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クリスマスの光と影 — 沢田聖子・倉橋ルイ子 [音楽]

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沢田聖子

その友人は団地にひとりで住んでいた。団地は郊外の丘の上にあり、最寄り駅からはやや遠く、夜になると車でなければ行けないような場所だった。古びた同じかたちの建物がずらっと並んでいて、迷いそうだが迷うことはなかった。友人はプラモデルとニューミュージックが好きで (その頃、J-popという言葉はまだ無かったように思う)、あまり日本の音楽に明るくない私にオススメのミュージシャンを教えてくれた。その中のひとりが沢田聖子だった。最初に印象に残った曲は〈あなたからF.O.〉[あなたからフェード・アウト] でライヴの動画だったが、その演奏は、今、YouTubeを検索しても発見できなかった。

その頃、松田聖子という歌手もいて、沢田聖子 (さわだ・しょうこ) と松田聖子 (まつだ・せいこ)、名前の読み方は違うが苗字の漢字がひと文字違うだけで、わざと似た名前にしたのではないかという中傷もあった。だがそれは見当外れである。沢田聖子は本名だが、松田聖子は単なる芸名だからだ。それに沢田聖子のほうが歌手としてのデビューも早いのだけれど、まだネットなどない頃の限られた情報量ではそれは仕方のないことだった。

それに友人との会話の中で松田聖子の名前はたぶん出なかったように思う。なぜなら松田聖子は歌謡曲で、沢田聖子はニューミュージックだからだった。友人の嗜好の幅は狭く確立されていた。やがてJ-popというジャンル名が作られ、境界線が曖昧になってから友人がどのような区分けするようになったのかは知らない。友人と私は疎遠になってしまったからである。それとともに沢田聖子の音楽の記憶も薄れつつあった。

沢田聖子はフォークソング系の歌手であり、シンガーソングライターである。といっても全てが自作曲ではなく提供されている曲も多い。たとえば〈青春の光と影〉という曲はイルカの作詞作曲であるが、沢田聖子は長らくイルカの事務所に所属していたからである。そして〈青春の光と影〉というタイトルはジョニ・ミッチェルの〈Both Sides Now〉の邦題名と同じだが、これはわざとそのように付けただけでジョニ・ミッチェルの曲のカヴァーではない。
活動期間が長いので曲数も多く、歌唱はそのときどきで異なった表情を見せる。幾つかの年代をランダムに選んで下記にリンクしておく。ホワイト・クリスマスという曲もあるので、それも選択しておく。
私が一番好きで繰り返し聴いていたのはアルバム《夢のかたち》(1985) に収録されていた〈Don’t Forget Forever〉である。

YouTubeを検索しているうちに村下孝蔵への追悼曲として作られた〈親愛なる人へ〉を見つけた。いままで知らなかったが美しい曲である。

     *

倉橋ルイ子は特異な歌手である。岡田冨美子作詞、網倉一也作曲によるデビュー曲〈ガラスのYESTERDAY〉が最も有名である。歌の上手さは当然だが、その声が常に悲しみを帯びているように感じる。柴田淳も声に影があるが、しかし明るい曲もあるのに対して、倉橋ルイ子は常に青い月の光のような暗い感傷を運んでくる。
1985年に服部克久、羽田健太郎、林哲司、大野克夫という4人の作曲家がそれぞれ4〜5曲を提供して競作した4枚のLPがあり、この4枚のクォリティがピークであるように思える。服部克久の編曲した〈ガラスのYESTERDAY〉は原曲と異なり、東京ユニオンによるオーケストレーションであり、このテイクはこれら4枚の中でも白眉であるが、動画は発見できなかったのでリンクしてあるのは別のライヴ・ヴァージョンである (音の状態はあまり良くない。YouTubeにある倉橋ルイ子の動画は少なく、状態のよくないものばかりなのが残念である)。

来生えつこ/来生たかおによる〈罪な雨〉も名曲だが、私が一番好きなのは竜真知子作詞、林哲司作・編曲による〈December 24〉である。秀逸なオーケストレーションで間奏のサックス・ソロも素晴らしい。

今日はクリスマス・イヴなので、沢田聖子〈ホワイト・クリスマス〉と倉橋ルイ子〈December 24〉を並べてみた。そしてDon’t Forget Foreverとは、音信不通になってしまった友人へのメッセージでもある。


沢田聖子/Natural
Shoko Sawada 25th Anniversary In My Heart Consert
2004年5月21日
https://www.youtube.com/watch?v=Zw0M6s-zvwc

沢田聖子/悲しむ程まだ人生は知らない
1983年
https://www.youtube.com/watch?v=dLss027QkoE

沢田聖子/シオン
All Request Live 2020年
https://www.youtube.com/watch?v=Q-HDaI4mVJc

沢田聖子/ホワイト・クリスマス
Acoustic In My Heart Concert
1991年4月21日
https://www.youtube.com/watch?v=hCtilIST94Y

