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ロイヤルアルバートホールのスザンヌ・ヴェガ [音楽]

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最近のニュースで繰り返し報じられる児童虐待の現実を目にするとき、思い出すのはスザンヌ・ヴェガの歌〈Luka〉だ。あるいはフランソワ・トリュフォーの映画《トリュフォーの思春期》(L’Argent de poche/1976) でもよいが、ありえないような暴行のニュースを聞くたびに、実は人間の本性とはこうした残酷さを内在させているのではないかとさえ思う。

それで突然思い出したのだが、スザンヌ・ヴェガを最初に聴いたのは有名な1stや2ndアルバムではなく3rdの《Days of Open Hand》(1990) だったような気がする。渋谷の、広いけれど少しゴチャゴチャした暗い内装のCDショップの洋楽売場にそれがあったことだけがピンポイントのように記憶の中に存在している。ジャケットの写真部分がホログラムになっている不思議な外観だった。
あの頃の渋谷の街は色彩の乱舞する喧噪のオモチャ箱のようで、欲しいもの満載の店が幾つもあって、それはCDだったり本だったり服だったり色々でどれもがキッチュだったが、キラキラした悪徳を包含した夢の店はほとんど全てがなくなってしまった。
そうした過去の記憶の残滓を粛清するかのように渋谷の街は変わりつつあるが、それは清潔に整頓されたつまらない街への移行と言っていいのかもしれない。

《Days of Open Hand》のパーソネル欄を見ているとフェアライトの使用が見られるが、ケイト・ブッシュが《Never for Ever》で使用し始めたのが1980年、《Days of Open Hand》の頃はすでに終焉に近い時期だったように思える。8bitの実験的機器はあっという間に寿命を迎える。

1986年のロイヤルアルバートホールにおけるスザンヌ・ヴェガのライヴ映像を懐かしく観ていた。彼女は年を経るほどにそのライヴでの表情も柔和になってゆくが、初期の頃の少しピリピリしたセンシティヴな時代のほうが好ましく感じてしまう。通俗なメディア媒体などに簡単に浸食されてはたまらないという精神性があるからだ。

アルバム《Solitude Standing》に収められている〈Tom’s Diner〉は〈Luka〉と並ぶ初期の象徴的な曲であって、アカペラで歌われるメロディの連なりに内在する彼女独特のリズムがこころよい。前のめりだけれど引き締められている空白に刻まれてゆくリズム。


Suzanne Vega/Solitude Standing (A&M)
Solitude Standing




Suzanne Vega/Tom’s Diner
Live at Royal Albert Hall, 1986
https://www.youtube.com/watch?v=DCCWVk1fgpY

Suzanne Vega/Luka
https://www.youtube.com/watch?v=CUXW4aEhhbM
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