にラヴィン・スプーンフル! とのこと。その後の音楽的変遷もすさまじいものがあって、でも私はラヴィン・スプーンフルといっても〈サマー・イン・ザ・シティ〉しか知らないし、ほとんどわからないようなジャンルなので、う~んこれはすごいらしいぞ、ということしか言えません (いや、らしいじゃなくて文字通りすごいんですが)。
パイドパイパー・ハウスの終焉はアナログレコードがCDに変わっていく頃と同期していて、つまりそれは音楽のメディアがそのように変化していったという単純なことだけではなく、もっと象徴的な意味があるのではないかと思います。

本の後半、3分の1くらいは音楽雑誌に掲載されていたパイドパイパー・ハウスの広告が年代順に並んでいて、手書きだったり、素朴なクーリエのタイプライターで打たれた文字で作られている、いかにも古い雑誌の香りのするチープだけれど力のこもった内容に、音楽はこの頃のほうがずっといきいきしていたんじゃないかと感じます。

    *

バティアシュヴィリはデビューであるEMI盤を聴いてみました。ブラームスの第1番とバッハの無伴奏1番、そしてシューベルトのロンド D.895です。もう少し聴いてみないとまだ書けない感じで、この録音のとき彼女は20歳。無伴奏は1番だけですが、イブラギモヴァとはまた異なった演奏で (どちらかといえば対極的なのかな)、しかし冒頭に持ってきたブラームスがとても良いです。ものすごく美音とか、ものすごく美人とかいうわけじゃないのですが、非凡ななにかを持っています。
シューベルトの最後のほうなど、ちょっと荒い感じもあるのですがそのパッションの表出さが何か違っていて、でも何が違うのかがよくわからないのです。

    *

レイ・ブラッドベリの『華氏451度』の伊藤典夫訳を読んでみました。これは相当面白かったです。いままでの訳と今回の新訳とを較べてみるといいんですが、そんな時間が無くてそのままになっています。それより原文と対照しろよ、というツッコミはナシです (そうそう、1953年のバランタイン初版本というのを見てしまいました。もちろんそんなもの買えません。そもそもバランタインで出すことになったのは 「こんなの売れねぇょ」 ということだったらしいんですが、それが今ではブラッドベリの代表作に)。
でも、久しぶりに読んでみると、ああこういう話だったのか、と忘れていたところが多くて、しかも今の時代をまさに現しているようで、エピソードのなかには、たとえば最低なレヴェルの大統領選挙が行われていたりして、それ以外にもギミックみたいなのが笑っちゃうほど満載で、まさに今の時代にぴったりな内容です。ブラッドベリって非常にシニカルです。
それで、フランソワ・トリュフォーの撮った《華氏451》という映画がありますが、映画自体はトリュフォーとしても満足のいく出来ではなかったようですけれど、映画では隣家の少女クラリスと妻リンダ (小説ではミルドレッド) をジュリー・クリスティが2役で演じているんですが、それは《ピーターパン》を演じるとき、父親ダーリング氏とフック船長を同じ役者が演じるのと同じなのだ、と突然気がついてしまいました。違うかな?

    *

ゾルタン・セーケイのことについても、何か書くことがあったんですが忘れてしまいました。忘れてしまうというのは、きっとたいしたことじゃないんです。


長門芳郎/パイドパイパー・デイズ (リットーミュージック)
PIED PIPER DAYS パイドパイパー・デイズ 私的音楽回想録1972-1989




Elisabeth Batiashvili/Works for Violin and Piano (EMI)
ヴァイオリン・リサイタル




Lisa Batiashvili/Shostakovich: Violin Concert No.1 a-moll op.99
Tokyo 2009
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6164632
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Speakeasy

長門芳郎さんの『パイドパイパー・デイズ』は読む予定です!いや読みます(笑)

ブラッドベリの『華氏451度』(誰の訳かは分からず)は、5年程前に単行本を買った記憶があるのですが、未だ読んでいません(汗)
トリュフォーによって映画化された『華氏451』は昔観た記憶があるのですが、最近WOWOWで放送されたものを録画したまま観ていません(汗)
そんなこんなで、色々だめじゃん(笑)

by Speakeasy (2017-01-30 00:59) 

えーちゃん

私もブログ巡りが滞ってます(^^;
まぁ、今年の目標は「テキトー」だからいいんだけどね?
by えーちゃん (2017-01-30 01:36) 

末尾ルコ(アルベール)