沢田聖子/Don’t Forget Forever
https://www.youtube.com/watch?v=aXc7UCwyHYM

沢田聖子/親愛なる人へ
https://www.youtube.com/watch?v=qCD82EpWPps

倉橋ルイ子/哀しみのバラード
東京音楽祭
https://www.youtube.com/watch?v=_hqvbVHGpBU

倉橋ルイ子/ガラスのYESTERDAY
https://www.youtube.com/watch?v=1_9ecnDTzWs

倉橋ルイ子/罪な雨
下北沢・本多劇場(ノイズあり)
https://www.youtube.com/watch?v=Zm2ZK8yFH4c

倉橋ルイ子/December 24
https://www.youtube.com/watch?v=AC8oX_hlLzc
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英ちゃん

メリークリスマス☆彡
素敵なクリスマスを~(^▽^)/
by 英ちゃん (2022-12-25 00:30) 

末尾ルコ(アルベール)

一昨日高知市はずっと雪が降り続きまして、こういうのはわたしにとって生まれて初めて。そのはずで、観測史上最高の積雪だったようです。
と言っても、積雪14cmと雪が普通の地域からすればまったく大したことのない量なのですが、それでも私にとっては朝玄関を開くと一面の雪景色というのは驚愕でした。
このような日は記憶としてあまりに鮮明で、きっと生きている間は新鮮な想いとともに語っていくのだろうなと思ったのと同時に、(日々の記憶って何だろうな)とあらためて感じました。

わたしはかなり早い段階で、小中高の時の友人知人たちとは没交渉になりました。それだけ「いい付き合い」をしてなかったということだと思います。
沢田聖子も倉橋ルイ子もlequiche様のお記事で初めて知ったという有様で、かつてわたしの周辺では誰一人これら素晴らしい歌手の名を挙げる人はいませんでした。
わたし自身洋楽ロック中心に聴き続けてましたし、ずっと日本の音楽を「下」に見ていたこともありました。
洋楽ロックを聴いていたのは圧倒的少数派で、特に高知という田舎ですから、周囲はいわゆる流行歌、そしてフォーク、ニューミュージックのファンは多かったです。
ただフォーク、ニューミュージックファンの間でも、ユーミンやハイファイセットを好きな人はオフコースのファンを小馬鹿にしているとか、そのような図式もちょいちょい見られました。
ジャズと言いますか、フュージョン・クロスオーヴァーのファンはおりまして、その連中がロックを小馬鹿にしてたんですね。
ウェザーリポートとか聴いていた同学年生らもいたけれど、その頃わたしは彼らの音楽ピンときてませんでした。
何と言いますか、きっちり纏まった音楽という感じで、破壊的快感のある近藤等則らの方が圧倒的好みでした。

今回沢田聖子、倉橋ルイ子、いくつか視聴させていただきました。
沢田聖子は伸びやかにして安定した歌唱ぶり。その中に様々なニュアンスの薫りを感じます。
倉橋ルイ子は重力によって心地よく根源へ下降させてもらえるような、そんな歌唱だと感じました。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-12-25 20:22) 

lequiche

>> 英ちゃん様

クリスマスのメッセージありがとうございます。
楽しいクリスマスをお過ごしでしょうか。
次は新年ですね。(^^)
by lequiche (2022-12-25 22:44) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

TVでは今まで降らないような地域にまで
大雪のニュースがあって驚いていました。
ホワイト・クリスマスになりましたね。(^^)

学校時代の同窓生としての付き合いには
ずっと長く続いてしまう場合と
ほとんど没交渉になってしまう場合があって、
むしろ卒業後の交際がないほうが良いのかもしれません。
そのあたりの感触は人それぞれですが。

私の高校生の頃から20歳過ぎまでの時代に
最も重要な音楽はバッハでした。
でもその頃はバッハとかバロック音楽はマイナーで
そういう話題にはほとんど誰も反応しません。
誰にも知られていないという秘教感がむしろ幸いでした。
ですからその他の音楽への興味や関心は
「私のバッハ」 に立ち入らせないためのカムフラージュでした。

ただ音楽には上下の区別はないというのが
私のずっと継続している音楽観です。
好きだったり嫌いだったりすることは自由ですが、
ヒエラルキーで判断することやマウンティングすることは
ごく貧しい感性だと思っています。

そうした中で私が志向したのは
ごく有名な音楽でなく、マイナーな音楽への関心でした。
ユーミンやサザンやビートルズやマイルスなど、
そうしたビッグネームは放っておいても売れます。
もちろんそうした音楽も聴きますが、
むしろあまり知られていないけれどちょっとイイ、
という音楽への関心がずっと続いています。
そうした志向は音楽に限らず何にでもあると思うのです。

