SSブログ

オリヴィエ・メシアン〈Chronochromie〉 [音楽]

messiaen1983_240303.jpg
Olivier Messiaen, 1983 (npr.orgより)

メシアンのことを書こうと思って、最初は〈Quatuor pour la fin du temps〉を聴いていた。それは2016年のソルスバーグ・フェスティヴァルの映像であり、ザビーネ・マイヤーがクラリネットを吹いている演奏で Hochrhein Musikfestival Productions というチャンネルにupされている。演奏されるクァルテットは音楽も、そして演奏会場の建物も美しい。
だが、この曲はすでに有名過ぎるし、それに以前、リチャード・パワーズが『オルフェオ』のなかで作品成立時の経緯を小説に描いていたことを含めて記事に書いたことがあるし、そのとき 「la fin du temps」 は 「世の終わり」 でなく 「時の終わり」 だという訳語の問題まで含めて、もういいかと思ってしまったのである (→2015年10月09日ブログ)。

というわけで今回の話題は〈Chronochromie〉(クロノクロミー/1960) である。
この作品は (une œuvre) pour grand orchestre と表記されている通り、かなり大編成用に書かれたオーケストラ曲である。Donaueschinger Musiktage (ドナウエッシンゲン音楽祭) のために書かれたというが、例によって初期の頃は賛否両論という作品であった (アーチー・シェップに《Life at the Donaueschingen Music Festival》(1967/邦題はワン・フォー・ザ・トレーン) という有名なライヴ・アルバムがあるが、あのドナウエッシンゲンである)。

wocomoMUSICというサイトに 「Opus 20 Modern Masterworks」 という動画があり、これでピエール・ブーレーズによるメシアンの〈Oiseaux exotiques〉(異国の鳥たち) と〈Chronochromie〉を聴くことができる。

楽器編成についてfr.wikiでは 「4 flûtes, 3 hautbois, 4 clarinettes, 3 bassons」 と書かれているが、この部分はja.wikiのほうが詳しくて 「ピッコロ、フルート3、オーボエ2、コーラングレ、小クラリネット、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット3」 とあり納得である。
曲は Introduction, Strophe I, Antistrophe I, Strophe II, Antistrophe II, Épode, Coda の7つの部分に分かれているが、メシアンといえば chants d’oiseaux つまり鳥の歌であり、Épode でそれが発揮される。16の弦楽器がそれぞれ独立して演奏されるが、小節の並びによる整合性はなく、勝手に演奏されるだけだ。しかしもちろんアドリブではなく、全て譜面に書かれている。wikiに拠れば 「組織された無秩序」 とのことである。

下記にリンクしたブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポランの演奏は L’Alte Oper (ラルテ・オーパー) というフランクフルトの旧オペラ座で録られたものであるが、15’55” からが〈Oiseaux exotiques〉そして 30’45” からが〈Chronochromie〉と表示されている。実際には2曲目冒頭にブーレーズのインタヴューアーへのコメントがあるため、曲の始まりは 33’08” 頃からであり、Épodeは 48’40” あたりからである。
ブーレーズの指揮は非常に精緻で、かつダイナミクスさを備えていて、晩年の好々爺なブーレーズではなく、最も精力的だった頃の 「怖いブーレーズ」 である。もっとも Épode の部分は指示の出しようがないので、単純に一定のリズムを振るだけである。
グロッケンシュピールはキーボード・グロッケンを使用しているようだ (ブーレーズに関してはその追悼文を参照されたい→2016年01月09日ブログ)。


Messiaen Edition (Warner Classics)
Messiaen: Messiaen Edition




Olivier Messiaen/Oiseaux Exotiques & Chronochromie
異国の鳥たち、クロノクロミー
Pierre Boulez, Ensemble intercontemporain
Opus 20 Modern Masterworks
https://www.youtube.com/watch?v=jbiZGoctGpw

