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ウェンブリー・エンパイア・プールのT・レックス [音楽]

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YouTubeでトリビュート盤を検索しているうちにT・レックスのライヴに辿り着いて魅入ってしまった。映像はロンドンのウェンブリー・エンパイア・プールにおける1972年3月18日のライヴである。
ウェンブリー・エンパイア・プールは現在、SSEアリーナ・ウェンブリーと名称が変わっているが、1934年に建てられた屋内競技場である。解説によればここを最初にコンサート会場として使用したのはレッド・ツェッペリンであり、2番目にコンサートをしたのがT・レックスなのだとのこと。いわば日本武道館のような使われ方だと思えばよい。

T・レックスは簡単に言ってしまえばマーク・ボランのバンドであり、ジャンル的にはいわゆるグラムロックとして知られる。バンド名は最初、ティラノザウルス・レックスであったが、4枚のアルバムをリリースした後、1970年12月にT・レックスとバンド名を変えた。T・レックスとなってからブレイクし、〈Get It On〉〈Telegram Sam〉〈20th Century Boy〉といったヒット曲は1970年から73年頃に集中して録音されている。

したがってこのウェンブリー・ライヴはバンドが最高潮の頃をとらえているが、コンサートの完全な収録映像はこれだけなのだそうである。映像は映画《Born to Boogie〜The Motion Picture》として製作されたものでリンゴ・スターが監督をつとめていて、ミュージック・プロデュースはトニー・ヴィスコンティである。

T・レックスに関して私はそんなに深く聴いていたわけではなかったので、数年前、一念発起して、というのはおおげさなのだけれど、英Polydorから出ていたティラノザウルス・レックス時代の2枚組のデラックス・エディションを手に入れたのだが、そこで息切れしてしまい、それ以後のT・レックスになってからのアルバムはそのままとなってしまった。
ティラノザウルス・レックス期の4枚とは次のとおりである。1stアルバムはそのタイトルが長いことで有名である。

 My People Were Fair and Had Sky in Their Hair... But Now
  They’re Content to Wear Stars on Their Brows (1968)
 Prophets, Seers & Sages: The Angels of the Ages (1968)
 Unicorn (1969)
 A Beard of Stars (1970)

このティラノザウルス・レックスの頃のサウンドはどちらかといえば内向的でカルトであり、私はこうした音楽に魅力を感じるのだがそのカルトさは無限ループへの誘惑と紙一重のような表情を見せるときがある。

ところがこのウェンブリーのライヴ映像は、これまでのT・レックスに対する私の思い込みを粉砕するような素晴らしい内容であった。もちろん1972年という時期のステージングに現在の評価方法をそのままあてはめることはできないが、全体から感じる音の表情はタイトでクリアであり、先入観でなんとなくぐにゃぐにゃしたものを連想していたのとは全く異なる印象だった。
特にドラムとパーカッションという、2つの打楽器奏者がいることでそのリズムは余計に強く刻まれてるように思える。この4人のユニットのサウンドから生じるタイトさは比類ない。
そしてもっと言うのならば、T・レックスがグラムロックに分類されているのは違うのではないかとも思う。たとえばグラムの代表的なミュージシャンといえばデヴィッド・ボウイであるが、ボウイからジャパン (デヴィッド・シルヴィアン) へとつながる系譜なら納得できるのだが、ボウイとボランを並列して較べてみた場合、音楽的志向はかなり異なるのではないだろうか。まだロキシー・ミュージック (ブライアン・フェリー) のほうがボウイには近い。
ボランが持っているグラムらしいムードは、光る素材の服を着ていることくらいで、グラムという言葉から感じられるグラマラスなテイストはほとんど見当たらないように見える。むしろ単純でシンプルなハードロックというふうにとらえたほうが自然である。ということがわかっただけでも、このライヴ映像は貴重であるような気がした。
そしてステージでボランはレスポールとストラトを持ち替えて弾いているが、やはりボランはレスポだよな、とあらためて思ったのである。

マーク・ボランは交通事故で30歳の誕生日の直前に亡くなってしまうが、もしデヴィッド・ボウイと同じくらいの命があったのならどうだったのだろう、と考える。考えても仕方がないし、どんどん劣化して終わってしまったという可能性だってあるが、でも異なった局面を見出したかもしれない。

ウェンブリー・ライヴは昼と夜の2回あって、下記にリンクした〈Get It On〉はウェンブリーのイヴニング・コンサートの映像の中からなのだが、〈Get It On〉はマチネー・コンサートのほうが優れているように感じる。
ただ、細切れの映像は無くてトータルで1時間強のコンサート全体の映像きりないのだが、その映像もリンクしておく。


T.Rex/Get It On
Live at Wembley Empire Pool, London, England, 1972
https://www.youtube.com/watch?v=Tvd5bTnXnIQ

T.Rex/Wembley Empire Pool, 18th March 1972
(Matinee Concert)
https://www.youtube.com/watch?v=5Ud_X5eTln8

T.Rex/Wembley Empire Pool, 18th March 1972
(Evening Concert)
https://www.youtube.com/watch?v=YGRQYJLOI2g
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