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スウェーデンのヴァニラ・ファッジ [音楽]

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Vanilla Fudge

ヴァニラ・ファッジは1966年に結成されたロック・バンドであるが、その当時はジャンルとしてアート・ロックと称されていた。wikipediaによればアート・ロックはプログレッシヴ・ロックに吸収されたとのことだが、プログレッシヴ成分にプラスしてサイケデリックなテイストが入っていたのがアート・ロックであるような気もする。

ヴァニラ・ファッジの最も有名なヒット・チューンは〈You Keep Me Hangin’ On〉であるが、この曲はシュープリームスのカヴァーである。ヴァニラ・ファッジにはビートルズの〈Eleanor Rigby〉や〈Ticket to Ride〉のカヴァーなど、カヴァー曲が多く存在するが、〈You Keep Me Hangin’ On〉があまりに有名であるので、こればかり演奏してしまう (というか、演奏させられてしまうのだろうが) 傾向があるのは否めない。美川憲一の〈さそり座の女〉といいとこ勝負である。

ヴァニラ・ファッジのサウンドの特徴はマーク・スタインの独特な音色のオルガンと、カーマイン・アピスの手数の多いドラムスであり、これがバンド・サウンドのカラーとなっていることは確かだ。特に昨今のシンセでは出せない旧来のオルガンの響きは美しい。また、田村直美が1997年にPEARLを再結成したとき (正確には再結成というよりシンガー・田村直美をサポートするグループというべきだが)、ドラムスがアピスだったのには、どういう人脈があるのだろうと驚いたものだが、アピスのドラミングに聴くリズム・パターンは、当時の音楽シーンにおけるアート・ロックというポジションの雰囲気をいまだに持続しているように感じる。

ライヴ映像は〈You Keep Me Hangin’ On〉ばかりなので、それ以外の曲を探してみているうちに〈Season of the Witch〉の演奏を見つけた。この曲は3rdアルバム《Renaissance》(1968) の最後に収録されているカヴァー曲で、オリジナルはドノヴァンである (アルバム《Sunshine Superman》(1966) の収録曲)。この〈Season of the Witch〉はスウェーデンにおけるライヴであり、おそらく1968年頃と思われる。アルバムの演奏時間よりも長く、クリームのライヴ演奏などと同様、当時のロック・シーンの演奏傾向をあらわしている。そしてヴァニラ・ファッジの最高傑作アルバムはこの《Renaissance》であると思う。一種のコンセプト・アルバムであって、それはビートルズの《Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band》(1967) の影響下にローリング・ストーンズの《Their Satanic Majesties Request》(1967) がリリースされたのと同様に、この時代にコンセプト・アルバムが流行したととらえることもできる。

超有名曲である〈You Keep Me Hangin’ On〉もリンクしておくことにする。最もよく目にする映像は1968年1月14日の《エド・サリヴァン・ショー》であるが、ジミー・ファロンの番組《Late Night with Jimmy Fallon》に出演したときの演奏もクォリティーが高く、手練れの演奏という感じがある。ファロンがヴァニラ・ファッジのアルバム《Box of Fudge》を紹介しているので、おそらく2010年頃の演奏だと思われる。

参考までに田村直美の〈虚ろなリアル〉もリンクしておく。2018年に記事にした 「1997年のPEARL ― 田村直美」 (→2018年02月01日ブログ) でリンクした映像と同じであるが、〈虚ろなリアル〉のライヴ演奏のなかではこれが一番優れている (特に北島健二のソロ) と私は思う。
尚、1997年のPEARLのアルバム《PEARL》のCDのオリジナルはトランスペアレント・グリーンのプラケースである。


Vanilla Fudge/Renaissance
(Sundazed Music Inc.)
Renaissance




Vanilla Fudge/Season of the Witch
live in Sweden
https://www.youtube.com/watch?v=YoTQ92c9ftA

