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BBCのピーター・ポール&マリー [音楽]

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今日は雨が降るのだろうか。昨日は降らなかったけれど今にも降りそうな空だったりした時があって、この不安定な気候には辟易するのである。
さて、今日はピーター・ポール&マリーを聴いていたらハマッてしまった。でも私は原則としてフォークソング系の音楽が好きではない。嫌いと断定しないところがミソだが、けれどピーター・ポール&マリーはいわゆるシティ・フォークといった色合いで、あまり土俗的なテイストがない。さらっと聴けてしまうのでとっつきやすいのである。
コーラスの美しさと2人のギターのテクニックは完璧である。私がピーター・ポール&マリー (以下、PPMと略) を聴いていて惹かれた曲は、たとえば〈Sometime Lovin’〉という比較的しっとりとした地味な曲であった。ゲイリー・シアストン (Gary Shearston, 1939-2013) の曲である。〈Tiny Sparrow〉でもよい。要するにあまり動きのない、静止した風景のようなものに惹かれていた。でもそれはPPM本来の音楽性からいえばズレていたのかもしれない。
試しに何枚かアルバムを買ったが、〈Sometime Lovin’〉は《The Peter, Paul and Mary Album》というアルバムに収録されていて、でもこれは持っていない。つまりその程度の、ごく初歩的な曲きり知らないファンでしかないのである。

YouTubeにあるBBCライヴは1965年で、まだモノクロの映像だが、若々しい3人の歌声と演奏の様子がよくわかる。2本の動画があって、リンクしたのは少しでもきれいに見えるほうにしたが、もう1本の説明文の中にセットリストが掲載されている。
https://www.youtube.com/watch?v=ylyaVOxa6aU

映像は2回に別れていて1~9曲目までと10~17曲目だが、幾つか間違いがあるので指摘しておく。
5曲目の〈Jesus Met the Woman〉の正確なタイトルは〈Jesus Met the Woman at the Well〉、10曲目の〈The Times are a Changing〉はThereが抜けていて〈The Times There are a Changing〉、15曲目の〈Great Day〉はタイトル自体が間違いで〈Come and Go with Me to That Land〉である。これらを訂正すると下記のようになる。

 01) When the Ship Comes In
 02) The First Time
 03) San Francisco Bay Blues
 04) For Loving Me
 05) Jesus Met the Woman at the Well
 06) Early Morning Rain
 07) Children Go Where I send Thee
 08) The Whole Wide World Around
 09) Early in the Morning
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 10) The Times There are a Changing
 11) Hangman
 12) In My Dreams
 13) Puff, the Magic Dragon
 14) Rising of the Moon
 15) Come and Go with Me to That Land
 16) Blowing in the Wind
 17) If I Had My Way

PPMの実力がよくわかって、かつ明るい演奏でよく知られている曲は
 03) San Francisco Bay Blues [7’50”~]
 05) Jesus Met the Woman at the Well [13’30”~]
 15) Come and Go with Me to That Land [47’42”~]
 16) Blowing in the Wind [51’00”~]
あたりだろう。サンフランシスコ・ベイ・ブルースはカズーも入っていて楽しい。

だが私が個人的に好きなのは、朝の飛行場と心象風景を歌ったゴードン・ライトフット作曲の
 06) Early Morning Rain [17’49”~]
で、歌詞の中に数字の出てくる個所、
 Out on runway number nine,
 big seven-o-seven set to go
が印象に残る。seven-o-sevenがさすがに時代を感じさせる。
精緻なギターと歌のからみが美しいトラディショナル・ソングの
 07) Children Go Where I send Thee [21’07”~]
そして暗い情熱のような諦念のような感情がうかがえるようなアイリッシュな歌の
 14) Rising of the Moon [43’55”~]
あたりだろうか。とはいえ、捨て曲は無くて、非常にすぐれたライヴであることは確かだ。今聴いても全く古びていないことに驚かされる。

以下はその当時のフォークソングと呼ばれるジャンルと日本におけるフォークソングとがどのような関係性にあったかということについて、私が感じたことである。あくまで個人的な感想であるので独断と偏見があるかもしれないことをお断りしておく。
アメリカにおけるフォークソングの流行のピークはジョーン・バエズ、そしてボブ・ディランのようないわゆる反戦フォークを含めたプロテストソングの隆盛の時期にあると思われる。しかしフォークソングとは、もともとがトラディショナル・ソングであり、あるいはゴスペルがそのルーツであることからもわかるように、多分にレリージョナルなジャンルであった。政治的なもの云々より先に宗教的な志向を持つものなのであった。PPMの曲を聴いてもわかるように〈Jesus Met the Woman at the Well〉や、このライヴでは歌われていないが〈Tell It on the Mountain〉といった曲はその歌詞からも明らかであるようにキリスト教をそのベースとしている。
ボブ・ディランのようなメッセージ性を第一としたフォークソングに較べると、PPMやブラザース・フォアといった伝統的フォークソングのルーツに乗っていたシンガーたちはディランなどに較べると穏健であり、PPMはディランの〈Blowing in the Wind〉などを歌っているのにもかかわらず、それはフォークソングというジャンルの中にそういう曲があるからという理由による選曲であって、思想的・政治的に選択されたものではなかったのではないかと思われる。フォークソングの根源的な音楽であるはずのカントリー・ミュージックは元来保守的なものであり、プロテストソングとは対極にあるジャンルである。

〈San Francisco Bay Blues〉という曲は、ジェシー・フラー (Jesse Fuller, 1896-1976) によって1954年に作られた曲であるが、そのアルバムタイトルが《Folk Blues ― Working on the Railroad》であることからもわかるように、その曲の作り方としてはプリミティヴであり、デルタ・ブルースに遡るそうしたブルースのルーツとゴスペル・ソングとはある意味似ている。〈Rising of the Moon〉のようなアイリッシュ・フォークの曲もそのプリミティヴな共通性から選ばれているのに違いない。

日本ではそうしたアメリカの流行に影響されてディラン的な歌を作るソングライターもいたが、単にフォークソングという比較的素朴な音構造だけを借りてそれらしき音楽を作るという方法論も存在していたように思われる。それはあくまで商業主義を基本としているため、結果として単なる歌謡曲の亜流であったり、日本という国情に合わせた独特な技法を編み出すことで変質して行き、やがて歌謡曲というジャンルの中に吸収されていった。
フォークソングに限らず欧米の音楽を考える場合に重要なのは、曲に対するレリージョナルな動機であって、その善悪はともかくとしてそれを考えずに通り過ぎることはできない。私が繰り返しとりあげるR.E.M.の〈Losing My Religion〉にしても同様である。「神を信じていないのだが、神を信じる」 的な矛盾を抱えているのが今の作詞・作曲家たち、もっと言ってしまえばオーディナリー・ピープルという気がする。だが日本の歌曲の場合、基本的に宗教に対する思考というものが存在しないので担保も存在しない。では何を矜恃としているのかが私には不明なのである。


The Peter, Paul and Mary Album (Warner Records)
ピーター・ポール&マリー・アルバム(紙ジャケット)




LIVE Pater, Paul and Mary Tonight in Person BBC Four 1965
https://www.youtube.com/watch?v=qdcapT2Tdag
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