SSブログ

セシル・テイラー・ユニット《Akisakila》 [音楽]

ceciltaylor_AlltheNotespreview_200523.jpg
Cecil Taylor

コンサートの最初に司会者が出て来てメンバー紹介をする様子が収録されているライヴ盤がある。いかにもこれからコンサートが始まるぞというドキドキ感が伝わって来て、時空を超えてそのコンサート会場に引き込まれてしまうような上手い編集だと思ってしまう。
ジャズのライヴ盤で最もドキドキ感のある美しい冒頭のアナウンスはビル・エヴァンスの《At The Montreux Jazz Festival》だと思う。フランス語の紹介と観客の拍手。一瞬の間。そして始まるピアノのイントロ。その硬質なピアノにからまるベースとドラムス。
一方で、印象的だがとてもアクの強いアナウンスといえばアート・ブレイキー・クインテットの《a night at Birdland》のピー・ウィー・マーケットの紹介だろう。1954年というこの時代のバードランドというジャズクラブの雰囲気が伝わってくるブルーノートの超有名盤である (この時点でグループ名はまだジャズ・メッセンジャーズではない)。そしてクリフォード・ブラウンの最も輝かしい時期の録音でもある。

セシル・テイラーの《アキサキラ》が再発された。このアルバムは1973年5月22日に東京・新宿の厚生年金会館大ホールで収録されたコンサートのライヴ盤である。約50年も前の録音でありながら、おそろしく鋭利でパワフルで全く古びていない。彼の演奏の中でベストといってもよい内容のライヴである。
冒頭、悠雅彦がメンバー紹介を始めた途端に、その紹介が終わるのを待つこともなく、アンドリュー・シリルのドラムが鳴り始めてしまう。そしてすぐにピアノとアルトサックスが加わり演奏が開始されてゆく。観客の大きな期待の拍手。このスリリングな始まり方はモントリューとは対極だがその熱っぽさが伝わってくる。

この日の演奏曲は〈Bulu Akisakila Kutala〉と名付けられた1曲だけ。約82分にわたって演奏されたという。マイルス・デイヴィスのエレクトリック期にも、切れ目なく演奏されたコンサートというのは存在したが、マイルスのそれは一種のメドレーであり、この日のセシル・テイラーのコンセプトとは異なる。
CDの解説によれば、東京でのライヴは5月21日と22日の2日間、21日の夜に急遽、翌日のライヴを録音しようという提案が了解されたので機材を搬入設営。しかしセシル・テイラーは納得できる内容でなければ発売はさせないと言ったのだという。だが数日後、プレイバックを聴いた彼は 「すぐに発売して欲しい」 と喜んだのだそうである。

セッショングラフィによれば、このアルバムはオリジナルのLPの後、4回CD化されているが、長らく廃盤のままだった。YouTubeにも音源はあるが、正規のメディアがなければダメなのである。今回、再発されたのはまさに僥倖であり喜ばしい。
その来日時に録音された菅野沖彦の録音によるソロピアノの《Solo》も同時に発売されている。
また、ジミー・ライオンズとアンドリュー・シリルはセシルのグループで長い間一緒に演奏していたが、この3人だけでの演奏というのはオフィシャルで他に無いのだそうである。

そしてアルト、ピアノ、ドラムスというユニット構成の同じ山下洋輔がセシル・テイラーの演奏について次のようなことを書いていたのを覚えている。自分 (=山下) のバンドの場合、テーマがあって、途中にそれぞれのフリーの部分があってそこはドシャメシャなのだが、最後には戻ってきてピタッと終わるというのがスタイルだ。だがセシル・テイラーはそうではなくて、たとえば最後にドラムがハミ出したりこぼれたりしたとしても全然関係ない。そんな形式的なことはどうでもいいのだ。そのくらいすごい。というようなことである。記憶だけで書いているので使っている言葉もニュアンスも違っているだろうが大意はそうである。
最初と最後のテーマがあって、というのは基本的な、というかオーソドクスなジャズのパターンそのものである。フリージャズがそうしたパターンを援用したって別に構わないのだが、援用しなくたっていいのである。

このライヴの当日、この演奏は第1部で、第2部でセシルは舞台でダンスをして、ピアノは全く弾かなかったのだという。なんだこりゃ? という人もいたらしいが、そしてまたたとえばマイルス・デイヴィスはコンサートでもお辞儀もしやしねえ、という人もいたらしいのだけれど、つまりそうしためちゃくちゃなのとか尊大なのとか種々のあれこれがあるのだとしても、簡単にいえばセシル・テイラーやマイルス・デイヴィスは何をしてもいいのである。
それとこのライヴ盤を聴いて思ったのは、会場の熱気から感じられる当時の観客のこうしたフリーな音楽に対する受容の高さ・広さである。今、こうした演奏は一般的に受け入れられにくいだろうし、そうした土壌ももはや存在しないように思う。時代は保守的であり視野狭窄的である。フリージャズはなにごとにも迎合しない。なぜならそれこそがフリーだからである。


Cecil Taylor Unit/Akisakila (ウルトラ・ヴァイヴ)
アキサキラ(日本独自企画、最新リマスター、新規解説付)




Cecil Taylor Unit/Akisakila, part 1 of 4
https://www.youtube.com/watch?v=hxvvHQjDk9A

Cecil Taylor Unit/Akisakila, part 4 of 4
https://www.youtube.com/watch?v=rH-OZmFF1j0

Bill Evans/At The Montreux Jazz Festival
https://www.youtube.com/watch?v=qa6maJrd3xw&list=OLAK5uy_n64craEeJyztTj_4hWzD6piiO6xp3NG2g

Art Blakey Quintet/A Night At Birdland
https://www.youtube.com/watch?v=L3aKsnKlPqw&list=PLUJ7V33M1wR24o6ZE760w2tk3s_PjwrEL&index=2&t=0s
nice!(100)  コメント(8) 
共通テーマ:音楽