One Last Kiss — 宇多田ヒカル [音楽]
One Last Kiss PVより
宇多田ヒカルの〈One Last Kiss〉を、エヴァンゲリオンの主題歌としてではなく、ラヴソングとして聴く。
イントロの、柔らかな震えをともなった音色の響きで始まる、なぜか古風な懐かしさを感じてしまう音の重なり。この音は何かで聴いたことがあったというデジャヴ (音だからvuではないけど)。深いディレイとリヴァーブが支配している憂いのかかった世界。
いきなりの歌詞が 「初めてのルーブル」 という具体的な固有名詞から始まる。ルーブルとモナリザ。このあまりに通俗的な対比は何かの比喩なのだ、と思わせる。
初めてのルーブルは
なんてことはなかったわ
私だけのモナリザ
もうとっくに出会ってたから
初めてあなたを見た
あの日動き出した歯車
止められない喪失の予感
歌詞のつらなりが美しい。言葉はところどころ、わざとブツ切りされて歌われているが、1行目の 「ルーブルわ」 と2行目の 「なかった わ」 が3行目の 「わたしだけの」 の 「わ」 を呼び覚ます。
初めてのルーブルわ
なんてことはなかった・わ
わたしだけのモナリザ
もうとっくに出会ってたか・ら
初めてあなたを見た
あの日動き出したはぐる・ま
止められない喪失・の予感
例によってヴォイス・トレーナーのオシラのYouTubeを見ると、語尾が全部ア行で揃えてある (最後の行の 「予感」 は撥音 「ん」 なので、その前の 「か」 がア行) との指摘。アの脚韻は2番でも踏襲されている。
その後の、
もういっぱいあるけど
もう一つ増やしましょう
(Can you give me one last kiss?)
忘れたくないこと
の 「ない」 を微妙に下げているのがカッコイイとオシラは言っている。ブルーノートっぽくというよりは一種の微分音だが、その後の 「忘れたくないこと」 ではストレートな音で歌っていて、「同じ歌詞で同じフレーズなのになぜ違えて歌うのか」 とオシラは解説するのだが、1回目と2回目ではコードが違うと思うのだけれど、よくわからない。
せつないけれど、そのせつなさは抽象的で、ルーブルとモナリザは色褪せてゆく。その、やや紗のかかった世界がいつもの宇多田の世界なのだ。繰り返す言葉はループとなり、レコードについた傷のように行きつ戻りつする。そして「忘れられない人」 に収斂してゆく。
残響が静まって、リズムが止まって、最後に歌われる言葉は諦念のよう。
くるくると切り替わるPVの、暗い風景のときの画面が美しい。
宇多田ヒカル/One Last Kiss
(エピックレコードジャパン)
宇多田ヒカル/One Last Kiss
https://www.youtube.com/watch?v=0Uhh62MUEic
宇多田ヒカル/Automatic (live)
https://www.youtube.com/watch?v=i3ZRyq1c-Zo