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2013年のaiko, Live at NHK vol.2 [音楽]

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aiko 15thアルバム:今の二人をお互いが見てる

aikoの歌唱はスタジオで録音されたオリジナルも良いのだが、ライヴでハイになったときのほうが絶対にすごいと思う。その最も絶妙なヴァージョンは年末の〈CDTV年越しライブ2017−2018〉だったと覚えているのだが、残念ながらその動画はガードされてしまっている。

で、そのときと同じ〈花火〉のライヴを探していたら〈Live at NHK vol.2〉という動画を発見。おそらく2013年8月31日の深夜 (つまり9月1日) にオンエアされたものだと思う。〈ボーイフレンド〉〈beat〉〈ジェット〉など何曲かあるのだが、大半は音圧レヴェルが少し低い。その中で唯一、前者と別な人がupしていて音・映像共にクリアなのが〈花火〉である。→a)

このライヴではイントロでウーとかララ〜というようないわゆるスキャットをかませてから歌に入って行くし、途中も通常のメロディと異なる個所が幾つもある。これはフェイクといって一種のアドリブなのだが、その時点で瞬間的に変更されるけれどある程度のパターンが決まっているともいえる (フェイクについては、以前、リー・コニッツがチャーリー・パーカーのインプロヴァイズはストック・フレージングであって純粋のアドリブではないと言っていたのに通じる。フェイクな唱法についてはその歌手各々にやりやすいパターンが存在するはずだ。リー・コニッツの指摘については→2014年07月21日記事を参照)。
やや音圧が低いけれどコンサートの終盤で大盛り上がりしている〈ボーイフレンド〉もリンクしておくことにする。→b)

さらにYouTubeで発見したのはオールナイトニッポンにおけるKing Gnuの井口理とaikoがデュエットしてしまう〈カブトムシ〉で、もちろん半分おふざけで始まったのだろうが素晴らしい。→c)
ただ、こうして2人がデュエットしているときに気がついたのだが、〈カブトムシ〉の最後の部分で突然旋律が変なふうに感じられるのは、実は変なのではなくて、コーラスで何声か重ねるときに主旋律でない旋律、たとえば3度上に重ねるコーラス部分を主旋律にしてしまったと考えれば辻褄が合う。
もっともaikoは自分の感覚でのメロディラインこそが自然であり、気持ち悪いと言っているスタッフに対しては何度も聴かせているうちに気持ち悪くなくなるのだ、みたいなことを言っていて、その自信の強さがすごい。

そしてaikoの歌唱法を決定づけているのがブルーノートの使用で、音楽ジャンルとしてはポップスだがブルーノートの煩瑣な使用からいうとジャズに近い。ブルーノートとは簡単に言ってしまえばスケールの第3音、5音、7音をフラットさせることにより独特のニュアンスを生成することを指すが、ブルージーなどという形容があったりブルーノートというジャズレーベルがあることでもわかるように、ジャズの典型的な手法である (ブルーノートに関しては山下洋輔の『風雲ジャズ帖』という本の中に 「ブルー・ノート研究」 という解説文があってとても面白い)。
そして必ずしも完全に半音下げる必要はなくて、半音までいかなかったり、逆に半音を少し越えていたりという、微妙な曖昧さを醸し出すことも可能である (こうした半音以下の音高を微分音という。近代・現代音楽には微分音の指定のある曲も存在する)。その根底には典型的な近代西欧音楽の固定的なスケール感とは異なる、民俗音楽などにおけるスケールの不安定さが源泉となっているのだと思う (非・近代西欧音楽についての著作では、古い本ではあるが小泉文夫の『日本伝統音楽の研究』が、日本の伝統的音楽主体の内容ではあるけれど、最も多くの示唆を与えてくれるように思う)。

aikoはライヴにおいてこの微分音的な歌唱をすることがあるように思う。それがたまたま音が定まらないままに歌った結果として不安定なのか、あらかじめそうした意図で歌っているのかよくわからないのだが、aikoのあの正確な歌唱法からすれば、おそらくわざと音を外しているのだろうというのが私の推理である。
その例として〈クローゼット〉のライヴをあげておく。歌い出しとその繰り返しの部分である。後になって同じフレーズが出てくるが、そこでは普通に歌っている。そもそものオリジナルの歌唱を聴いてみても、このように微妙な音は使っていない。→d)

YOASOBIの2人がaikoを絶賛していたとき、正直言ってそこまで言うのか? という思いはあった。だが菊地成孔の書いた2012年の記事のなかにaikoについて書いたものを読むと、なるほどそうなのか、とも思ってしまう。→e)
その菊地成孔の記事の中にリンクされていたユーミンのカヴァーであるaikoの〈セシルの週末〉もリンクしておく。→f) カヴァーの女王・柴田淳とは違った意味でaikoのカヴァーは聴かせる。

話がそれるが、今話題の映画、菅田将暉主演の《ミステリと言う勿れ》の主題歌、King Gnuの〈硝子窓〉はすごい。まだメディアは発売されていないが。


a) aiko/花火
Live at NHK vol.2., on air: 2013.09.01
https://www.youtube.com/watch?v=J15khdjRXoA

b) aiko/ボーイフレンド
Live at NHK vol.2., on air: 2013.09.01
https://www.youtube.com/watch?v=hqB_-pKv8Vs

c) King Gnu 井口&aiko/カブトムシ
オールナイトニッポン
https://www.youtube.com/watch?v=DgTVVKbYwHk

d) aiko/クローゼット live
https://www.youtube.com/watch?v=4CCe3U_1jyo

e) 菊地成孔 本物のブルースシンガー・aikoを語る
https://miyearnzzlabo.com/archives/12133

f) aiko/セシルの週末
https://www.nicovideo.jp/watch/sm21419347
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バク・ハリー

aikoの強みは、最初から全然変わってないってことですね。
でも、飽きない。これってすごいなと思います。眼に見えるもの全てが作品になるヒトです。新譜もいいです。
老舗の和菓子屋さんみたいな、ずっと変わらない強さというか。
東洋経済ONLINEの『歌手aikoが語る「私が恋愛の曲を作り続ける理由」』という記事も面白かったです。
by バク・ハリー (2023-10-02 09:59) 