Weithaas, Gabetta, Meyer, Chamayo/
Messiaen: Quatuor pour la fin du temps
時の終わりのための四重奏曲
Antje Weithaas, Violine
Sol Gabetta, Cello
Sabine Meyer, Clarinet
Bertrand, Chamayou, Piano
Filmed at Solsberg Festival 2016
https://www.youtube.com/watch?v=QAQmZvxVffY
nice!(80)  コメント(5) 
共通テーマ:音楽

あいみょん AIMYON TOUR 2019 [音楽]

aimyon2019_240225.jpg

歌詞にあらわれるセクシュアリティ、あるいはジェンダーに関する言葉の質が私にとっては重要なのではないかと気づいた。あくまで私にとってであって普遍化できるものではない。
女性歌手の歌う歌詞のなかの 「僕」 という一人称に惹かれたきっかけは浜崎あゆみの〈Fly high〉だったが、それは性の未完成さ、あるいは不安定さのひとつのあらわれという解釈もできるのだけれど、でもそれだけでは納得できない不純さが歌詞という形態には存在する。それがきれいな言葉で形容するのなら歌詞というものの不思議さなのだと思う。

浜崎あゆみのもうひとつのキーとなる曲に〈Moments〉があるのだが、過去の私にはまだ〈Fly high〉と〈Moments〉というふたつの曲の差異がわかっていなかった。それを的確な言葉にすることができないのだが、簡単にいえば〈Moments〉はずっと爛熟で頽廃である。あるいは〈Fly high〉にはMVのヴィジュアルを別にしても少女マンガ的少年性が垣間見えるが〈Moments〉にはそれがない (Fly high とそれに付随することについてはすでに過去に書いた→2018年03月18日ブログ)。
しかし私は 「僕」 という一人称にこだわり過ぎていたのかもしれない。あるいは過反応していたのかもしれなかった。あのちゃんが自分を指すときの 「僕」 はジェンダーを意識させない 「僕」 だし、ヒコロヒーの使う 「わし」 は最初、違和感があったがすぐに慣れた (それに「わし」 は男性の一人称とは限らないことを後から知った)。

そして、あいみょんも作詞のなかに 「僕」 を使う。別にあいみょんだけでなく、他の歌手だって使うのだが、そして性の越境は日本の演歌歌詞ではごく日常的でさえあるのだけれど、あいみょんの場合、特に有名曲にこの 「僕」 頻度が高いような気がする。たとえば〈君はロックを聴かない〉がそうだし〈空の青さを知る人よ〉も〈ハルノヒ〉もそうだ。〈マリーゴールド〉には 「僕」 は使われていないが、あきらかに男性の心情を綴った歌詞である。
だからといって、あいみょんは性倒錯ではないし同性愛とも思えない。つまり作詞というストーリーの中での 「男性」 性でしかない。それに何よりも 「僕」 という人称を使っている違和感がなくて、初めて聴いてしばらく経ってから私はそれに気づいたのである。それは近年のジェンダーに対する一般的意識の変化などが原因ではなくて、歌詞というものに対するあいみょんのストーリーテリングの巧みさなのだと思う。
それとこれは極私的嗜好なのだが、歌詞のなかに具体的な地名が出てくることに惹かれる。〈ハルノヒ〉の 「北千住駅のプラットホーム」 がそうだ。RCサクセションの 「多摩蘭坂を登り切る 手前の坂の」 もそうだし、山崎まさよしの〈One more time one more chance〉の歌詞の 「明け方の街 桜木町で」 も同様である。

あいみょんのライヴ映像のなかで私が好きなのは、少し古いのだが《AIMYON TOUR 2019 −SIXTH SENSE STORY− IN YOKOHAMA ARENA》だ。
それの1年前の 「TOKYO GUITAR JAMBOREE 2018」 におけるライヴ映像もYouTubeにあるが、ギターもJ-45でなくトリプル・オーで、まだ初々しく真摯な歌唱でこれはこれで好きなのだが、1年経った後の確信に満ちた歌唱を観ると、こんなに進歩してしまうのかと驚く。
どの曲もキャッチーなメロディライン、それはリスナーが歌おうとしても決してむずかしくなく、それでいて安直なつくりでもない。このライヴの満足感と充実感にはすでに一種の風格が感じられるのだ。


