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スクリデのブラームスを聴く [音楽]

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初めてスクリデを聴いたのも確かNHK-FMのライヴで、だからこのブログのタイトルにもあるように、私の音楽との新しい出会いはラジオからであることが多い。TVのNHKの音楽番組は初心者向けにシフトしてしまったので情報源となるのはFMに限られる。そのライヴは張りつめていながら余裕を持った先鋭的なラヴェルのソナタだった。そうそう、ラヴェルはこう弾かなくちゃ! とすごく納得したのを覚えている。

バイバ・スクリデ Baiba Skride は1981年生まれのラトヴィア人のヴァイオリニストで、2001年のエリザベート王妃国際コンクールで1位になった人だ。エリザベートではギドン・クレーメルが1967年に3位になっている。若い頃の彼女の動画を見るとすごく細身で、美人ヴァイオリニストなどと形容されていたりするが、今はかなり 「ふくよか」 になってしまって、まぁそれなりである。

CDで私が最初に聴いたのは、しかしラヴェルでなくショスタコーヴィチの1番のコンチェルトで、しかももう1曲はヤナーチェクという組み合わせで、このショスタコは繰り返し聴いていた。最後まで聴いたら拍手が入っていてライヴ録音だったので驚いたのだが、最近のヴァイオリニストというのは滅多にミスをしない。たぶん腕だけアンドロイドなのだと思う。ルーク・スカイウォーカーみたいに。
ラヴェルの入っているアルバムは、シューベルト、ベートーヴェンそしてラヴェルという選曲だったので、ややウレセン狙いかと思い避けたためである。後追いでこれらの入っている《Duo Sessions》を聴いてみたが、ラヴェルも確かに素晴らしいのだけれどライヴの時ほどの感動は無かった。ラヴェルはツィガーヌも入っているのだけれど、これもライヴのほうが良いと思う。

そのスクリデのブラームスはレーベルがSONYからOrfeoに変わって最初のアルバムで、コンチェルトとハンガリー舞曲集という2枚組である。
ちょっとトリッキーな組み合わせで、しかも1枚目と2枚目では使用している楽器が違うのだという。コンチェルトで使用しているのは、今までと同じヴィルヘルミ Wilhelmj というストラディヴァリウスだが、ハンガリー舞曲ではエクス・バロン・フォン・ファイリッチュ ex Baron von Feilitzsch というストラドを使っている。
ヴィルヘルミはアウグスト・ヴィルヘルミ August Wilhelmj 1845〜1908 というドイツのヴァイオリニストが使用していたのでそのような名前が付けられている1725年製作の楽器であり、日本音楽財団の所有でスクリデに貸与されている。スクリデに来日公演が多いのはそのためもあるのだと思う。
対するエクス・バロンはヒューゴ・ヒーアマン Hugo Heermann 1844〜1935 というドイツ人ヴァイオリニストが使用し、そしてギドン・クレーメルが使っていた1734年製の楽器である。クレーメルがスクリデに貸しているようだ。

ブラームスのコンチェルトは、ベートーヴェンやメンデルスゾーンに較べるとややシブい感じがするけれど、実は最も深い。音が少ないようでそうでなく、簡単そうに見えて実はそんなに簡単なはずがない。作曲されたのは1878年で、交響曲第2番が1877年だからその翌年である。
まるでシンフォニーのように始まり、でもシンフォニーとはちょっと違うような印象を振りまきながら音は流れてゆき、やがて弦が 「来るぞ来るぞ」 という予告のように16分音符で繰り返しをしていると、そこに満を持してソロ・ヴァイオリンが入ってくるところが好きだ。

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一回りソロが終わって、管が継続した音で上から支えているところに、下からのピチカートの弦の動きに押し出されるようにして始まるソロ・ヴァイオリンの表情も好きだ。シンプルなのだけれど一音一音が洗練されていてどこにも無駄がない。ベートーヴェンのようにパッショネイトでもなく、メンデルスゾーンのように過度にロマンチックでもなく、でもちょっとほの暗くて美しい。

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でもシンプルということでいうのなら、終楽章が最もシンプルなのだろう。冒頭からソロ・ヴァイオリンの弾くリズム。このリズム・パターンがこの楽章のすべてを支配しているのだから。

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さて2枚目のハンガリー舞曲集 Ungarische Tänze はヨーゼフ・ヨアヒム Joachim József 1831〜1907 によるヴァイオリン編曲版で、これはもうコンサートのアンコール用にぴったりな曲集で楽しい (といって、ツィゴイネルワイゼンほど通俗でもないので)。ただヴァイオリンの音色の違いというのは確かにあって、録音の差もあるのかもしれないが、漠然とした印象として音が太い。私の好みとしてはヴィルヘルミのほうが良いのだが、しかしこのOrfeoのコンチェルトのほうの録音は、何となくヴィルヘルミを100%生かし切っていないような感じがする。
ヨアヒムはブラームスのコンチェルトの初演者であり、曲もヨアヒムに献呈されているが、ヨアヒムとブラームスは仲が良くなったり悪くなったり、色々とあったらしい。
彼の弟子にはレオポルド・アウアーやイェネー・フバイがいたが、ヒーアマンもヨアヒムに学んだことがあるとのことである。そしてアウアーの弟子にはヤッシャ・ハイフェッツやナタン・ミルシテイン、フバイの弟子にはヨゼフ・シゲティがいる。

スクリデはOrfeoで、このブラームスの後、ストラヴィンスキーとマルタンのヴァイオリン・コンチェルトを出したがまだ未聴である。彼女のコンサートの予定を見てみるとグバイドゥーリナのコンチェルトが入っていたりするので、CDでもちょっと変わったプログラムがこれからも期待できるかもしれない。


Baiba Skride/Brahms: Violinkonzert・Ungarische Tänze (Orfeo)
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲、ハンガリー舞曲集 (Johannes Brahms : Violinkonzert, Ungarische Tanze / Baiba Skride, Sakari Oramo, Lauma Skride, Royal Stockholm Philharmonic Orchestra) [2CD]




Baiba & Lauma Skride/Duo Sessions (Sony BMG Europe)
Duo Sessions




Baiba Skride/Shostakovich Janacek Violin Concertos (Sony Classics)
Shostakovich & Janacek Violin Concertos




Søren Nils Eichberg: Violin Concerto “Qilaatersorneq”
The Queen Elisabeth Violin Competition 2001
http://www.youtube.com/watch?v=Y8rSZM8bdb4
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