これだけレコード復権とかシティポップ再認とか言われて
昔の音楽がリイッシューされても、
沢田聖子や倉橋ルイ子は再発されません。
倉橋ルイ子の4人の作曲家による競作など、
是非再発して欲しいのですがおそらく無理だと思います。
音楽はネット全盛などいわれても、
それはごく一部の音楽だけでほとんどのその他の音楽は
失われていってしまいます。
そうした傾向を少しでも食い止めたいというのが
私の願いです。
by lequiche (2022-12-25 23:11) 

coco030705

こんばんは。
沢田聖子さん、初めて聴きましたが、懐かしい曲のような気がします。
年代的なものなのでしょうか。
「罪な雨」と「December 24」を聴いてみました。上手い人ですね。
どちらもいいなと思います。後の曲も追々聴いてみますね。

by coco030705 (2022-12-27 20:25) 

lequiche

>> coco030705 様

お聴きいただきありがとうございます。
確かにそうですね。
世代的な音という特徴はあると思います。
それに沢田聖子はフォーク系ですから
今の曲に較べれば純朴で単純過ぎるかもしれません。
リンクしませんでしたが〈親愛なる人へ〉を歌ったライヴの
一曲前で、村下孝蔵の大ヒット曲〈初恋〉をカヴァーしています。
この曲など、当時の典型的なフォークソングですね。
尚、村下孝蔵は46歳で亡くなってしまいました。
https://www.youtube.com/watch?v=-_UmKBWfDGs

倉橋ルイ子は非常に上手い歌手なのですが
ヒット運に恵まれませんでした。
〈ガラスのYESTERDAY〉は名曲なのですが
編曲 (船山基紀) がイマイチのように思います。
服部克久編曲のテイクを見つけましたので
お時間があるようでしたらお聴きになってみてください。
1番しか歌っていないのですが
素晴らしいオーケストレーションです。

倉橋ルイ子/GOLDEN☆BEST (2004)
https://www.youtube.com/watch?v=muR3RyVArBU
をクリックして下にある解説の4行目
「もっと見る」 をクリックしますとTracklistが出てきます。
この1曲目0:00がオリジナルの船山基紀編曲、
9曲目の34:00が服部克久編曲です。
「34:00」 という数字をクリックすると9曲目に飛びます。
by lequiche (2022-12-29 05:37) 

Flatfield

写真の右側でギター弾いている人、吉川忠英さんですね。こんなところに。(^^

by Flatfield (2022-12-30 13:25) 

tomi_tomi

今年1年 訪問・nice!有難う御座いました。よいお年をお迎えください。
来年も宜しくお願いします m(_ _)m
by tomi_tomi (2022-12-30 16:39) 

lequiche

>> Flatfield 様

はい、そうです。
これは吉川忠英とドランカーズがサポートしているコンサートです。
ブログ本文にも〈親愛なる人へ〉をリンクしましたが、
村下孝蔵の〈初恋〉のカヴァー:
https://www.youtube.com/watch?v=-_UmKBWfDGs
沢田聖子が村下孝蔵に捧げた〈親愛なる人へ〉:
https://www.youtube.com/watch?v=qCD82EpWPps
という流れです。
この曲の前のMCで忠英さんが紹介されています。
by lequiche (2022-12-30 19:57) 

lequiche

>> tomi_tomi 様

こちらこそありがとうございました。
バイクの話題だけでなく、絵がお上手ですね。
いつも感心しております。
どうぞよいお年を!
by lequiche (2022-12-30 20:02) 

(。・_・。)2k

今年も大変お世話になりました
新年も変わらぬお付き合いのほどよろしくお願いいたします

by (。・_・。)2k (2022-12-31 00:43) 

ゆうのすけ

lequicheさ~ん 本年もお世話になりました。
残すところ数時間となりましたが 来たる年もよろしく
お願い申し上げますとともに 佳い年をお迎えくださいね!☆彡
by ゆうのすけ (2022-12-31 01:16) 

つむじかぜ

「ラストシーンに愛をこめて」一発で虜になった倉橋ルイ子。もう40年以上前なんだな...
by つむじかぜ (2022-12-31 03:01) 

Rchoose19

よいお年をお迎えくださいねぇ~~♪
そして来年こそオフ会でお会いいたしましょう!
by Rchoose19 (2022-12-31 17:37) 

lequiche

>> (。・_・。)2k様
>> ゆうのすけ様

年末のご挨拶ありがとうございます。
もう新年になってしまいましたので、今年もよろしくお願い致します。

>> つむじかぜ様

ラストシーンも名曲ですが、鈴木キサブロー作曲ですね。
良い曲が多いと思うのですけれど。

>> Rchoose19 様

オフ会ができる状態になると良いですが、
まだ何とも言えません。
この状態で10年も続いたら死んでしまいます。(笑)
by lequiche (2023-01-01 03:06)