AIMYON TOUR 2019 −SIXTH SENSE STORY− IN YOKOHAMA ARENA
あいみょん/今夜このまま
https://www.youtube.com/watch?v=V6RTQmohrMA

あいみょん/ハルノヒ
https://www.youtube.com/watch?v=MgY-OY3RjUM

あいみょん/空の青さを知る人よ
https://www.youtube.com/watch?v=nGY19DwskCg

あいみょん/君はロックを聴かない
https://www.youtube.com/watch?v=cJnO-Y_YnFg

TOKYO GUITAR JAMBOREE 2018
あいみょん/満月の夜なら
https://www.youtube.com/watch?v=eJhy3HjspEo

[参考]
浜崎あゆみ/Fly high (MV)
https://www.youtube.com/watch?v=2zTG-uhGKbo
nice!(86)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

パレ・デ・コングレ・ドゥ・リエージュのエリック・ドルフィー [音楽]

EricDolphy_19640419_230223_1.jpg
Eric Dolphy

1964年のチャールズ・ミンガスとの過酷なツアーにおけるエリック・ドルフィーの動画を観ていた。ベルギーのパレ・デ・コングレ・ドゥ・リエージュにおけるミンガス・クインテットの演奏で Recorded for belgian TV show “Jazz pour tous” と注記されている。カメラのポジションが固定されていて、メンバー全員の映るショットがないのが残念だが、演奏はステージにおける狂躁的なミンガスとはやや異なっていて、しかしまだ若いミンガスの精悍なリーダーシップがうかがわれる記録である。

1964年はドルフィーの最後の年であるが、まず煩雑だがセッショングラフィを見てみよう (フランス語のアクサンなど付いていないがそのままコピペする)。

John Lewis 6 NYC, Jan. 10, 1964
New York Philharmonic Young People's Concert Philharmonic Hall, Lincoln Center, NYC, Feb. 8, 1964
Eric Dolphy 5 VGS, Englewood Cliffs, NJ, Feb. 25, 1964
Eric Dolphy 4 University Of Michigan, Ann Arbor, MI, Mar. 1 or 2, 1964
Eric Dolphy 4 WUOM Studios, Ann Arbor, MI, Mar. 2, 1964
Charles Mingus 6 Cornell University, Ithaca, NY, Mar. 18, 1964*
Andrew Hill 6 VGS, Englewood Cliffs, NJ, Mar. 21, 1964
Charles Mingus 6 Town Hall, NYC, Apr. 4, 1964**
Gil Evans Orch. Webster Hall, NYC, Apr. 6, 1964
Charles Mingus 6 Concertgebouw, Amsterdam, Holland, Apr. 10, 1964
Charles Mingus 6 University Aula, Oslo, Norway, Apr. 12, 1964
Charles Mingus 6 Konserthuset, Stockholm, Sweden, Apr. 13, 1964
Charles Mingus 6 Stockholm, Sweden, Apr. 13, 1964
Charles Mingus 6 Odd Fellow Palaeet, Stor Sal, Copenhagen, Denmark, Apr. 14, 1964
Charles Mingus 6 Bremen, W. Germany, Apr. 16, 1964
Charles Mingus 6 Salle Wagram, Paris, France, Apr. 17, 1964***
Charles Mingus 5 Theatre Des Champs-Elysees, Paris, France, Apr. 18, 1964****
Charles Mingus 5 Palais Des Congres, Liege, Belgium, Apr. 19, 1964
Charles Mingus 5 Bologna, Italy, Apr. 24, 1964
Charles Mingus 5 Wuppertal Townhall, Wuppertal, W. Germany, Apr. 26, 1964*****
Charles Mingus 5 Mozart-Saal/Liederhalle, Stuttgart, W. Germany, Apr. 28, 1964
Daniel Humair 4 Paris, France, May 28, 1964
Eric Dolphy 4 Cafe De Kroon, Eindhoven, Holland, June 1, 1964
Eric Dolphy 4 Hilversum, Holland, June 2, 1964
Eric Dolphy 7 Paris, France, June 11, 1964

