Xperia CMの矢野沙織 [音楽]

Saori Yano
XperiaのCMが矢野沙織になっていた (→A)。ソニーモバイルのサイトを見ると3人のパターンがあるようだが、Xperiaはこのところずっと、このカッコイイ系をメインにしているみたいだ。コスプレ・ヴァイオリニストAyasaもそうだったが、ハイレゾをイチオシにするために、今回のはちょっとメタリックな感じを狙ってみた意図が透けて見える。
クラシックだってジャズだってカッコも大切なのだ。カッコだけじゃダメだけど。
矢野沙織のことは以前に書いたが (→2014年07月21日ブログ)、《Sakura Stamp》の後のアルバム《Parker’s Mood》そして《Groovin’ High》は、よくできているんだけれど感覚的にちょっと……という印象があって、少し遠ざかってしまっていた。
でも、矢野沙織以降、急にジャズとかフュージョン系の女性サックス奏者が輩出してきたことは確かである。
小学校時代にブラスバンドでサックスをやることになったのが矢野の楽器との出会いだったというが、昔は、つまり私が子どもの頃は、伝統的な吹奏楽においてサックスはマイナーで、あまり人気の無い楽器だった。でも最近はブラバンといっても、単なるマーチングバンドではなくなってきているので変化があるのかもしれない。
ともかくジャズやフュージョンにおいてはサックスは花形楽器であるし、最近の音楽教室では管楽器を教えてくれるところも多くなり、そしてサックスの場合、特にクラシック系のサックスだと講師の先生がたは圧倒的に女性である。
ボディが金属製ではあるけれど、サックスはクラリネットなどと同じ木管楽器なので、親しみやすい楽器なのかもしれない。
ということで〈I Got Rhythm〉を聴いてみる。2005年、ニューヨーク、SMOKEでのライヴはリチャード・ワイアンズ、ジョン・ウェッバー、ジミー・コブのトリオをバックにしている (→B)。ジミー・コブは《Kind of Blue》の頃のマイルス・バンドにいた人で、いまやドラマーの重鎮である。矢野沙織はこのとき18歳。それが今は30歳になってしまったのだから、時の流れはあっという間である。
〈I Got Rhythm〉はジョージ・ガーシュウィン作曲のスタンダード・ナンバーであるが、試しに聴き較べてみると、まずチャーリー・パーカーのはYouTubeにはあまり良い演奏がなかった。なぜか鈍重な感じがする。それでこうしたビ・パップ系として最も比較しやすいのはソニー・スティットである。
スティットはパーカー直系のサックスであるが、この余裕となめらかさ、アーティキュレーションはすごい (→C)。スティットはほんのわずかだけ、マイルス・バンドにいたことがあるが、飲んだくれで解雇されてしまったという。そうなのか。ちょっと見た目と違うけど、まぁジャケット写真には見た目のよいのを使うのがお約束なので何とも言えない。
〈I Got Rhythm〉という曲を遡ってゆくと、たとえばベニー・グッドマンがある。昔のスウィングの時代は、どうしても曲芸的なテイストがジャズには求められていたが、単純に楽しく音楽の喜びに満ちているのがグッドマンの特質である。ライオネル・ハンプトンが素晴らしい (→D)。
さて、矢野がジャズにのめりこむきっかけとなったのがパーカーの〈Donna Lee〉である (実際にはマイルスの作曲であるともいわれる)。この曲は《Sakura Stamp》の冒頭に収められているが、パーカーを良くコピーしていて、しかもパーカーよりやや速い。サックスとトランペットの2管で、トランペットはニコラス・ペイトンである (→E)。元となるパーカーはこれである (→F)。
しかしパーカーはそんなに簡単に超えられる存在ではないので、たとえば油井正一と悠雅彦の対談番組でも同曲をかけているのがあるが (→G)、これはトランペットの無い、パーカーだけで吹いているテーマとインプロヴィゼーションである。
特に〈I Got Rhythm〉などを聴くと、ベニー・グッドマン、ソニー・スティット、矢野沙織と、時代によってその音楽性が変わってゆくのが如実にわかる。上手いとか下手とかではなく、好き嫌いでもなく、音楽とは歴史に寄り添うものなのだという感慨がある。つまりガーシュウィンは単なる素材であり、それをどのように変奏するのかがジャズなのだ。