Vanilla Fudge/You Keep Me Hangin’ On
live on The Ed Sullivan Show
https://www.youtube.com/watch?v=3dJO47d26kc

Vanilla Fudge/You Keep Me Hangin’ On
live on Late Night with Jimmy Fallon
https://www.youtube.com/watch?v=RuisGkFcDXI

PEARL/虚ろなリアル (live)
https://www.youtube.com/watch?v=GQHKpxpg2kg
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末尾ルコ(アルベール)

リンクしてくださっている動画、視聴させていただきました。ヴァニラ・ファッジはその名前だけ知っていたくらいで、どこかで耳にしたことはあるかもしれないけれど、自覚的に視聴したのは初めてです。おっしゃる通り、ドラムスとオルガンの音が心地いい。そしてこうした感じのいかにも人間臭い演奏、今の世の中だからこそとても新鮮で気持ちよく聴こえます。
「YouKeepMeHangin‘on」はわたしはロッド・スチュワートで初めて聴いたのだと思います。ロッド・スチュワートってかつて日本でもかなりメジャーな外国人ロッカーでしたが、近年はあまり取り沙汰されなくなりました。
「アート・ロック」という言い方もロック独特というか、本来ロックは音楽で、音楽はアートなのですから、「アート・ロック」という言い方はおかしい気もしますけれど、ロック草創期の(ロックなんて音楽じゃない、つまり芸術じゃない)といった旧態依然とした意識に対して過敏だったのかなという感もあります。そこがロックのパワーでもあったと思うんですが。

ユルスナール、わたしはとどめの一撃』、『ピラネージの黒い脳髄』、『三島あるいは空虚のビジョン』、『東邦綺譚』を持っておりますが、読んだのがもうずいぶん前で、また読み返そうかなと考えております。Lequiche様はユルスナールの著作としては特にお好きな作品はありますでしょうか。あるいはすべて?  RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2023-08-07 10:44) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ヴァニラ・ファッジは〈You Keep Me Hangin’ On〉が
あまりにも有名になってしまったので、一般的には
カヴァー曲バンドだという誤解もあるのではないかと思います。
それに他のカヴァー曲も皆、〈You Keep Me Hangin’ On〉と
テイストが同じ、というような印象も確かにあります。
クリームとかイエスのようなビッグネームと較べると
かなり地味ですのであまり顧みられないのだと思います。
アルバム《Renaissance》は傑作だと思うのですが、
最初はドイツ盤のCDしか存在していませんでした。
現在でもメディアは入手しにくいかもしれません。
逆にいえばヴァニラ・ファッジ・ファンとしては
あまり有名になんかならないほうが良いと思っています。

私がユルスナールという作家を知ったのは
作品を直接読んだのではなくて、須賀敦子の著作、
より正確にいえば須賀敦子について語っている
大竹昭子のエッセイによってでした。
それより以前、ピラネージの版画展を鎌倉の近代美術館で見て、
感銘を受けましたが謎も多くて、
それらが須賀敦子 — ユルスナール — ピラネージというラインで
理解できたという過去があります。
そのことについては、
このブログのごく初期に書いた記事がありますので
10年以上も前の文章ですが
下記をご参照いただければ幸いです。

季節の鳥のように — 須賀敦子とローマ
https://lequiche.blog.ss-blog.jp/2012-01-30

須賀敦子は彼女の展覧会の記事にも書きましたが、
遺された蔵書にプレイヤッド版のユルスナール全集があって、
2冊あるうちの、たぶんŒuvres romanesquesだと思うのですが
とても細い色とりどりの附箋が大量に挟まっているのを見て、
こういうふうにして本を読んでいたのだということがわかって
翻訳をするということのおそろしさを感じたものでした。
その記事は下記です。

トリエステの坂道 — 須賀敦子の世界展に行く
https://lequiche.blog.ss-blog.jp/2014-11-21

by lequiche (2023-08-11 23:33)