花と鳥の永遠 — ヴィラ=ロボス Suite populaire brésilienne [音楽]
最初にヴィラ=ロボスを聴いた時のことを私は鮮明に覚えている。それは随分以前の、私が音楽なんてまだ何も知らない頃、ちょっとした作業をするために友人の友人の家を初めて訪ねたことがあって、そこで作業をしているときに聞こえてきたFMの放送でだった。
曲は〈花の分布 Distribuição de flores〉で、その不思議な音は決して衝撃的ではないのだが、心にしんと沁みる確かな印象を残したのである。プーランクのフルートソナタのように都会的ではないが、スマしてもいない。
その時の 「友人の友人」 さんは音楽にも詳しい人で、色々とかなり親しく話したのに、その後はそれっきりで何の縁もなくなってしまった。友人もその人のことについて改めて話題にするわけでもなく、まるでそんな人など存在しなかったかのようである。
エイトル・ヴィラ=ロボス Heitor Villa-Lobos は非常に曲数の多い作曲家で、とても全部は聴けそうにない。全部は聴けそうにないと思えてしまうほど未知の曲がまだまだあるという点ではとても楽しみである。
好きな作曲家や、好きな作家の作品は、その人が亡くなっている場合、いつか全部聴いてしまったり全部読んでしまうことによって終わりが来る。その終わりの来るのが悲しいので、私は全部聴いたり全部読んだりしないようにしている。変なこだわりかもしれないが、まだ知らない作品が残っている、というのが一種の保険なのだ。その点、ヴィラ=ロボスは幾ら聴いても終わりが来そうにないので安心できるような気がする。
スウェーデンのアケルスベルガにBISレコードというレーベルがあって、ここで出しているシベリウスの全集は本当の全集で、このこだわりはすごいと思うのだが、そのBISから出ているヴィラ=ロボスのショーロスなどを集めたセットがあって、何か必要があって買ったような気がするのだが、何を聴きたかったのかも忘れてしまった。
ヴィラ=ロボスは、そうした鷹揚な聴き方でも許されてしまうようなルーズな感じがする。私が勝手に思っているだけなのかもしれないが。それにスウェーデンのレーベルによるブラジルの曲というのが、すごく距離的にもかけ離れているようで心地よい。
このセットの中の1枚がギター独奏曲に割り当てられていて、これがとても好きでよく聴く。5つのプレリュード (1940)、ブラジル民謡組曲 (1908〜12)、12のエチュード (1929)、ショーロス1番 (1920) である。
このブログでエグベルト・ジスモンチのことを書いたことがあるが (→吹きすぎる乾いた風)、ヴィラ=ロボスとジスモンチは、ちょっと聴くと随分違っているように思えて、でもたとえばエチュードの終曲・Animéなど聴くと、やっぱりジスモンチはヴィラ=ロボスの末裔のような気がしてならない。
ヴィラ=ロボスは豊かで、ジスモンチのようなエキセントリックさが無い。でも2人に共通して感じるのは、花と鳥のイメージである。その鳥もメシアンのようでなく、もっと極彩色の南米の鳥の姿である。
ブラジル民謡組曲 Suite populaire brésilienne は5曲あるのだが、その1曲目のマズルカ・ショーロとか、4曲目のガボタ・ショーロなど、これを聴いているととても懐かしくて、私の故郷はブラジルなのかもしれないと思ってしまうのである。
画像:villalobos.caのトップにあるイラスト
Heitor Villa-Lobos: The Complete Choros and Bachianas Brasileiras (BIS)
Norbert Kraft/Villa-Lobos: Complete Music for Solo Guitar (NAXOS)
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