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ヒラリー・ハーンのバッハ《ヴァイオリン協奏曲第2番》 [音楽]

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Hilary Hahn

ここのところ、ずっとバッハなのだ。
思い出してみれば高校生の頃から20歳前後までもそうだった。音楽は究極としてはバッハだけで良い、と思っていたのだが、やがて、世界には数限りない音楽があり、だんだんと視野を広くして聴くようになってその気持ちは消失した。
それなのになぜ、そのような気持ちがよみがえってきたのだろうか。それはきっと世界に対する不信なのだ、と自己診断してみる。世界に対して、もっと卑俗にいえば世間に対して不信を持ってしまったとき、信じられるものはすべて消失し、バッハだけが残るのだと思う。

以下は私の勝手なひとりごとであり思い込みに過ぎない。私にとっての至高のバッハは《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》である。これは終生変わることはない。
ヴァイオリンは基本的に単音の楽器である。弦は4本あるがひとつの旋律線で弾かれることがほとんどである。バッハの無伴奏には重音の部分が多く存在するが、基本的にはヴァイオリンは単音である。
バッハの作品の基本的な構造は対位法によって作成されていて、対位法とは2声以上の音のからみあいによって成立するべきであり、したがって伴奏楽器の存在しないヴァイオリン1本の音楽では対位法を構成できないはずである。だがバッハの無伴奏には対位法が存在する。それはひとつの旋律線によって奏でられる音の中に聞こえないはずの音を、あるいは和音をリスナーが聞いているからだ。それは幻想なのだろうか。

だから無伴奏ヴァイオリンを聴くのは疲れる。緊張を強いられているような気がする。だがどうしても聴きたい気持ちになってしまうときがある。まるで強迫観念のように突然それはやってくる。でもYouTubeに、ヒラリー・ハーンがパルティータ3番を弾いている動画があって、これは自室なのかそれともそれに類した場所なのか、ともかく比較的プライヴェートな場所のようで、そこで弾かれるパルティータはそんなに重くない。
私の最も好きなアリーナ・イブラギモヴァの演奏と聴き較べなどしていたのだが、イブラギモヴァのはコンサート・ホールにおける動画で、それと聴き較べるのはフェアではない。セッション録音とライヴ録音は違うし、スクエアな場所での演奏とプライヴェートな場所での演奏とではニュアンスが違う。そもそも聴き較べたところでどうにもならない。好きか嫌いかだけで、上手いか下手かの比較にはならない。

ああ疲れたと思ってしまって、もっと親しみやすいバッハがいいと思い始めた。そこでヴァイオリン・コンチェルトである。バッハのヴァイオリン協奏曲を弾くハーンの動画で、ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団との演奏をたまたま聴いたのだが、演奏会場の雰囲気も良くて、きつきつのバッハから少し遠ざかることができたように思う。指揮はオメール・メイア・ヴェルバーの弾き振りである。

バッハのヴァイオリン協奏曲で一番有名なのは第2番である。第1番の調性はa-mollであり、楽章毎にいうのならば a-moll → C-dur → a-moll なので響きとしては悲しく哀愁があって素朴なのだが、音楽的には第2番のほうがよくできているように感じる。第2番は G-dur → cis-moll → G-dur という調性である。
リンクした2つの協奏曲はおそらく同じ日に連続して演奏された動画だと思う。第2番の第3楽章でハーンのやや現代的なアプローチが垣間見えてしまうが、全体的にはリラックスしていて、ハーンが伴奏の弦楽器を引っぱっていく様子がとても心地よい。ヴェルバーのチェンバロも的確である。
昔、憧れていたバッハにまた逢えたのだと、そしてバッハの精神性は廃れることなく健在だとあらためて思うのだ。

追記として、私はどんな音楽に関しても、あまり感心しなかった演奏については書かないようにしているのだが、このヴァイオリン協奏曲の動画を探しているとき、2台のヴァイオリンのための協奏曲を弾いている某演奏に行き当たった。あえて名前は記さないしリンクもしないが、有名なヴァイオリニストとその教え子たちのように見える演奏である。非常に現代的な躍動感に満ちた演奏で、全体的に速く、まさに爽快感のある演奏なのだが私は買わない。冒頭から22小節めの、有名な跳躍進行の部分がこれでは台無しだ、と思ってしまったからである。だがこうした演奏こそが、現代の人々には好まれるのかもしれない。

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Hilary Hahn/J.S.Bach: Violin Concerto No.2, E-dur, BWV 1042
Omer Meir Wellber, Deutsche Kammerphilharmonie Bremen
https://www.youtube.com/watch?v=DgfyryZJES4

