SSブログ

One Last Kiss — 宇多田ヒカル [音楽]

OneLastKiss_210325.jpg
One Last Kiss PVより

宇多田ヒカルの〈One Last Kiss〉を、エヴァンゲリオンの主題歌としてではなく、ラヴソングとして聴く。

イントロの、柔らかな震えをともなった音色の響きで始まる、なぜか古風な懐かしさを感じてしまう音の重なり。この音は何かで聴いたことがあったというデジャヴ (音だからvuではないけど)。深いディレイとリヴァーブが支配している憂いのかかった世界。
いきなりの歌詞が 「初めてのルーブル」 という具体的な固有名詞から始まる。ルーブルとモナリザ。このあまりに通俗的な対比は何かの比喩なのだ、と思わせる。

 初めてのルーブルは
 なんてことはなかったわ
 私だけのモナリザ
 もうとっくに出会ってたから
 初めてあなたを見た
 あの日動き出した歯車
 止められない喪失の予感

歌詞のつらなりが美しい。言葉はところどころ、わざとブツ切りされて歌われているが、1行目の 「ルーブルわ」 と2行目の 「なかった わ」 が3行目の 「わたしだけの」 の 「わ」 を呼び覚ます。

 初めてのルーブルわ
 なんてことはなかった・わ
 わたしだけのモナリザ
 もうとっくに出会ってたか・ら
 初めてあなたを見た
 あの日動き出したはぐる・ま
 止められない喪失・の予感

例によってヴォイス・トレーナーのオシラのYouTubeを見ると、語尾が全部ア行で揃えてある (最後の行の 「予感」 は撥音 「ん」 なので、その前の 「か」 がア行) との指摘。アの脚韻は2番でも踏襲されている。

その後の、

 もういっぱいあるけど
 もう一つ増やしましょう
 (Can you give me one last kiss?)
 忘れたくないこと

の 「ない」 を微妙に下げているのがカッコイイとオシラは言っている。ブルーノートっぽくというよりは一種の微分音だが、その後の 「忘れたくないこと」 ではストレートな音で歌っていて、「同じ歌詞で同じフレーズなのになぜ違えて歌うのか」 とオシラは解説するのだが、1回目と2回目ではコードが違うと思うのだけれど、よくわからない。

せつないけれど、そのせつなさは抽象的で、ルーブルとモナリザは色褪せてゆく。その、やや紗のかかった世界がいつもの宇多田の世界なのだ。繰り返す言葉はループとなり、レコードについた傷のように行きつ戻りつする。そして「忘れられない人」 に収斂してゆく。

残響が静まって、リズムが止まって、最後に歌われる言葉は諦念のよう。
くるくると切り替わるPVの、暗い風景のときの画面が美しい。


宇多田ヒカル/One Last Kiss
(エピックレコードジャパン)
One Last Kiss (通常盤) (特典なし)




宇多田ヒカル/One Last Kiss
https://www.youtube.com/watch?v=0Uhh62MUEic

宇多田ヒカル/Automatic (live)
https://www.youtube.com/watch?v=i3ZRyq1c-Zo
nice!(67)  コメント(6) 
共通テーマ:音楽