バク・ハリー

あと、b の後に c を聴く時、ボリュームに気をつけたほうがいいです。
めっちゃでかい音のCMで、耳がしにました。笑
by バク・ハリー (2023-10-02 10:21) 

末尾ルコ(アルベール)

aikoと井口理の「カブトムシ」は大好きな動画でしょっちゅう視聴してます。めちゃめちゃいいですよね。井口が出作りのお菓子をaikoにプレゼントするところとか最高。
井口理はaikoに対する愛情をあからさまに語るだけでなく、ポルノグラフィティとかも大好きで、この辺りは意外な感もあるのですが、さらに子どもの頃から映画も大好きで、現在俳優も真面目に取り組んでいるようです。
Aikoのライブ、ノリがとにかく凄いですね。どんどん熱が上がり、異様な空間ができていく。一見ポップなようでいて、どんどん狂的な熱気を孕んでくる。まるでサバトのように。とは少し言い過ぎかもしれませんが、でもやはりそんなイメージさえ持ってしまう凄さがあります。
ブルーノートに関してはわたしまだ理解不足なので、今後意識して聴いてみます。
Aikoとユーミンの「ひこうき雲」コラボもYouTubeにありますね。それにしても「ひこうき雲」、凄くプロコルファルムなんですね。最近まで気づかなかったのですけど。
KingGnuはいいですよね。本当に信頼できるバンドです。クリスマス向けのラブソングとか作りそうにないですし(笑)。RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2023-10-02 10:33) 

lequiche

>> バク・ハリー様

老舗の和菓子屋さん! ずっと変わらない強さ!
良いですね。
まさにその通りだと思います。

東洋経済ONLINEのご紹介ありがとうございました。
とても示唆に富んだ記事でした。
aikoの発言の中では、下記のあたりに特に共感してしまいます。

 単純に一人でいるのが好きっていうのもあるんですけど。
 アーティストは孤独であるべきだとも思っています。私の
 理想ですね。しょっちゅう飲み会とかでウェイウェイして
 たら、良い楽曲が出来ない気がするんです」

 でも自分のことを書いているから、私の場合、楽曲を作る
 ためにインプットする必要はなくて、日々、生きていると
 曲が生まれる感じです。ご飯を食べる、眠る、何かを感じ
 る、歌が浮かぶ。だから、生きている限りは新しい音楽が
 作れるし、歌い続けられたらいいなと思います」

 ただ、何がどうなろうとも、CDは出し続けたい。配信で
 曲を知ってもらえるのも嬉しいけど、やっぱり1曲だけじゃ
 なくて、アルバムで聴いてほしいです。アルバムを1つの作
 品として、楽曲の並び順はもちろん、曲間の秒数までも意
 味を込めて作っているから。
by lequiche (2023-10-04 02:19) 

lequiche

>> バク・ハリー様

あ、確かに。(^^)
bのレヴェルが妙に低いんです。
こういうのって困りますね。
by lequiche (2023-10-04 02:19) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

井口理とのオールナイトニッポンは面白いですが、
バク・ハリーさんにご紹介いただいた上記の記事によれば
その後は疎遠になってしまったようです。
残念ですが、あまりツルまない、という
基本的にはストイックなaikoの姿勢が感じられます。

そしてライヴは重要な音楽的表現の場であるので
コロナ禍でライヴができなくなったのは辛かった、
というようなことを言っています。

私が手に入れた最初のaikoのメディアは《まとめ I》《まとめ II》で、
これはたまたまリサイクルショップで見つけたのですが、
いわゆるベスト盤です。
でもaikoは単曲で聴いて欲しくない、
アルバム順で聴いて欲しいというようなことを語っています。
アルバムの曲順が重要というのは椎名林檎と同じで、
椎名も 「アルバムは曲順が重要」 なので
「シャッフルしないで聴いて欲しい」 というようなことを
言っていたのを思い出しました。

ブルーノートは、結果としてブルーノートだったということで
aikoはブルーノートを使おうと考えて
曲を作ったり歌ったりしていないところが重要なのです。
身体から自然に出て来たのがブルーノート的な音だったわけで
それはアメリカにおけるブルースの発生に似通っています。
つまりプリミティヴな音楽に内在する共通のテイスト
と言ってよいと思います。
by lequiche (2023-10-04 03:23) 

バク・ハリー

おすすめ記事、ご覧いただいたんですね。
ありがとうございました。(^。^)/
書き漏らしていましたが、もちろん、lequicheさんの「aikoブルーノート説」なるほどと得心しましたし、山下洋輔の『風雲ジャズ帖』なつかしく思い出しました。読み返したくなって書庫をざっと見渡したところ見当たらないので、引き続き捜索中です。(整理能力ゼロの私。笑)
《ミステリと言う勿れ》の主題歌「硝子窓 」もとても好きです。
by バク・ハリー (2023-10-04 11:41) 

lequiche

>> バク・ハリー様

山下洋輔の『風雲ジャズ帖』は
その後の著作の原点となった本という意味で貴重です。
山下トリオ初期の、やはり原点となったライヴに
《Dancing古事記》という1969年のアルバムがありますが、
今、YouTubeで全部を聴くことができます。
お時間がありましたら是非、御一聴を!
https://www.youtube.com/watch?v=zdDl9Z2drtw

by lequiche (2023-10-08 00:20)