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浅川マキと近藤等則 —《CAT NAP》 [音楽]

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近藤等則 (kafkanahito.comより)

浅川マキのアルバムにおいて、あきらかにジャズ・テイストを感じさせられる曲は4thアルバムの《裏窓》(1973) ではないかと思う。なぜならA面4曲目に〈セント・ジェームズ病院〉が収録されているからで、歌唱そのものは典型的な浅川マキのノリに過ぎないのだけれど、つまりジャズ・テイストとは異なるのにもかかわらずこれを推すのは、南里文雄 (1910−1975) のトランペットが入っているからだ。そしてこのソロは南里のラスト・レコーディングである。演奏は神田共立講堂におけるライヴだが、その2年後に南里は亡くなった。
そしてB面最後のギター伴奏によって歌われる〈ケンタウロスの子守唄〉は、こどものために書かれた憂いに満ちた子守唄のカヴァーであるが、筒井康隆作詞、山下洋輔作曲である。もちろんジャズ・テイストではないがこのアルバムの性格を如実にあらわしている。

次のアルバム《灯ともし頃》(1976) にはジャズ的な要素はないのだが、レコーディングが西荻窪の 「アケタの店」 であるという点においてジャズとの接点があるように感じる (といってもライヴ録音ではない)。
このアルバムのメインはジェリー・ゴフィン/バリー・ゴールドバーグの曲〈それはスポットライトではない〉(It’s not the Spotlight) であるが、ドラムスはつのだ☆ひろである (ロッド・スチュアートの歌唱でも有名)。ギタリストが萩原信義だった頃の浅川マキの歌唱はひとつのピークとして記憶される。そしてこのアルバムには近藤等則、坂本龍一の参加が見られる。
さらに山下洋輔をフィーチャーした《ONE》(1980)、本多俊之による《マイ・マン》(1982) を経て近藤等則とのコラボであるアルバム《CAT NAP》(1982) に至るが、この頃、近藤等則はまだほとんど無名であった。
そしてこれだけジャズ畑の人たちを擁しても、浅川マキの歌は決してジャズにはならない。どのような人たちとコラボしても彼らはサイドメンであり、浅川マキのテイストが崩されることはないのだ。
ただそうした状態のなかで、もっともアヴァンギャルドなのが近藤等則とのアルバム《CAT NAP》なのである。

坂本龍一も《灯ともし頃》の頃はオルガニストという扱いであったが、1978年のYMO《イエロー・マジック・オーケストラ》と翌年の《ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー》によって大ブレイクする。

そのような経過をたどった後、近藤等則が主宰したライヴが 「Tokyo Meeting 1984」 である。当時渋谷にあったTHE LIVE INNでの様子はカセットテープで書籍の流通により発売された。演奏者は近藤等則、仙波清彦、坂本龍一、高橋悠治、渡辺香津美、ペーター・ブロッツマン、ビル・ラズウェル、ヘンリー・カイザー、ロドニー・ドラマー、セシル・モンローといった人たちである。この中で最も尖鋭だったのが近藤とブロッツマンであり、大きい音の勝ちであった。
YMOは1983年に散開してしまい、坂本は1984年にソロ・アルバム《音楽図鑑》をリリースしていた時期である。
近藤等則の演奏は、今聴くとあきらかにマイルス・デイヴィスのエレクトリック・トランペットの影響が大きい (今年リリースされたマイルスの《That’s What Happened 1982−1985: The Bootleg Series.Vol.7》はちょうどこの時期にあたる)。下にリンクした〈暗い目をした女優〉は浅川マキのアルバム《CAT NAP》の冒頭曲である。
日本のジャズ・トランペッターの中で、日野皓正のように陽の当たることがあまりないポジションにいるトランペッターとして気にかかっているのが近藤等則 (1948−2020) と沖至 (1941−2020) である。

〈それはスポットライトではない〉という曲については、カルメン・マキの歌唱にからめて2019年04月29日のブログにすでに書いた。その際の話題のひとつとして言及した中森明菜の〈私は風〉も再度リンクしておくことにする。


浅川マキ × 近藤等則/暗い目をした女優
https://www.nicovideo.jp/watch/sm7108332

近藤等則/We Know Smart
https://www.nicovideo.jp/watch/sm7108136

浅川マキ/それはスポットライトではない
(京大西部講堂 1977年Live)
https://www.youtube.com/watch?v=9ub9AscfikA

浅川マキ/セント・ジェームス病院
https://www.youtube.com/watch?v=mMXCQJ9dY44

浅川マキ/ケンタウロスの子守唄
https://www.youtube.com/watch?v=pErj6uQW1AE

近藤等則/Tokyo Meeting 1984
https://www.youtube.com/watch?v=frBtW5rBtig

     *

中森明菜/私は風
1994 Parco Theater Live
https://www.youtube.com/watch?v=fi25Q-PtVdk
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ぼんぼちぼちぼち

記事に挙げられたアルバムは聴いていないのでやすが、
浅川マキさん、好きでやす。
あの退廃性はたまりやせん!
by ぼんぼちぼちぼち (2022-12-18 10:12) 

kiyotan

わたしたちにとって浅川マキは女神のような人
高校の頃 憧れましたね
声がいいんですよ
by kiyotan (2022-12-18 16:17) 