Hilary Hahn/J.S.Bach: Violin Concerto No.1, a-moll, BWV1041
Omer Meir Wellber, Deutsche Kammerphilharmonie Bremen
https://www.youtube.com/watch?v=Q3-5144TaYg

Hilary Hahn/J.S.Bach: Partita No.3, E-dur, BWV 1006
https://www.youtube.com/watch?v=Pr_gK9fzwSo
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オーチャードホールの小坂忠 [音楽]

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小坂忠

『レコード・コレクターズ』のCITY POP BEST 100という増刊号があって、思わず買ってしまった。でもこのところ、シティポップ、シティポップと姦しくて、そもそもここまでもシティポップなの? という現象も起きてきて、少し食傷気味である。
この増刊号は評論家の先生がたがポイントを付けてこれが第何位とかやっているのだが、ベスト曲がどれかとランク付けすると、どうしてもありきたりになってしまって、それは仕方のないことなのかもしれない。それはどうでもいいとして、この増刊号は作詞・作曲・編曲のデータが載っているのと、シングル盤で出ている曲はそのシングル盤の画像を使っているので資料として参照するのに便利だ。この曲はこういうデザインのシングル盤だったのか、とあらためて感心してしまうのが多い。というか、ほとんど知らなかったりする。
それに巻末には簡単だが索引まで付いているので大変すぐれた編集だと思う。

シングル盤は通常、その時点での最もアップ・トゥ・デイトなものだから、その時代の表情がわかったりする。たとえば大貫妙子の《サマー・コネクション》のシングル盤ジャケットはスケボーで遊んでいる大貫妙子の写真で、今のイメージからするとありえない設定である。解説にも 「時代の空気感」 とあるがまさにその通りだ。

これを読みながら私自身のベスト盤、というより愛聴盤をあらためて探してみた。
まずピチカート・ファイヴのアルバム《couples》から〈皆笑った〉が選択されているが、このアルバムがとても好きだ。ピチカートといえば野宮真貴というのが普通の思考なのだが、1stの佐々木麻美子にシンパシィを感じる。もちろん最近になって入手した再発盤なのだが、なぜか心がなごむ。

佐藤奈々子の〈サブタレニアン二人ぼっち〉。以前の記事にも書いたが1st《Funny Walkin’》の冒頭曲で、奈々子テイスト全開の作品である。作詞は佐藤奈々子、作曲は佐藤奈々子と佐野元春だが、佐野はこのとき、まだデビュー前である。須藤薫と杉真理を彷彿とさせる関係性だ。そして編曲は大野雄二。この歌い方はきっと好き嫌いがあるだろうが、嫌いな人は聴かなければいいだけのこと。

鈴木慶一と高橋幸宏のユニット THE BEATNIKS は〈ちょっとツラインダ〉が選ばれていて、そうだろうなとは思うのだが、私が好きなのは〈初夏の日の弔い〉であって、これを聴くと心がしんとしてしまう。そして高橋幸宏はもういない。

だがそんななかで意外に持ち上げられていたのが小坂忠で、索引から見ても4個所で言及されている。小坂忠で真っ先にチョイスされるのはたぶん〈ほうろう〉だろうが、私のベストは〈機関車〉である。若い頃の小坂忠は、いかにもヒッピー風な容貌で、もっともそれも時代のせいもあるのだろうが、それが年齢を重ねるとともに味わい深い歌い方に変わっていった。若い頃のほうがよかった、といわれてしまう歌手の多い中で、小坂忠は年齢が上がったほうがすぐれた歌唱だったと思う。まるでレナード・コーエンのようである。

2015年の東京Bunkamuraオーチャードホールでのライヴ映像があるが、これは村井邦彦作曲活動50周年記念コンサートとしてリリースされた動画の一部である。〈機関車〉の歌詞は実はかなり厳しい。いまだったら書けないような内容の歌詞だともいえる。バックはティンパン・アレー+高橋幸宏で、小坂忠の歌唱は滋味に満ちていて、遠い過去の記憶を引き寄せる。

そのような動画を検索しているうちに、荒井由実の古い映像を発見した。非常に画質が悪いが、若い頃の彼女がここにいる。〈生まれた街で〉と〈あの日に帰りたい〉だが、後者のボサノヴァ・テイストの伴奏ギターを弾いているのは細野晴臣である。もうひとりのリズムを刻んでいるギタリストがはっきりわからないのだが、かまやつひろしのような感じもする (でも、そうだったらテロップ出すよね。だから違うかも)。