このリストに拠ればヨーロッパでのミンガス・グループのツアーは4月10日の Concertgebouw から4月28日の Mozart-Saal までである。しかしその前に4月4日のニューヨークのタウン・ホールにおけるライヴもある。ベルギーの Palais Des Congres, Liege は4月19日となっているが、アルバムとして残されているライヴ録音に Théâtre des Champs-Élysées, Paris における《The Great Concert of Charles Mingus》があり、en.wikiには Recorded April 19, 1964 と表記されている。しかしセッショングラフィには18日とある。
これはなぜなのか、と思ったのだがde.wikiにその理由が書かれていた。

Am nächsten Tag folgte ein weiterer Auftritt in Paris, wo die Gruppe als Quintett auftrat. Das zweite Konzert fand am 18. April (genauer sehr früh am 19. April, nämlich von 0.10 bis 2.45), diesmal im “Theatre des Champs Elysées”, statt. Es wurde live vom ORTF- übertragen.

つまりシャンゼリゼでのライヴは18日の深夜、0時10分から始まっているので、カレンダー的には19日なのだ。深夜のライヴが終わって、その日のうちにベルギーに行き、パレ・デ・コングレで録音されたのが今回のターゲットとしている演奏である。このスケジュールは過酷過ぎて、音楽がやや沈潜しているような印象を受けた原因はそこにあるのかもしれない。セッショングラフィを見ると、この日からセプテットがクインテットに変わっているが、それはジョニー・コールズがダウンして抜けてしまったからである。
曲目は〈So long, Eric〉〈Peggy’s Blue Skylight〉〈Meditations〉の3曲だが、特に3曲目の〈Meditations〉は後半が現代音楽的になっていて、疲れているのかなとも思ってしまう。ドルフィーはフルートとバスクラを持ち替えていて、どちらもすごいが、クリフォード・ジョーダンのテナーもよく拮抗しているように聞こえる。

ドルフィーのリーダー・アルバムでいうのならニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオにおける《Out to Lunch!》のレコーディングが2月25日、そしてその後はオランダのヒルヴェルサムで録られた《Last Date》の6月2日なのである。この2枚のアルバムの間のミンガスとのツアーは音楽的には高度に充実していたのかもしれないが、同時にストレスも大きかったのだろうと思われる。

《Last Date》に残されているドルフィーの最後の言葉:

 When you hear music after it’s over, it’s gone in the air, you can
 never capture it again.
 音楽は終わってしまえば消えてしまい、二度ととらえることはできない

は諦念なのか、それとも単に物理的な現象を語ったことに過ぎないのか、私はたぶん後者だと思っているのだが、でも消えてしまわずに残っている〈You Don’t Know What Love Is〉は彼岸からの声のように聞こえて、今、あらためて再生することはあまりない。

EricDolphy_19640419_230223_2.jpg.jpg

Charles Mingus & Eric Dolphy,
Palais des Congrès de Liège, Belgium, April 19th, 1964
Recorded for belgian TV show “Jazz pour tous”.
https://www.youtube.com/watch?v=03NX_EjGijM

[参考]
1964年のミンガス・グループのツアーのライヴ演奏がアルバム化されているのは下記の通りである。*印は上記のセッショングラフィに対応している。
* March 18, 1964: Cornell 1964 (Blue Note)
** April 4, 1964: Town Hall Concert (Jazz Workshop JWS 005)
*** April 17, 1964: Charles Mingus/Revenge! (Revenge 32002)
**** April 18 (19), 1964: The Great Concert of Charles Mingus (America)
***** April 26, 1964: Mingus in Europe Volume I (Enja 3049)
***** April 26, 1964: Mingus in Europe Volume II (Enja 3077)
nice!(71)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