SSブログ

Pioneers of J-Pop — ザ・ピーナッツを聴く [音楽]

ThePeanuts_170201.jpg

〈恋人よ我に帰れ〉(Lover, Come Back to Me) という曲を私はジャズのスタンダードだと思っていたのだが、実際の範囲としてはもっと広くて、ごく単純なポピュラー・ソングとして認識されているらしい。オスカー・ハマースタイン2世の作詞、シグマンド・ロンバーグ作曲による1928年の作品である。
トマス・M・ディッシュの『歌の翼に』を読んでいるとき、こうした20年代の頃の古いブロードウェイの歴史とか、コットンクラブのこととかがわからないと、そうした音楽から真の意味での身近さを感じとることはできないような気がしたのだった。

それはともかくとして、YouTubeで何人もの〈Lover, Come Back to Me〉を聴いているうちに、とんでもないものに行き当たった。それはザ・ピーナッツの歌である。アメリカの有名なバラエティ番組のひとつである《エド・サリヴァン・ショー》に出演したときのもので、1966年3月28日に収録、9月18日に放送されたとある。かなり有名な映像らしいのだが、私は寡聞にしていままで知らなかった。だから 「何を今更」 と言われてしまうのかもしれないが、でも感動は感動として素直に記録しておきたいと思うのだ。

リズムは急速でメロディも変えてあるが、歌詞が終わって、途中からスキャットになる部分が素晴らしい。そして一度スピードを落として、いかにも日本風に歌い回し (たぶんこれはアメリカを意識したオリエンタルなサーヴィスだ)、再び急速調に戻る。3分に満たない歌唱だが、十分にスリリングだ。
編曲は宮川泰とのことだが、その音づくりは半端ではなくて、1966年という時代にこれだけの編曲と歌唱が存在していたということがまさに驚きである。

ネットに掲載されている幾つかの記事を読むと、本来は2曲歌うはずだったのだが、リハーサル中にトラブルがあって、1曲だけになってしまったという説と、何曲も持って行ったのだが、他の曲はOKにならず、この曲のみ合格したという説があって、どちらが本当なのかはよくわからない。

他の曲を探してみると、キング・クリムゾンの〈エピタフ〉のカヴァーなんていうのもあって、さすがにちょっとどうかなという感じではあるけれど、意欲的であることだけで面白い。
でもザ・ピーナッツはその後、もっと日本的な情緒の歌謡曲のなかに埋没してしまう。それは需要と供給の関係として仕方がなかったことなのかもしれないし、年齢も25歳であり、「いよいよアメリカ進出」 みたいな箔の付け方も必要無かったのだろう。それにこの〈Lover, Come Back to Me〉のような歌唱がどのくらいすごいのかは、当時はあまり認識されていなかったのではないだろうか、と後世から見ることしかできない私はごく無責任に思うのだ。

日本の歌手が、尊敬する歌手はと聞かれると日本の先輩の歌手の名前をあげるだけで、ドメスティックな曲しか聴かないのは音楽的には退歩である。別に欧米崇拝ではないのだが、J-popという区分はその囲繞地のなかだけでの限定的な繁栄を意味しているようにも思えるし、鎖国でもありインセスト的だ。もっと奔放さとかがむしゃらさが欲しいと思うのは無理な願いなのだろうか。
それに今、アメリカがあんな状態でジコチュー的で自閉的な方向になっているのを見ると、鎖国政策こそが世界のトレンドなのかもしれないと思うのだ。それならいっそのこと、日本も再び鎖国をして、また徳川の栄華のような心地よく秘密めいた限られた空間を作ることのほうが、人の心は落ち着くのかもしれない。

ちなみにthe peanutsで画像検索するとスヌーピーが山ほど出て来て、まぁそうだよなぁ、とあらためて思うのである。


究極盤 ザ・ピーナッツ・スーパーベスト (キングレコード)
究極盤 ザ・ピーナッツ~スーパーベスト~




The Peanuts/Lover, Come Back to Me
The Ed Sullivan Show, 1966
https://www.youtube.com/watch?v=WJNixjTwF_A

The Peanuts/Epitaph
https://www.youtube.com/watch?v=Y21_bGNsKVo
nice!(82)  コメント(14)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 82

コメント 14

末尾ルコ(アルベール)

今、視聴しております。おもしろいですね。「エピタフ」が日本の歌のようになっています(笑)。「Lover, Come Back to Me」はご説明を拝読しながら視聴すると、より理解が深まります。確かにこのような歌を、あの「エド・サリヴァン・ショー」へ出演して歌うことができるほど「自分のもの」にしているのが凄いですね。20世紀以降に限れば、米国の音楽の幅広さ、深さ、先端度は圧倒的で、音楽に興味があるのなら聴かない手はないと思うのですが、おっしゃるように今の日本はどんどん不気味な閉じ方をしています。これを「まだ欧米コンプレックスか~?」なんて言うのは見当外れですよね。「よりよいものを求めるべきだ」という問題です。ただ何だかんだ言って、それでも音楽の作り手はある程度米国を含めて外国の音楽を摂取している人が多いと思うのですが、問題はリスナーで、「洋楽にまるっきり興味がない」人たちがとても多くなっています。  昨夜、近くのBOOK OFF(笑)でブラッドベリを探したけどありませんでした。もっとまともな本屋でみつくろってみます。代わりに柴田錬三郎の『眠狂四郎』とコナン・ドイルを買いましたが、これはこれでけっこうおもしろい(笑)。  RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2017-02-01 09:13) 

hatumi30331

アメリカは♡のないトランプを大統領にして・・・・
どこへ行くんやろうね。^^;

