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Recording Angel ― アルヴェ・ヘンリクセン《Cartography》 [音楽]

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Arve Henriksen

この前、ディーノ・サルーシのサイドメンのトランペッター、パレ・ミケルボルグについて触れたが、そうしたECM系のダークなトランペッターのひとりとして、マーカス (マルクス)・シュトックハウゼンの名前もあげておいた。マーカスはカールハインツ・シュトックハウゼンの息子であるが、その音楽性に父からの影響はあまり無いように思える。

ヨハネス・トニオ・クロイシュの《Art of the Guitar》のなかに〈panta rhei〉というディスクがあって、これはクロイシュとのギター&トランペットのデュオである。これを聴いていて思ったのだが、マーカスにはダークネスはあるのだけれど、それはざらついた暗いダークさではなくて、もっと澄んだ響きの孤独感なのだ。この滑らかな清涼ともいえるトーンに少し驚く。そうした意味で彼のトランペットはECM系の暗いトランペッターのなかでは特異である。
ただ、クロイシュのギターはこのOehms盤の録音のせいなのだろうが、妙に大きい音像と残響、そして大味な音色が印象に残るばかりであまり好きになれない。

トマス・スタンコやミケルボルグより、もっとざらついていて、ジャズ的なスウィング感などほとんど無いトランペッターとして、アルヴェ・ヘンリクセン (Arve Henriksen) がいる。といっても私はまだ《Cartography》(2008) というアルバムを聴いただけなのだが、音をさらにいじりまくるヤン・バング (Jan Bang) とエリック・オノーレ (Erik Honoré) のコラボレーションによって成立しているアルバムだといってもよい。
デヴィッド・シルヴィアンの Samadhi Sound のラインナップのなかにバングとオノーレを起用した《Uncommon Deities》という作品があったが、私はまだ未聴である。
そしてこのヘンリクセンの《Cartography》のなかにもシルヴィアンがヴォイスで参加している曲が2曲ある。

バングの担当パートは live sampling, samples, beats, programming, bass line, dictaphone, organ samplies, arrangement と表記されていて、その加工マニア風なプロフィールが容易に想像できる。

だが、このヘンリクセンのアルバムのパーソネルのなかに Trio Mediaeval という名前を発見した。Trio Mediæval (正確な表記はaとeがこのように合字) は3人の女声コーラスのグループ名らしいが、たとえば〈Recording Angel〉では voice sample とクレジットされている。こうした古風な和声構造を想起させるヴォーカル/ヴォイスというと、どうしてもエンヤを思い出してしまうが、mediaeval (あるいはmedieval) とあるようにそのルーツはもう少しスクウェアなのだろう。
なによりもリチャード・パワーズの小説のなかに mediaeval music のエピソードが出てきたのを読んだばかりなので、偶然なのだろうけれどその暗合が不思議だ。パレストリーナより昔の音楽であるコーラスの原点としてのオルガヌム。

バングの作り出すすべての音は変調され、不連続で、ざらついていて、わざとラフにエディットされて繋がれたような、幾つものノイズの集合の上に成立されているように聞こえる。
その隙間を埋めるのは、たとえばいつか聞いたクジラの声の録音とか (そんなSEをバックにしたジャズの曲を聴いた記憶がある)、フィールドワークされた寒村の記憶とか、そうした元々は素朴な自然音からのサンプリングのような、抽象の狭間から生成された音のような気がする。
ノイズは耳障りなこともあるが、かえって心に安らぎを与えることもある。アナログディスクのスクラッチノイズから始まる最近の曲があったが、それは古い映画のフィルムの画面のようにわざと傷の付けられた模造品に似て、ノスタルジアを誘う偽装なのだ。世界はノイズに満ちているのかもしれない。そしてヘンリクセンのトランペットは傷のついた光沢面のように、いつも濁っている。クラシックトランペットでは不可とされる音だ。
トランペットが入ってくるとき、同じタイミングで下を支えるベース。これはジャズの1ジャンルなのかもしれない、と一瞬錯覚させる瞬間。

YouTubeでクリスチャン・フェネスとのデュオ Jazzhouse, Copenhagen, 19th of March, 2015 という長い動画を見つけたが、コラボする相手によってそのスタイルを変えていっても、ヘンリクセンの本来持っている音型のクセのようなものは終始変わることがない。
特定のジャンルに属しにくいそうしたトランペッターがECM系には多いのか、それともたまたま目についているだけなのか、まだよくわからない。


Arve Henriksen/Cartography (ECM Records)
Cartography (Ocrd)




Arve Henriksen/Recording Angel
https://www.youtube.com/watch?v=t6jx3OoVHnk
Arve Henriksen/Blue Silk
https://www.youtube.com/watch?v=wrfW4CJrvDM
Fennesz & Henriksen/Jazzhouse, Copenhagen, 19th of March, 2015
https://www.youtube.com/watch?v=37LattIVyAs
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lequiche

>> desidesi 様

いつもありがとうございます。
日野皓正とピンクフロイド! 言えてますね。
って、ピンクフロイドは私、あまりよく知りません。
でもギルモアの《Live in Gdańsk》は素晴らしかったです。
映像が特に。
新作の《Rattle That Lock》が出ましたがまだ聴いていません。
日野皓正は以前六本木かどこかで聴いたことがありますが、
間近で聴くと音の張りがすごかったです。
by lequiche (2015-10-04 22:35) 

U3

コア過ぎてよく分かりません(笑)
by U3 (2015-10-05 08:48) 

lequiche

>> U3 様

申し訳ありません。
デヴィッド・シルヴィアン・フリークなら
たぶん、耳なじみの多い名前ばかりなのですが。(^^;)
by lequiche (2015-10-05 13:07) 

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