そうして小坂忠の歌を聴いているうちに、はっぴいえんどの〈あしたてんきになあれ〉を突然思い出した。それはあるライヴで細野晴臣、大瀧詠一に小坂忠の加わった3声のコーラス。あれはすごかったんだ、と今さらながら思うのだ。


レコード・コレクターズ CITY POP BEST 100
(ミュージック・マガジン)
CITY POP BEST100――シティ・ポップの名曲 1973-1989




小坂忠/機関車
2015.9.28 東京Bunkamuraオーチャードホール
https://www.youtube.com/watch?v=C0SvHXk1gh0

小坂忠&ティン・パン・アレー/しらけちまうぜ
live 1975年
https://www.youtube.com/watch?v=aKXF9zPKv8A

荒井由実/生まれた街で〜あの日に帰りたい
https://www.youtube.com/watch?v=1hkkxK9LxaA

pizzicato five/couples
https://www.dailymotion.com/video/x3lnqx1

佐藤奈々子/サブタレニアン二人ぼっち
https://www.youtube.com/watch?v=wmSeXx_hW0Q

ビートニクス/初夏の日の弔い
https://www.youtube.com/watch?v=Z5YBtkL1p5U
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テレビ埼玉のE.D.P.S. [音楽]

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E.D.P.S.はフリクションのギターだった恒松正敏が、リーダーとして立ち上げた3ピースのバンドである。E.D.P.S.をジャンルとして特定することはむずかしい。パンクと言われるが一般的に呼ばれるパンクバンドとは少し違うと思う。といってラウドとかノイズというのとも違うし、シューゲだともっと違うし、オルタナというジャンル区分は言葉としては便利だが、ニューミュージックなどという言葉と同じで対象がぼやけてしまう。

E.D.P.S.としての活動はそんなに長くなかった。その後、ソロとなっていろいろと試行錯誤していた印象があるが (その頃の表記はカタカナでツネマツマサトシ)、音楽としての最も高いポジションはE.D.P.S.のときだったと私は思う。
E.D.P.S.は electronic data processing system の略だとのことだが、このバンド名をイー・ディー・ピー・エスと読むべきなのかエディプスと読んだほうがいいのかが、よくわからない。パーソネルは恒松正敏、ヴァニラ、ボーイの3人である。恒松のギターは黒のストラト、ヴァニラのベースは当時流行っていたスペクターの黒である。
アルバムには《BLUE SPHINX》(1981) や《DECEMBER 14TH 1983 MAY 27TH 1984》(1984) があるが、残念ながら音が小さくまとまってしまっていて、E.D.P.S.の本質を伝えていないように聞こえる。

だが先日、別の音源を探していたとき、テレビ埼玉の番組《Sound Super City》でのスタジオ・ライヴの動画を偶然発見した。いままで観ていた音源のなかで、E.D.P.S.の音楽が垣間見えるほとんど唯一の動画だと思われる。貴重な動画を上げていただいたことを感謝したい。
YouTubeの 「- tenpelon」 というチャンネルに5本の動画がupされている。最大音量で聴くのが望ましいが、爆音の嫌いなかたはクリックしないほうが賢明である。

私の聴いたなかで最もすぐれていたと思われるE.D.P.S.のライヴはオープニング・アクトがZELDAだった。ZELDAのアルバムでいえば、おそらく《CARNAVAL》か《空色帽子の日》の頃である。ライヴの終盤で恒松のギターの弦が切れたが、ギターを交換しないまま最後まで弾ききった。ギターを交換したらテンションが落ちるからである。


E.D.P.S./にがした・はじまり
https://www.youtube.com/watch?v=w1qbe83OxZo

E.D.P.S./Keep On
https://www.youtube.com/watch?v=3x4mj-ou-nk

E.D.P.S./Death Composition
https://www.youtube.com/watch?v=_lQjbf5QPnw

E.D.P.S./Too Much Dream
https://www.youtube.com/watch?v=ggCxxk9R4wE

E.D.P.S./It’s Your Kingdom
https://www.youtube.com/watch?v=T3VrGPKfFbE
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プリンス《Diamonds and Pearls》 [音楽]

