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1990年のギタリスト ― J-POP全盛の頃 [音楽]

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あまり読まない『ギターマガジン』を読んでみたら面白かった。表紙の特集タイトルは 「J-POP黄金伝説」 となっていて、歌姫編1995-2001とある。その時代には女性ヴォーカルが多く台頭し、そして打ち込みが全盛であったにもかかわらずアナログなギタリストが重用されたということが『ギターマガジン』として特集にした理由であるように見える。ざらっと並べたジャケットがちゃんと初回盤なのもマニアック。

幾つかの対談記事があるのだが、Every Little Thingの伊藤一朗とDo As Infinityの大渡亮の対談はあの頃の真相を語っているようでいて、しかし核心までには至らず、といった印象を受けてなかなかに上品でシブい。伊藤一朗が自ら語るところによれば、ELTにおける自分の存在は3人目のメンバーであり、たとえとして 「菊正宗を買うとついてくるおしゃれ小鉢」 みたいなものだという。それは大渡亮も同じで、自分はグループの中で3番目の人、「でもそのおしゃれ小鉢って何?」 と聞くところがかわいい。
あの頃、女性1人、男性2人というグループが輩出した。それだと売れるという流行だったのか、それとも単純に偶然が重なっただけなのか。ELTやDAIだけでなくドリカムがそうだし、ブリグリもマイラバも、もちろんglobeも同じ構成だ。メインが女性歌手であるのも同じであり、そうした傾向はいきものがかりあたりまで続いている。90年代はCDも売れたし雑誌も売れたという、雑誌編集者からすればあの時代への憧憬の意味あいもあるのだろう。

織田哲郎と相川七瀬の対談で織田が語っているが、時代はすでにデジタルになりつつあり、織田は相川の曲のバックを全部作ってしまったという。それはProToolsのようなツールの充実があったことは間違いないが、そのようにデジタルで作れるのにもかかわらず唯一残っていたのがアナログなギターサウンドであって、それがあの時代をあらわす特徴となっているのがある意味、皮肉である。

伊藤への質問で、ELTの曲作りの中で苦労はありましたか、というのに対して伊藤は、「当時の担当ディレクターの方がもう、歪んだギターが大っ嫌いで。打ち込みで整然とした音の中に、“なんでそんな変な周波数を入れるんだ” って。で、そっから戦いなんですよね」 と答えている。それに対して大渡も、DAIの最初のプロデューサーはハードなギターが好きじゃない人だったという。2人とも似たような環境、つまり3人目のメンバーであり、自分がこれだと思うギタープレイを受け入れられないということでは同じだったのだ。

質問者が 「90年代~00年代初頭のJ-POPを改めて聴き直すと、往々にしてハードなギター・ソロが入っていると思うんです」 といい、これはなぜかという問いに対して大渡は、ヴァン・ヘイレン、TOTOやジャーニーなどの流れだと思うと応じる。そして 「あの頃にできたAOR流れの商業ロックのイメージが、一番多くの人に伝わりやすい。日本のポップ・シーンでもそういう認識をした結果じゃないですか?」 という。さらに 「90年代後半のJ-POPの雛形自体は、80年代の歌謡曲の時点でできてると僕は思っていて」 とも。
プロデューサーが亀田誠治に替わってから、〈陽のあたる坂道〉を録っているとき、亀田が 「亮くん、このギター・ソロ、ボーカルの歌い終わり前から入るのはアリかな?」 と言われてイメージが湧いたという話も、あぁすごいなと思う。そうしたアイデアが曲の個性を決定づけるもととなるのである。

一方、伊藤は 「「For the moment」 は初期の曲なんで、パッシング・トーンとか、いわゆるジャズ╱フュージョンで使うような音使いが入ってます。でも初期の頃って、そういうプレイをするとNG食らってたんですよ。あれは時間がなかったんで発売されましたけど」 と受け入れられるまでの苦労を語る。
聴いてみると当時としては挑戦的なソロであり、それゆえにこの時期のJ-POPの中で私が最も好きなのは、ELTにおける伊藤一朗のギターである。といって毎回がインプロヴィゼーションなわけではなく、ソロの骨格はほとんど一定でありそれはライヴでも変わらない。それがポップスである所以である。2人になってからのエポックとなったのはやはり〈fragile〉であり、バラードの中にいかにギターを入れ込むかの課題をクリアしている。Killerは持ってるだけで佇まいがいい。リッケンみたいな不良っぽさはないけれど (関係ないかもしれないけどフラジールがフラジャイルだったら売れなかったと思います)。
そしてこの女性ヴォーカルをメインとしたグループ、あるいはソロの女性ヴォーカルの時代を経て椎名林檎、そして宇多田ヒカルが出現する構図がこの時代の使命であり、宇多田/椎名への前哨と言えなくもない。

相川七瀬の《Red》はリサイクルショップで買ったのが相川七瀬の音楽との出会いの最初だ。盤面が傷だらけだったが、最初から懐かしいような音って何だ? と思ったことを覚えている。いかにも織田哲郎らしい音で、織田哲郎らしいタイトルで、でもスターレスは入っていなかった。傷だらけ過ぎるCDだったので後で新品を買い直した。

これは特集の話とは別のことだが、雑誌の表紙裏の見開きのフェンダーのChar Mustangの広告がすごい。Charとギターの写真が並べてあるだけ。文字はそれだけで一切の説明も、楽器の価格表示もなにもない。このムスタング、Charと名前のついているだけのことはあり、細かいところがちょっと違う。一番異なるのはブリッジであって、ダイナミックトレモロというジャガー系のへらへらしたのでなく、ストラトタイプのブリッジになっているし、裏側はカヴァーもない状態で、ユニットを引っ張っているスプリングが見えている (フタなど付いていないほうがスプリングをいじりやすいということ)。ブリッジのコマが金色っぽく見えるのはブラスだろうか。でも結果としてスタンダードのムスタングよりかなり高いのは仕方がない。
真島昌利はニューアルバムのプロモーションのはずなのに、そのことを語らないで、この前、ブラインド・レモン・ジェファーソンのSPを買ったと言っている。CDやLPで聴いてもジェファーションは 「音が遠い」 ので、なぜ遠いんだろう、ということでSPで確かめたかったんだけど、やっぱり遠かったとか。ロバジョンのSPはオークションに出ると100万円もするんだそう。いや、私はCDで十分です。

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Guitar magazine 2019年11月号 (リットーミュージック)
ギター・マガジン 2019年 11月号 (特集:J-POP歌姫編)




Every Little Thing/出逢った頃のように (live)
https://www.youtube.com/watch?v=Hy68U2Zv5yU

Every Little Thing/fragile (レコード大賞2001.12.31)
https://www.youtube.com/watch?v=d3hAyaOmDmo

Do As Infinity/陽のあたる坂道 (PV)
https://www.youtube.com/watch?v=wpDK-gN_85c

Do As Infinity / 陽のあたる坂道
Do As Infinity “ETERNAL FLAME” 10th Anniversary in Nippon Budokan
https://www.youtube.com/watch?v=ffAzH3GdK6Y

相川七瀬/夢見る少女じゃいられない (live)
https://www.youtube.com/watch?v=Ddim3g5U-Ps
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