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My Bloody Valentine《Loveless》 [音楽]

MBV2018_211101.jpg
SonicMania 2018より

レコードショップに行ったら壁面のフォルダーに《Loveless》のLPが何枚もずらりと飾ってあって、思わず手にとって、そのずっしり感に惹かれて買ってしまった。
マイブラの《Loveless》を最初に買ったのはたぶんオリジナル盤ではないけれどレコードで、その後もCDは3種類くらい買ったはずなので、今回の《Loveless》は5枚目ということになる。私にとって《Loveless》は特別なのだ。

『別冊ele-king』の 「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界」 では《Loveless》のアルバム評を杉田元一が書いている。冒頭の部分で、過去に彼はFM雑誌の編集をしていたこと、その頃はFM放送からカセット録音をすることが全盛だったことなどが書かれていて、この前、私が話題にした『FMステーション』の話と同じで、その頃のエアチェックがとても重要だったことをあらためて知ることになる。

杉田はその後、クラシック音楽雑誌の編集者となるが、その編集方針になじめず、無理して現代音楽特集をして当時、名前の出てきたアルヴォ・ペルトやシュニトケ、そしてスペースメン3とラ・モンテ・ヤングのドローンのことなどを取り上げてそこを辞め、ポピュラー音楽雑誌に移った。そこで出会ったのが試聴用としてレコード会社から送られてきた《Loveless》であり、その音に衝撃を受けたのだという。カセットを繰り返し聴いたというところにその当時の時間のリアリティが感じられる。

現在の杉田元一はレコーディグ・プロデューサーで、前橋汀子のバッハの無伴奏や小菅優のベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集にかかわっているが、その小菅優と作曲家・藤倉大との鼎談がネットにあって、録音に関しての話がちょっと面白い。
小菅優は藤倉のピアノ協奏曲第3番〈インパルス〉の演奏者であり、藤倉は小菅が演奏することを想定して書いたのだと語っている。ちなみに第2番〈ダイヤモンド・ダスト〉はメイ・イ・フーの録音で同名アルバムに収録されているが、メイ・イ・フーについては過去に少しだけ書いた (→2014年12月22日ブログ)。藤倉とのレッスン風景動画を再リンクしておく。

さて、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの話題に戻るが、『別冊ele-king』の特集はかなり深くて詠みごたえがある。杉田元一はマイブラの2013年来日時にずっと同行していたとのことだが、マイブラといえば2018年のライヴにおける終曲〈You Made Me Realise〉の轟音演奏がシューゲの到達点 (なのだろうか?) として有名である。もっともいきなりこれだけ聞かされたらなんだかわからないし、きっと腹を立ててしまう人もいるのではないかとも思う。


My Bloody Valentine/Loveless (Beat Records)
(これはCDです)
loveless (Amazon限定マグネット封入) [解説書付 / 高音質UHQCD仕様 / CD1:リマスター音源 CD2: 1/2インチ・アナログテープからマスタリングされた音源 / 国内盤 / 2CD] (BRC667)




別冊ele-king マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界
(Pヴァイン)
別冊ele-king マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界 (ele-king books)




Yu Kosuge Piano Recital/Four Elements Vol.4 Earth
Sumitomolife Izumi Hall
https://www.youtube.com/watch?v=Gqz-HL6IkBY

Dai Fujikura/Piano Etude I “Frozen Heat”
https://www.youtube.com/watch?v=-xwjS8mi8Qo

My Bloody Valentine/You Made Me Realise
Summer Sonic Extra 180815
https://www.youtube.com/watch?v=v543u913x40

My Bloody Valentine/To Hear Knows When
フジロック2108
https://www.youtube.com/watch?v=bmV94kFnQuc

小菅優、藤倉大、杉田元一鼎談
https://daifujikura.com/withyukosugesugitafujikura_1.html
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末尾ルコ(アルベール)

少し前に坂本美雨の『ディアフレンズ』に松重豊が来てまして、彼もエアチェックの話をしてましたよ(笑)。ひょっとして今は地軸がエアチェックの方向へ向いているのでしょうか(←意味不明)。
エアチェック、もちろん重要でしたし、気に入った内容のエアチェックカセットはコレクションして何度も聴いてました。カセットの場合、テープが絡まったりという恐怖は常にありましたけど。
財政的にLP購入で冒険はできませんでしたから、LPは「間違いないやつ」を専ら買って(それでも失敗はあるのですが)、エアチェックでいろんな音楽を味わうという、そのパターンでした。音楽でなくても、『スネークマンショー』なんかもエアチェックで何度も聴いてましたです。
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』。その音楽史的価値について、わたしもようやく理解できてきましたゆえ、繰り返し愉しんでいきたいと思います。