ラヴィン・スプーンフルというのは興味深いですね。わたしはぜんぜん知りませんでした。また楽しみができました。知らなくて、しかもおもしろそうなことに出会うのはいつもワクワクします。どのような人間にとっても、「知らないこと」の方が遥かに多いわけですが、その中から自分の感覚を悦ばせてくれる「おもしろいこと」をいかに見つけ出すかというのが人生の妙味ですね。いつもここに訪問させていただくと、「おもしろいこと」に満ちていて、感謝しております。  トリュフォーの『華氏451度』もブラッドベリの原作も、ず~~~~と以前に鑑賞して、ゆえに記憶はおぼろげです(笑)。トリュフォー作品としては失敗作とされていますが、好きな人はけっこう多いのではないかと。そして最盛期のジュリー・クリスティはかなり好きです。『ドクトル・ジバゴ』なんかも、映画としては冗長だと思いますが、クリスティの思い詰めた表情を観ているだけで満足!そして今まさに、ブラッドベリ作品(のいろいろ)読みたくなりました。今度本屋で探してみます~~。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2017-01-30 02:03) 

lequiche

>> Speakeasy 様

NIAGARA 45RPM VOX が出るという
Speakeasyさんのこの前の記事を見逃していました。
でも、ウ〜ンもう大瀧詠一はいいかな、高いし、と思って、
ピチカートのLP《couples》を買ってしまいました。(^^;)

大瀧詠一のEPまで買うのなら、長門さんの本は必読ですね。
ただ長門さんと最も懇意なのは細野さんみたいです。
大瀧詠一の未発表の目玉として
太田裕美とのデュオ・コンサートの映像があります。
私はこれがそのうち出るんじゃないかと思ってます。
(私は観ました)

私が好きな細野さんのアルバムは、
ちょっとマニアックですけど《銀河鉄道の夜》サントラです。
ますむらひろし先生、好きなので。
尚、ますむら先生自演のLPも持ってます。

『華氏451度』は4〜5年前だと宇野利泰訳ですね。
伊藤さんはケチョンケチョンにけなしていますが、
私は、宇野訳もそんなに悪くはないと思うんですけど。
トリュフォーの映画は、きれいな映像ですよ。
消防車の赤い色がいいんですね〜。
トリュフォーっていうと私が一番印象深いのは
《未知との遭遇》なんですけど。(ダメジャン!^^;)
by lequiche (2017-01-30 03:36) 

lequiche

>> えーちゃん様

そーですか。そうですよね〜。
テキトーなのは私も同じです。(コラコラ ^^;)
by lequiche (2017-01-30 03:37) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ありがとうございます。
でも、えーちゃんさんと同じで私もごくテキトーなので。

ラヴィン・スプーンフル、私もよく知らないんです。
いわゆるフォークロックのグループですね。
同系統だとママス&パパスとか、タートルズとか。
ジェファーソン・エアプレインなんかも
もともとはフォークロックだったらしいんですが
一番私のよく知らないジャンルなんです。

トリュフォーの《華氏451》はそんなに悪くはないです。
むしろ、たとえば《緑色の部屋》なんかよりずっと良質です。
残念ながら《ドクトル・ジバゴ》は観ていません。
そうですか〜、観てみたいですね。
今、wikipediaを見たらリストには 「ドクトル・ジバコ」 と
表示されてました。wikiって…… (-_-;)
ま、今に始まったことじゃないですけど。

ブラッドベリは順当だと『火星年代記』ですが、
私のオススメは『黒いカーニバル』『とうに夜半を過ぎて』です。
by lequiche (2017-01-30 03:38) 

すーさん

本文とあまり関係ないかもですが、
有名で地元民に愛されたレコード屋さんがたたまれると
寂しい気持ちになりますねぇ。
我が本厚木にも「タハラレコード」というのがあって、
いきものがかりのメンバーが若い時に世話になったことを
なにかの折にテレビで(?)言っていたり
他にも、そこの楽器教室で習った子供たちの中にはとても
すばらしいミュージシャンになって今まさに売れっ子に育った
人がいたり、
ジャズライブハウスの隣のくせにジャズのジャンルが
揃えが悪かったり(←そこのライブハウスを手伝っていたので
ポスターを貼らせてもらいにタハラに行くたびにビミョーな
感じに^^;)などなど思い出がいっぱいです。

by すーさん (2017-01-30 05:20) 

hatumi30331

お忙しそうですね。
あまり無理せず、毎ペースでね。^^
by hatumi30331 (2017-01-30 06:10) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ラヴィン・スプーンフル懐かしいですね。

”サマー・イン・ザ・シティ”確か1967年ごろのヒットだと思いましたが、私は大橋巨泉さん、木崎義二さん、星加ルミ子さんらが出演していたTV番組”ビートポップス”でこの曲を知り、当時よく聴いていましたっけ。

おかげで、この記事を読むまですっかり忘れていた曲なのに、曲名を見た途端、頭の中でそのメロディが流れてきたりして。


長門芳郎『パイドパイパー・デイズ』、読んでみたくなりました。



by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2017-01-30 09:10) 

