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《関ジャム》の松任谷正隆 [音楽]

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12月初め、エスカレーターでタワーレコード新宿店へと上って行くと、ジュール・ヴェルヌを髣髴とさせるような等身大の古風な潜水具に包まれた2人のオブジェがあって、ニューアルバムのプロモーションだなと気づく。だが、すっぽりと頭部を隠した像は何かもっと違うフェティッシュな嗜好のメタファーのようにも感じられて、でもこそこまでの深読みは考え過ぎなのかもしれなかった。

《関ジャム》の11月29日放送のゲストは松任谷正隆で、アルバム発売のプロモーションの一環として来ました、と言っていたが、松任谷由実の作品を作り上げる過程が垣間見えて、熱心に見入ってしまう。シンガーソングライターは本人によってそこで完結しているので、それをプロデュースするのは大変だというニュアンスが感じとれた。同じような形態としてDREAMS COME TRUEがいるが、その奔放さをいかにコントロールしていくのかという点で似たものがある。

幾つかのユーミンの楽曲ができ上がるまでのエピソードがとても面白い。
〈春よ、来い〉は当初、もっとエスニックな曲想だったのだという。それを 「和」 の感じに変えたのだという。和風な印象のあのイントロを5分くらいで作って、それは最初否定されたが、これでいけるという自信があった。そして大ヒットにつながったことがその自信の結果であるのは確かだ。

〈ノーサイド〉のイントロはどのように作られたか、という話には笑ってしまった。試合が終わった後をイメージするような、ローズによる印象的なメロディであるが、松任谷は自分で作ったものではないと衝撃的な告白をする。ベーシスト高水健司が吉川忠英のために作っていたイントロをたまたま聴いて、「これ、ちょうだい」 と言ってもらったのだという。なにそれ状態な雰囲気で、でもそういうことってあるんだろうなとも思える。

〈真夏の夜の夢〉は賀来千香子と佐野史郎による、ある意味猟奇的なドラマ《誰にも言えない》の主題歌であるが、できるだけ下品に作ったイントロで、そのイメージとして城卓矢の演歌〈骨まで愛して〉に影響を受けたというのである。最初に作ったイントロをユーミンは 「もっと下品に」 と言って却下したのだそうだ。んー、すごい! 確かにドロドロ感が満ちてるよね。

曲づくりの過程として 「曲先」 であるか 「詞先」 であるかということがよく言われるが、曲ができるまでの順番は、と問われた答えは作曲→アレンジ→作詞という流れなのだそうだ。つまり編曲が完成したところでそのイメージに沿って詞をつける。なぜなら編曲によってイメージが最初に考えていた詞と違ってしまう場合があり、それだと無駄なので、無駄なことはしたくないというのがユーミンの考え方なのだそうである。

〈リフレインが叫んでる〉で 「〜夕映えをあきらめて 走る時刻」 の後に、車の走る音が入る箇所が印象的と指摘するゲストコメンテイターの新井恵理那に対して、あれはシンクラヴィアを導入したばかりでサンプリングの効果を試そうと車の音を入れたので、シンバル音を入れたようなもの、と答える。ケイト・ブッシュが《Never for Ever》の冒頭曲〈バブーシュカ〉でガラスの砕ける音をフェアライトで入れたのと同じような動機かもしれない。

〈DESTINY〉におけるコード進行についても語られる。
A | F#m7 | D6 | E7 | A | F#m7 | D6 | E7 F#m |
D/F# | F#m | D/F# | F#m/E | D/E | F#m7/E | D/E |
C#7/E# C#7/G# |
今回の企画のコーディネーターである寺岡呼人は、イントロ’ (上記の2段目) からのベース音はF#とEの2音しかないが上に乗る音で変化して行くと解説していたが、むしろわざと F#とE音をキープしているととらえることもできる。クロマティックにベース音が下降するプログレッションと同様、よくある手口だ。
松任谷はアレンジのとき、コードは考えていないという。コードに縛られるのは嫌だし、ユーミンが作ったメロディだけ覚えておいて、付けられたコードは全部捨てるともいう。コードに縛られたくないという意識は、スティーヴィー・ワンダーがスタンダードな押さえ方をしないという話に通じるように思う。

さらに寺岡呼人は、では〈恋人がサンタクロース〉の転調はなぜ? と訊く。
D | D | A/C# | Bm | A | B7/A | G#m | C#m C# |
これは松任谷の問題ではなく、作曲者であるユーミンへの問いかけだ。それに対する松任谷の答えが面白くて、「由実さんがわからなくなったから」。ユーミンは粘り強くどこまでも突き詰めて試行錯誤するが、そのうちどこに行ったら良いのかわからなくなってAに行ってしまったという 「わからなくなった上の偶然の産物」 なのだそう。流れに必然性があってその音が自然なのならば理論は関係ないのだ。

アルバムを製作して完成するまでの松任谷の比喩がわかりやすい。アルバムができ上がってもそれがリリースされた頃には、ほとんど聴きたくなくなる。それは、あそこはこうすればよかった、というような不満があるからなのか、という問いに対して松任谷は、アルバムを作るというのは、昆虫の標本を作る感じであり、幼虫から育てて一番キレイになったときにピンと殺す。でもそうして標本になったらそれからは変えようがないから、と語るのである。
これは文章をどこまで推敲するかとか、絵をどこまでで完成とするか、というようなことに似ている。

番組の最後に松任谷宅のスタジオが映し出されたが、宏大なSSLのコンソールの前でモニターするユーミン。音楽づくりには理想的な環境であることが感じとれる。

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松任谷由実/深海の街 (Universal Music)
深海の街(初回限定盤)(DVD付)(特典:ナシ)




関ジャム 2020.11.29 松任谷正隆
https://www.dailymotion.com/video/x7xs0dy

松任谷由実/深海の街
https://www.youtube.com/watch?v=eG9NqEEWE00

松任谷由実/春よ、来い
TIME MACHINE TOUR Traveling through 45 years
https://www.youtube.com/watch?v=TZEO3qHGTqI

松任谷由実/リフレインが叫んでる
YUMING SPECTACLE SHANGRILA II
https://www.youtube.com/watch?v=BPXFJd-VVgg

松任谷由実/恋人がサンタクロース
https://www.youtube.com/watch?v=kSrje0jehnw

松任谷由実/DESTINY
https://www.youtube.com/watch?v=5yQAJjC9cYo
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