末尾ルコ(アルベール)

これ本当のお話ですが、わたしここ一週間ほど近藤等則のこと気になってたんです。それで彼のCD引っ張り出してカーステレオへ入れて、坂本美雨の『ディアフレンズ』の後に聴いたりして。それが『HUMAN MARKET』なのですが。
浅川マキのアルバムには近藤等則と坂本龍一が参加しているのですね。彼らは異なる場所にいるイメージだったので凄いなあと驚きます。
もっとも近藤等則の作品多いですから、さほどは聴いてません。その点、坂本龍一はほとんど聴いているのですが、近藤等則の場合はかつてテレビCMにも出ていて、それがまたカッコよくて、彼の音楽をさほど積極的に聴いていたわけではなかったけれど、わたしにとっては(最高にカッコいい日本人)の一人でした。だから亡くなった時はショックでした。
で、未聴だった『Tokyo Meeting 1984』、視聴させていただきましたが、もう最高です。これぞ音楽!という感じ。近藤等則を称賛しつつ、未聴の作品多数ですので、これから愉しみに辿っていきます。

浅川マキの「それはスポットライトではない」ですが、これはもう絶句するほど凄いですね。愚劣な側面も多いネット時代ですが、「過去の凄さ」をすぐに愉しめる点は、昭和の時代にはなかった嬉しさです。

中森明菜、「駅」、おっしゃる通り美しい。こうした歌い方ができる歌手は数少ないでしょうね。でも山下達郎の好みではないというのも分かるような気がします。「好み」でなかったので山下達郎ともあろう人が感情的になってしまったのでしょうか。

アルバムジャケットに関してですが、不肖わたくしめ、ユーミンがピンク・フロイドの『原子心母』や『狂気』のジャケットを担当した英国のヒプノシスに依頼していたと最近初めて知りました。いや、凄いですね。昨今ユーミンの「怪物性」が大きく再認識されている感があります。ご本人も躊躇なくご自分の「怪物性」に関して語るのもいいですね。日本人的謙虚さって、社会の多くの場面で精神を萎えさせ続けているというのがわたしの考えですので。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-12-18 21:10) 

Flatfield

カルメンマキ&オズはギターの春日博文のギターが好きです。 私は風のギターは圧巻だと思います。(でもちょっと変な人)
by Flatfield (2022-12-20 11:33) 

lequiche

>> ぼんぼちぼちぼち様

雰囲気も声も特徴がありますね。
友人のお姉さんが買ってきたレコードで聴いたのが
私の初めての出会いでした。
でもそのときはよくわかりませんでした。
感覚的にまだ子どもだったんでしょうね〜。(笑)
by lequiche (2022-12-21 04:25) 

lequiche

>> kiyotan 様

女神ですか!
特に若い頃の声は張りがあって余裕を感じます。
1stアルバムに収録されている〈ちっちゃな時から〉は
歌唱も曲も素晴らしいです。
作曲はむつひろし、編曲が山木幸三郎。
むつひろしはザ・キング・トーンズの
〈グッド・ナイト・ベイビー〉の作曲者として有名。
山木幸三郎は宮間利之とニューハードの座付き編曲者で
新人の1stアルバムに山木幸三郎。
これ、相当すごいです。
https://www.youtube.com/watch?v=Nf8lWBf8mgw
by lequiche (2022-12-21 04:50) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

《HUMAN MARKET》というのはIMAのアルバムですね?
そのアルバムを私は聴いたことがありません。
最も最盛期の頃ですね。
近藤等則は主にフリージャズのグループと共演したり
していましたが 「最初、手を抜いて吹いていたりしても
最後になったら少しがんばって吹いて辻褄を合わせる。
そうするとウケが良い」 みたいなことを言っていて
この人、したたかだなぁと思った記憶があります。

Tokyo Meeting、お聴きいただきありがとうございます。
《フューチャー・ショック》が1983年ですから
ビル・ラズウェルは、もう超有名だったはずで、
そんな人をメンバーの中に加えてしまっているのって
近藤等則のパワーを感じます。

〈それはスポットライトではない〉のサビの部分を
歌っているのはつのだ☆ひろですが、
この声はすぐにわかりますね。
浅川マキは〈ガソリンアレイ〉もカヴァーしていますので
ロッド・スチュアートが好きだったのだと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=eIbWn1a9YIs

山下達郎は、つい先日のFMでも
エイミー・ワインハウスが嫌いだと言っていました。
ジャストのリズムで歌わない人は嫌いみたいです。

ヒプノシスが手がけたのは
アルバム《昨晩お会いしましょう》のデザインですね。
そういうところが目ざといというか、
ユーミンはその頃の洋楽もよく聴いていたようです。
たしか〈Shine On You Crazy Diamond〉が
フロイドを意識させたきっかけの曲で好きだ
と言っていたように覚えています。
by lequiche (2022-12-21 05:13) 

lequiche

>> Flatfield 様

変な人なんですか?(笑)
《カルメン・マキ&OZ LAST LIVE》というアルバムの
〈空へ〉から〈私は風〉と続くあたりが好きで
繰り返し聴いていたことがあります。
「空へ」 とタイトル名を叫んでから曲に入って行くところが
ゾクゾクします。(^^;)
by lequiche (2022-12-21 05:29)