矢野沙織 BEST ~ジャズ回帰~ (Columbia Music Entertainment)

A: Xperia CM
http://www.sonymobile.co.jp/adgallery/
B: Saori Yano/I Got Rhythm
https://www.youtube.com/watch?v=k5JFtt9rf9I
C: Sonny Stitt/I Got Rhythm
https://www.youtube.com/watch?v=TFq-JQyoy54
D: Benny Goodman/I Got Rhythm
https://www.youtube.com/watch?v=NTKOgTk2gGE
E: Saori Yano/Donna Lee
https://www.youtube.com/watch?v=sDsDhh3evtc
F: Charlie Parker/Donna Lee
https://www.youtube.com/watch?v=02apSoxB7B4
G: Charlie Parker/Donna Lee (油井正一&悠雅彦)
https://www.youtube.com/watch?v=ErWbBWlWD3s
2017-06-15 02:15
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なにかこう、わたし、矢野沙織って知らなかったような(とほほ)。それはさて置き、最近はジャズ系の人たちもクールにキメていることが多いですね。矢野沙織もなかなかパンクなルックス。以前はほとんど近所のスーパーへ買い物に来たような服装のままでプレイしている人たちもいましたよね。音楽は超一級でも大勢のお客さんの前で、ああした服装はどうなのかなと感じていました。ステージでは音楽のクオリティに見合った服装で、あらゆる感覚を酔わせてほしいものです。
リンクしてくださっている動画、すべて視聴しました。このような愉しみ方が音楽のおもしろさを深めますね。演歌の話で恐縮ですが(笑)、この前『矢切の渡し』の聴き比べをやってみたけど、とても興味深かったんです。ジャズやクラシックの場合、本当に「聴き比べ」がその愉しみの大きな部分を占めているのかと思いますが、lequiche様のお記事を拝読しながら、(ああ、この違いをこんな風に表現できるのだ)と愉しませていただいております。
>単純に楽しく音楽の喜びに満ちているのがグッドマンの特質である
これ、とてもよく理解できます。
>特にクラシック系のサックスだと講師の先生がたは圧倒的に女性
へえ、そうなんですか。ぜんぜん関係ないんですが、ずっと前に容姿に惹かれて(←こらこら 笑)、高木綾子というフルート奏者のアルバムを2枚ほど買ったのを思い出しました。ちなみに「クラシック音楽のまとまった知識の不足」を痛感するわたしですが、最近は『音楽の友』なんぞを紐解きつつ(笑)、精進に努めております。ずっとバレエファンだった割には、怠慢でクラシック音楽の知識を疎かにしていたなあと、つくづく感じておりまして。
前回のお記事についてのコメントも興味深く拝読させていただきましたが、デヴィッド・ボウイとフレディ・マーキュリーの「違い」についてはまったくおっしゃる通りで、極端に言えば、フレディの衣装は単に「本人が好きでやっていた」ということだと思います。胸毛剝きだしのタイツ姿もインパクト抜群でしたが、女性用着物をアレンジした衣装から脚線美を見せつけるような写真も見たことがあります。ちなみにケイト・ブッシュは今でもちょいちょい聴いております~。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2017-06-15 12:52)
>> 末尾ルコ(アルベール)様
あぁ、確かに。パンクですね。
矢野沙織と椎名林檎はジャンルが違いますが
共通のにおいがします。
ヴィヴィアン・ウエストウッドが好きなのも似てますし、
だからアーマーリングが流行っていたときは
2人ともしていました。
あれをしてるとサックス吹くのに不自由だと思うんですが。
だから衣裳なんかも、あざといといったらあざといんですが、
でもそれ言えば広瀬すずだって指原莉乃だってあざといです。
甚だしいドレスアップをしろとは言いませんが、
普段着のままというのはステージングとしてどうなのよ?
