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ボローニャの山中千尋 [音楽]

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山中千尋のアルバム《Prima Del Tramonto》がこの6月にリリースされたが、ミシェル・ペトルチアーニにフォーカスした作品も収録との惹句がプロモーションの中にありながらも、メインはブルーノート80周年ということらしい。それに関連した動画がまだ見当たらないので、少し前のボローニャにおけるライヴをリンクしてみる。
2011年10月のボローニャにおけるライヴ、〈She Did It Again〉はもちろんペトルチアーニの曲である。ボローニャという地名から私が連想するのはセシル・テイラーの《Live in Bologna》(1987) であるが、単に地名が共通しているのに過ぎない。

ペトルチアーニのこの曲は左手の執拗な繰り返しの上に乗る強靱なリズムを伴った右手という印象が強いが、山中千尋の場合、その執拗さは多分に薄められ、もっとソフィスティケイトされた彼女の音に変えられている。たとえばブルーベックの〈Take Five〉の場合のテーマのくずしかたを聴いていると、このひそやかなトリッキーさが持ち味であって、テーマを離れてインプロヴィゼーションに持って行けば、もう原曲は関係ないのである。だからボローニャにおけるライヴでも〈La Samba Des Prophetes〉などのほうが 「山中千尋の速度」 なので、こういうときにこそ、彼女の本領が発揮される。

ただ〈La Samba Des Prophetes〉のような好きな速度というのは快適で快感を伴うのだが、〈She Did It Again〉のような、ある程度、曲そのものに縛られるほうがその味わいが出てくることがある。それはダークという色合いであって、彼女のもっとも重要なテイストはそのダークさにある。ペトルチアーニの弾く〈She Did It Again〉はone and onlyなテクニックの下にあるが、そのコンセプトは左右の手のコントラストでありダークさとは無縁である。
ペトルチアーニの抒情は〈In a Sentimental Mood〉などを聴いてみてもわかるように、あくまで正統派であり、その構成力には翳りがない。オスカー・ピーターソンを聴いても同様に感じるように、超絶なテクニックを持つ人はその抒情も明快なのである。

〈Living without Friday〉でも 「好きな速度」 というのは変わらなくて、この曲も典型的な 「好きな速度」 であるが、特に若い頃のこうした演奏はハマッてしまうとまさに爽快で、エンターテインメントとしてのジャズのテイスト躍如といってよい。特にこのトリオは3人のバランスがとれていてスリルがある。
だが〈She Did It Again〉の場合は、単純にその 「好きな速度」 に持って行くまでのプロセスを考えても、もう少し屈折していて、つまりペトルチアーニの曲はマテリアルであり、だから左手の循環コピーはあまり必要ではなく、むしろそこからいかに離れるかが重要視されることになるのである。


Chihiro Yamanaka/Prima Del Tramonto (Universal Music)
プリマ・デル・トラモント(通常盤)




Chihiro Yamanaka/LIVE IN TOKYO
(ユニバーサルミュージッククラシック)
LIVE IN TOKYO [DVD]




Chihiro Yamanaka/She Did It Again
live at Bravo Caffè, Bologna, October 2011
https://www.youtube.com/watch?v=a-RpRcPMUD8

Chihiro Yamanaka/La Samba Des Prophetes
https://www.youtube.com/watch?v=M48iOryMdV4

Chihiro Yamanaka/Take Five
https://www.youtube.com/watch?v=f7f46zoYT6Q

Chihiro Yamanaka/Living without Friday
https://www.youtube.com/watch?v=qh9TjtD3SrQ

      *

Michel Petrucciani/She Did It Again
https://www.youtube.com/watch?v=24X-vAVQCCM

Michel Petrucciani/In a Sentimental Mood
https://www.youtube.com/watch?v=6PyYcnXQZJY
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