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小林麻美《CRYPTOGRAPH》 [音楽]

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新星堂にJUJUのユーミン曲カヴァー・アルバム《ユーミンをめぐる物語》が縦横に何十枚も壁になって展示されていて十分に目立っていた。アルバムデザインがわざと素朴ふうなのは狙っているのだろうか。

このアルバムは松任谷夫妻のプロデュースということになっているが、松任谷由実が他のミュージシャンをプロデュースしたアルバムというのはそんなに無いような気がする。有名なのは、ずっと昔の小林麻美へのプロデュースだろう。

小林麻美はまずモデルとしてその仕事を始めた人だが、その頃の慣習としてアイドル歌手としてもデビューさせられた。だがwikiによれば 「当時のアイドルに多く求められた、明るく無邪気に笑顔を見せる天真爛漫さとは対極にあるような、ほとんど笑顔を見せずにうつむき加減、猫背で気だるそうに歌う小林の姿は異質にも映り、暗い印象を持たれた」 とのことで歌手活動は消滅する。

ところが1984年にガゼボの〈I Like Chopin〉という曲をカヴァーして大ヒットとなる。邦題は〈雨音はショパンの調べ〉であるが、この曲を中心にして 「気だるそうな」 小林麻美のキャラクターをふくらませて松任谷由実がプロデュースしたのがアルバム《CRYPTOGRAPH ~愛の暗号~》(1984) である。
「気だるそうな」 という表現から連想されるのはフレンチ・ポップスのアイコン、フランソワーズ・アルディであり、松任谷由実の楽曲〈私のフランソワーズ〉が彼女をイメージした作品であることを踏まえると、ユーミンはそのアンニュイさにおいてアルディと小林麻美に通底する印象を感じたのだろう。そしてまさにそうした暗いアンニュイさに彩られたユーミン自身のアルバム《時のないホテル》(1980) に近しいテイストを保持しているようにも思う。

《CRYPTOGRAPH》の収録曲はガゼボやセルジュ・ゲンズブール〈Lolita Go Home〉などのカヴァー曲と何人かの作曲家からの提供曲で成り立っていて、既発ユーミンの作品のカヴァーは1曲しかない。それは〈TYPHOON〉なのだが、JUJUの《ユーミンをめぐる物語》でも同曲がカヴァーされていることに何らかの暗合を感じる (暗号ではなくて)。
曲を提供した作曲家たちは松任谷由実、加藤和彦、井上陽水、そして玉置浩二という豪華な布陣であるが、このアルバム《CRYPTOGRAPH》の中で最もダークでアンニュイなのが安井かずみ作詞、玉置浩二作曲による〈アネモネ〉である。

この路線が当たったことで、小林麻美には同工異曲な《ANTHURIUM 〜媚薬》(1985)、《GREY》(1987) という後続アルバムがあるが、アルバム《CRYPTOGRAPH》の発売と同時にシングル曲として発売されたのが〈哀しみのスパイ〉である。この曲は松任谷由実作詞、玉置浩二作曲であるが、〈アネモネ〉と〈哀しみのスパイ〉という2曲の玉置浩二作品はこの時期の小林麻美の楽曲の中でひときわ異彩を放っているように聞こえる。

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小林麻美/Cryptograph (full album)
アネモネは29’11”から (Tracklistを開くとリンクあり)
https://www.youtube.com/watch?v=yy0wJRTKDKw

小林麻美/哀しみのスパイ
https://www.youtube.com/watch?v=dvE9v-wwaXg

JUJU/守ってあげたい
https://www.youtube.com/watch?v=zdPMYyE6yxk
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