集団主義の中にどっぷり浸っている人たちって、「それで安心できる・そうでないと安心できない」という両方の潜在心理があって、つまり「微温湯で安心できるけれど、実は深く不満や鬱積が溜まっている」人たちがほとんどだと思ってます。だからそうした不満や鬱積が容易に攻撃性に返還されるのだと思います。ネットで誹謗中傷を繰り返す人たちもそのほとんどは「集団主義どっぷり」の人たちで間違いないのではと。なにせ表現者よりもスポンサーが偉いと盲目的に信じている人たちが大部分ですから。この「スポンサー様」主義も、日本の文化を低レベル化させています。

実はfeaturing Sister Mを初めて聴いたときは、(ああ、坂本龍一も娘をデビューさせちゃうんだ)くらいに思ってました。どんな凄い人でも、〈自分の子どもに関しては盲目〉というケースやたらと多いですから。もちろん楽曲自体は好きでしたけれど、
でも坂本美雨はその歩んできた道のりと磨き続けてきた芸術性で、今は偉大な両親とはまったく異なる才能として自らを確立しているのですね。素晴らしいです。鑑賞者もその折その折で判断せずに、ある程度長い目で見る必要がありますね。

食文化に関しても同感でして、別にそんなお金と時間かけなくても、今の日本、ある程度美味しいもの、食べられますしねえ。そもそもわたし、ブログへもよく書いてますが、「鶏卵こそ最高のご馳走」という確固たる理念(笑)を持ってますから。すっかり『ガリガリ君』も無くてはならない存在になってますし。
結局多くの日本人が飽食に走るのも、「精神を満足させる術」を知らないからでしょうね。
よくテレビの食レポーターが何か口に入れた瞬間、「しあわせえええ~~~!」と絶叫しますよね。定型的芝居と分かっていても、白け切ります。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2021-11-01 05:50) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

その回の放送は残念ながら聴いていませんでした。
サイトを見たのですが、洒落た選曲をしていますね。
Claire Mortifeeを私は知りませんでしたが
松重さんは千のナイフとの関連で
Ouroborusという曲について語っていて、
ああそういう聴き方もありだなと思いました。

エアチェックというのはまさにその世代に
特化していたFMの活用法だったのだと理解しました。
今のYouTubeと同じでまず試聴してみて、
その中からホントに気にいったものを買う
というのは賢明な考え方だと思います。

マイブラはやはりあのマゼンダ色のジャケットです。
ジャケットデザインがすべてを語っています。
店に飾られているとインパクトがあって、
でもそれは特定の人だけに伝わる記号なのかもしれませんが
時が経ってもその衝撃は持続していたのだと
あらためて思ってしまうのです。
マイブラの音は単にメチャクチャやって
音を飽和させているのではなくて
周到な準備の末にああした音になっているので、
そのうねりの波が一種のトリップ状態を想起させるのです。

集団主義の心理構造はそうしたものですね。
ファッションのトレンドの場合も同様で、
同じ流行の服を着たがってしまう心理は
不思議ですしズバリ言ってしまえばキモチワルイです。

坂本美雨は神田沙也加と似たテイストを感じていました。
ふたりとも最初は親の七光りみたいなものに
頼っていたのかと思っていましたが、
次第に全然異なる方向に開花していったのが
アイデンティティの確立という意味でも納得できます。
神田沙也加のデビュー盤〈ever since〉は
初回限定盤で持っていますが (笑)、
それはブリグリの音が好きだったからで
(作曲はブリグリの奥田俊作)、一種の青田買いでした。(^^)
ただ当時、神田沙也加は闇雲に酷評されていましたけれど
それは単にやっかみだったと思います。
楽曲自体はそんなに悪くありません。

SAYAKA/ever since
https://www.youtube.com/watch?v=HZGc0hUehf0

それに較べると坂本美雨に対する注意力は散漫でした。
着々と自分のポジションを築いてきたのだろう
という感じがします。

トゥールーズ=ロートレックの『美食三昧』という本を
持っているのですが、かなり凝った料理の本で
面白いのですけれど辟易する部分もあります。
やはり日本人は (というか私の場合)、欧米人にくらべると
こってりしたものに対する耐久性は無いのかもしれない
と思ってしまうのです。
by lequiche (2021-11-03 06:26)