ぼんぼちぼちぼち

華氏451、あっしは映画のほうだけ観やした。
非常に達作だと思いやす。
監督はどの辺りに納得いかなかったのか気になりやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2017-01-30 19:44) 

kick_drive

こんばんは。買ってほったらかしている本を読みたいとは思っているのですが、会社で昼休みはないし、お出かけの時の電車の中は乗り物酔いしちゃうし、休みの日は疲れちゃってるし。どうしたらいいんだろう?以上愚痴でした(笑)。


by kick_drive (2017-01-30 21:19) 

lequiche

>> すーさん様

そうですか。
地元の人なら誰でも知っているようなお店なんですね。
昔は小さい楽器店に楽器もレコードも置いてあって、
種類は少ないけれど夢がありました。
楽器店に限らず書店でもそうですが、
今、小さな店は皆、大型店に駆逐されてしまって
画一化されてしまっているように思います。
小さな店でも、そこだけにしかない個性があると
生き残れるような気がしますが。
by lequiche (2017-01-31 01:13) 

lequiche

>> hatumi30331 様

ご心配ありがとうございます。
まぁ、いろいろと重なるときってありますから。
えーちゃんさんも言われてるように、
テキトーにやります。(^^)
by lequiche (2017-01-31 01:13) 

lequiche

>> 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) 様

フォークロック全盛の頃ですね。
曲としては知っているんですが、
ラヴィン・スプーンフルもそのメンバーが
どんな顔をしているのか全然知らなかったりします。
今回もこの本文を書きながら検索していて、
タートルズはHappy Togetherが有名ですけど、
顔を初めて見ました。こんな人たちなんだ、
という新鮮な驚きがあります。

お時間があったら読んでみられることをオススメします。

The Turtles/Happy Together
https://www.youtube.com/watch?v=Tvu3xiFmfDU
by lequiche (2017-01-31 01:13) 

lequiche

>> ぼんぼちぼちぼち様

トリュフォーは主演のオスカー・ウェルナーと折り合いが悪く、
思うように撮影できなかったというのが不満だったのでしょう。
どういうことで対立したのかはよくわかりません。
小説も映画も、むしろ時間が経ってからのほうが、
その意図することが鮮明になってきたような気がします。
by lequiche (2017-01-31 01:14) 

lequiche

>> kick_drive 様

読めなかったら読まなければいいんです。(^^)
私の場合、読む本は買う本全体の50%以下です。
30%もいかないかも。(^^; 汗)
本なんて全部読まなくたっていいんだ、と思うと
読めるようになりますよ。
by lequiche (2017-01-31 01:16) 

DEBDYLAN

イロイロな繋がりがあって、数年前に2回、静岡で長門さんのトーク・イヴェントに参加しました。

詳しくはコチラをご覧いただけたら。

http://debdylan0605.blog.so-net.ne.jp/2013-01-27

http://debdylan0605.blog.so-net.ne.jp/2013-05-27

楽しくて未体験だった楽曲にも興味が湧いた素晴らしいイヴェントでした。
その中で教えていただいた、ALZO(アルゾ)というSSWが好きになりました。
長門氏とのエピソードも知ったので。

本、読んでみたいです。
今みたいにイロイロな娯楽(暇つぶし)がなかった時代(僕の体験では1980年代~90年代前半)。
音楽って、雑談のネタでしたよね。
もっと音楽が身近だったと記憶してます。
懐かしいなぁ・・・

独り善がりなコメントでごめんなさい。



by DEBDYLAN (2017-01-31 23:12) 

lequiche

>> DEBDYLAN 様

トーク・イヴェントの記事、拝読致しました。
う〜ん、メチャウラヤマシイ〜。(^^)
ALZOのことは長門さんの本の中にも書いてありました。
昔のほうが、音楽に対する平均的な認知度は高かったと思います。
誰だってそのくらい知ってるよ、という点において。
今はもう、あまりにも趣味/興味が拡散され過ぎてしまっていて、
それに現代の日本は音楽鎖国状態ですし、
海外の音楽についてはほとんど何も無い状態のような気がします。

それとDEBDYLANさんが書かれているように、
パッケージ・ソフトという概念は大事です。
音楽というデータだけではなくて、
そのパッケージとしての総体が作品なんだと思います。
ですから今の 「音源だけダウンロードすればいいや」、
というやりかたには私は馴染めません。
音楽が身近かどうかということでいうと、
なんとなくよそよそしくて楽しさの量が希薄です。
それはkindleで読むような本も同じで、
本は紙に印刷されたもの以外は本では無いのです。

最近、私は反動的なので (笑)
CDさえもちょっとなぁ、というようになってきていて、
アナログディスクが出ている場合、
両方買ってしまったりします。
やっぱり音楽ソフトの究極のメディアはレコードです。
というわけで、長門さんつながりの
ピチカート・ファイヴの再発アナログ盤を
1枚だけ買ってしまいました。
もう1枚は残念ながら売り切れだったので。(^^;)
by lequiche (2017-02-01 16:43) 

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