ちなみに・・・恋のバカンスは十八番です。(笑)
by hatumi30331 (2017-02-01 15:03) 

hatumi30331

追伸
新年会楽しんでね。
私も明日・・・ランチです。へへ;
by hatumi30331 (2017-02-01 15:06) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

エピタフ、演歌っぽくていいですよね。(^^)U
でもスターレスなんかも演歌っぽくなりそうです。

〈Lover,…〉は、スキャットになっても乱れない
2人のリズムのキレの良さが気持ちイイです。
日本の音楽だけで閉じてしまうのは、そのほうが楽だからで、
それは日本作家の小説しか読まれないというのと似てます。
そのうち映画も日本映画だけになっちゃったら
噴飯ものですね。(そこまではないと思いますが……でも)

BOOK OFFじゃ、今時そういう本を出す人がいませんから
当然無いと思います。
本といえば圧倒的にノウハウ本ばかりで、キモチワルイです。
すでに本は仮想的な焚書が始まっているのだと思うのです。
柴田錬三郎、コナン・ドイル……
そういうのも、もう焚書の対象になるかもしれないです。(^^)
by lequiche (2017-02-01 18:48) 

lequiche

>> hatumi30331 様

ハートも無いしクラブも無いですね。
あるのはダイヤ (カネ) とスペード (武器) だけ。
でもアメリカのダークサイドはもともとそんなものです。
保守層の本音が出ているのです。
あいかわらず人種差別/階級差別もあるのでしょう。

おお、18番!
是非お聞かせください。(^^)
by lequiche (2017-02-01 18:49) 

lequiche

>> hatumi30331 様

はいはい。そうします。
ええっ? また高価なランチですか?(^^;)
by lequiche (2017-02-01 18:49) 

majyo

わあ、びっくりしました
空はあくまで青く風は冷たいとタイトルにして
lequiche さんから「恋人よ我に帰れ」にイメージ出来ると言われて
何曲か聴きましたが 一番初めに聴いたのはザ・ピーナツでした
懐かしかったです。子供の頃の歌手ですから
編曲は宮川泰さんですか 良い曲いっぱい編曲していますね
コメント入れたら また聴いてみます

by majyo (2017-02-01 19:19) 

lequiche

>> majyo 様

このザ・ピーナッツのヴァージョンは、
かなり原曲のメロディをいじっているので、
majyoさんへのコメントには
オーソドクスなパティ・ペイジを選択してしまいました。

ザ・ピーナッツのは、なんといってもスキャット部分で
ぴったりとハモりながら下がっていくところとか、
後半の声を張るところとか、カッコイイです。
2人の声質が揃っているのでまさに楽器のようです。
たぶん今、日本でこれだけ歌える歌手はいないでしょう。
いたら挙手して欲しいです。(^^)
by lequiche (2017-02-01 22:27) 

いっぷく

思うにピーナッツは声はぴったりなんですが、キャラが少し違います。
日出代さんの方がちょっとおちゃめで、月子さんのほうが生真面目なのだと私は解しています。
そのへんも合わせて見ると、面白いと思います。
by いっぷく (2017-02-02 00:06) 

lequiche

>> いっぷく様

おお、そうなんですか。さすが、お詳しいですね。
でも私はそもそもザ・ピーナッツのお2人の見分けがつきません。
なんとなく違うっていえば違うんですけどね。(^^;)
映像をいろいろ見てみたいと思います。

ザ・ピーナッツはリズム感だけでなく
そのテンションの高さと持続力、
音楽に対する姿勢が突出しています。
当時のほうが今より音楽のクォリティは高いように感じます。
それともザ・ピーナッツだけが
突然変異種で特別だったのでしょうか?
by lequiche (2017-02-02 01:07) 

raomelon

ザ・ピーナッツと言えば
シャボン玉ホリデーが、パッと思い浮かぶ年代です^^;
素敵なハーモニーですよね♬
今度hatumiさんと、歌ってみます(笑)
by raomelon (2017-02-02 12:53) 

lequiche

>> raomelon 様

ナイスアイデア! 是非聴いてみたいですね〜!
hatumiさんもザ・ピーナッツはオハコみたいですし。
そうそう、裏・市長さんが言われてる美人三姉妹で
Perfumeもお願いします。(^^)
by lequiche (2017-02-02 15:04) 

NO14Ruggerman

へぇ~~ですね。「Lover・・」以上に「Epitaph」までも
カヴァーしていたことに驚きを禁じえません。
グレッグ・レイクが昨年末に他界、と思いきやなんと
ジョン・ウェットンの訃報が飛び込んできました・・
ご冥福をお祈りします。
by NO14Ruggerman (2017-02-02 22:55) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様

意外なカヴァーはザ・ピーナッツだけでなく、結構多いです。
あと、カヴァーではなく一種のパクリとか、
イントロだけあの曲なんだけれど歌が始まるとエエッ?みたいなのとか。
アイドル歌手のアルバムにもよくあるようです。
お遊びなんだと思います。

ビッグネームが亡くなるのは残念ですが、
それだけ音楽は新陳代謝していくのだという証しでもあります。
by lequiche (2017-02-03 05:35) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0