と思います。
見た目だけっていうのはダメですが、
見た目は全然かまわないというのも同様にダメで、
ある程度の外見は必要です。
容姿に惹かれて買わされてしまうというのは
エンターテインメントの基本要素ですので。
それは男性にも女性にも言えるように思います。
トランペットの市原ひかりもカッコイイです。
日野皓正系の音がしますね。
このPVは顔がよく見えませんが。
https://www.youtube.com/watch?v=JV_7YAx3mCA
矢切の渡しの記事も面白く読ませていただきました。
最近、いっぷくさんのコメントがすごく冴えていて、
いつもそれが楽しみです。
私はプロレスを全然知らないのにあんなに読ませてくれる
というのはすごいです。
ベニー・グッドマンは音楽ももちろん優れていますが、
黒人に対する偏見がなく、ライオネル・ハンプトンを採用しました。
グッドマンの有名な1939年のカーネギーホールコンサート、
当時は黒人に対する差別が当然のように存在していた頃です。
逆パターンとして、
マイルス・デイヴィスも白人に対する偏見がなく、
ビル・エヴァンスを自分のバンドに引き入れました。
優れた音楽に人種の壁はないはずなのです。
ボウイもフレディもあの当時にそうした恰好をすることは
顰蹙をかった面もあったと思いますが、
そうしたことに対する本人たちの覚悟もあったと思います。
今は、オネエ系のタレントやビジュアルバンドも多いし、
LGBT的な性向に対する理解も深まっている
というような解釈がありますが、私は逆だと思っています。
一見理解しているふうを装いながら、
今は1970年代よりずっと保守的で排他的であると
私は感じています。
ケイト・ブッシュはもう古典なのかもしれないです。
エミリー・ブロンテであったりジェイムズ・ジョイスであったり
その文学性にも惹かれますね。
by lequiche (2017-06-15 15:06)
ワタスもライブハウスなどで色々な奏者を見るたびに
「日本を代表するレベルの奏者なんだからさぁ…」と
服装のことはいつも思っていましたが、
(ここだけの話)ジャズミュージシャンは一般人に比べて
服にお金をかけられない経済的な事情がある方が多くいるので
今は気にしないようにして素晴らしい演奏だけを
味わうようにしています^^;。
by すーさん (2017-06-16 20:29)
>> すーさん様
あはは。なるほど、そういう見方もありますね。(^^)
ただ、アマチュアバンドでも
コンサートなのに普段着のまま、仕事帰りの服のまま、
みたいなのはちょっとなぁ・・・と私は思います。
別にビジュアルバンドをやれということではないんですが、
クラシックのオーケストラの楽員が一応燕尾服というのも
最低限失礼のない恰好で、という考え方だと思います。
by lequiche (2017-06-16 22:10)
若い女性がジャズサックスを吹くなんて、
ちょっと前では考えれなかったことですね。
最近は我が地方のジャズバーでもアルトやテナー吹いてる女性がたくさんいます。
ジャズで女性というとほとんどがボーカル、頑張ってもピアノくらいだったのに。
アメリカのジャズシーンではあまり器楽の女性ジャズミュージシャン見ない気がしますがどうなんでしょう。
ソニー・スティットは、もともとアルトサックスだったのですが、その演奏スタイルがあまりにパーカーに似ている、コピーだと言われて
テナーに変わったという話を読んだことがあります。
by そらへい (2017-06-17 23:28)
>> そらへい様
そうですね〜。やはり時代の流れです。
ただ木管系の楽器は女性でも扱いやすいですし、
つまりパワーに依存しなくても吹ける楽器ですし、
今はメソッドをこなしていけば上達するようなシステムですから、
そういう方法論には女性は向いているような気がします。
ただ、どうしてもまだイロモノ的な見方もされますし、
ストレートなジャズよりフュージョン系のほうが
比較的こなれているようにも思います。
確かにアメリカで超メジャーな人はいるか、
といったらいませんが、問題はジャズをどうとらえるかです。
必ずしもパーカーだけがジャズではないですから。
パーカーとソニー・スティットはかなり違うと思います。
パーカーは後ろに残るような広い幅の長い音のようにみえて
実際には遅れるようなことはない、といった印象ですが、
スティットのはごく軽く、前に行く感じで音の幅も狭いです。
逆にいえばかろやかで、小回りが効くということでしょうか。
メロディラインもパーカーのラインとスティットのラインでは、
やはりパーカーのほうがどっしりとしていて、
ですから逆に、時にはかったるいこともあります。
by lequiche (2017-06-18 02:00)