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ビートルズは〈Now and Then〉に続いて《The Beatles/1962−1966》と《The Beatles/1967−1970》(いわゆる赤盤、青盤) が再発されるとのこと。2023年editionということになっているが、ベスト盤として聴くのには手軽で便利である。ローリング・ストーンズも久しぶりのアルバム《Hackney Diamonds》がリリースされたし、コロナが終わりつつあるためなのか、少しずつ音楽活動が戻って来ているのは喜ばしい。
だが、ブルース・スプリングスティーンの日本盤のシングル集成である《ジャパニーズ・シングル・コレクション》が出るのも、一種のベスト盤だと思えばいいのだけれど、デビュー50周年記念として全アルバムをBSCD2化とか、やめて欲しいんだけどやめないだろうなぁ。
さらにややこしくなっているのはたとえば1stの《Greetings from Asbury Park, N.J.》にはMobile FidelityのSACDハイブリッド盤 (USA盤) があること。そしてMobile Fidelityのアナログ盤もリリースされるらしいが、それはもう無理というものである。良い音なのかもしれないがそれを再生できるだけの装置がない。
ボブ・ディランも武道館ライヴのコンプリート盤とか、もうね〜……でも買う人がいるから出すんですよね (もっとも私はボブ・ディランってよく知らない。〈Blowin' in the Wind〉はPPMの歌だと思っていたし)。

こういうふうにリマスターとかアウトテイクをまとめたりとか、スペシャルとかスーパー・デラックスというような昭和的ネーミングの 「これでもか」 セット販売を流行らせたのは、もちろんビートルズなのだが (最近だったら《Revolver Special Edition》とか)、音楽なんて基本的にはアルバムとして出されたオリジナルのソースを超えるものはないはずです。レコード会社の思惑に負けない強い意志が必要なのだ。

と思いながらプリンスが出ると弱い心ががらがらと崩れてしまうのは、すでに殿下に洗脳されているからだと思うのです。殿下っていう愛称はパタリロみたいでちょっと笑う。
プリンス財団の企みは《1999》、次に《Sign ‘O’ The Times》と来て今回は《Diamonds and Pearls》だった。そう来たか、という納得感と、う〜んそうなのか? という思いが交錯していて、ワーナーとの確執とかいろいろあったのだろうが、それはマイルスのプレスティッジ4枚のときにも似ていて、もっとも私は殿下が名前を捨てている間は少し遠ざかっていたので、今回の《Diamonds and Pearls》という選択が的確なのかそうでないのかを評価するだけの知識が無い。
ただ、たとえばジミ・ヘンドリックスのような過去の人とは違って、プリンスのアーカイヴは本人の性格もあるのだろうが上手に整理されているようで、そこから抽出されたものが膨大な未発表音源となるのだろう。

それでオフィシャルのMVを観ると、これはやっぱり聴く人を選ぶなという感覚が蘇ってしまうのは、世間の一般的な評価としてのプリンスのエグさが全開だからなのかもしれないが、特に〈Gett Off〉なんて超エグいのかもしれないけれど、今聴くと、そして観ると、プリンスの意図しているものがあらためてよくわかる。〈Willing And Able〉もジャジーな雰囲気に満ちているのだが、ほとんどがファルセットな歌唱であり、そのタイトなブラス・アレンジと柔らかな緻密さがこの時期のプリンスをあぶり出す。
2曲のMVのどちらにも聞こえるフルートが (特に〈Gett Off〉では)、単なるフルートという笛音のようでなく聞こえて (それはマイルスの《Bitches Brew》におけるベニー・モウピンのバスクラのような妖しさを持っていて)、この音がエグさのひとつの要因なのかもしれないと漠然と感じてしまったりする。

プリンスはジェームズ・ブラウンのようなステージングをしたいと語っていたというが、JBと違ってプリンスはどこまでもアーバンであり、泥臭さがない。それがメインストリームのR&Bとは大きく異なる面である。この日本においてプリンスが、いつまでもパープル・レインだけのプリンスでは悲しいと思うのだ。


Prince/Diamonds and Pearls (ワーナーミュージック・ジャパン)
ダイアモンズ・アンド・パールズ:デラックス・エディション (2CD) [完全生産限定] (特典なし)




Prince/Willing and Able (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=3Apk2Qr9yVc

Prince/Gett Off (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=6f4BwQFF-Os
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ビートルズ〈Now and Then〉を聴く [音楽]

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The Beatles/Now And Then (Official Music Videoより)

ビートルズ最後の曲として公開された〈Now and Then〉を聴く。
音源はカセットテープに残っていたのだがピアノの音が大きくて歌声を分離するのはむずかしいといわれていたのだという。だが技術が進歩し、今回、ジョン・レノンの声だけを抽出することに成功した。それに他の音を被せて曲として作成したとのこと。
その話を聞いたとき、また変なものを作ったのではないか、と眉唾な印象があったのだが、聴いてみたらびっくり。そしてまだ発表されて間もないのに、それに対する解説や批評がネットにあふれているのも驚きである。というより、やはりそれだけの対象となりうる楽曲なのだろう。なぜならそれこそがビートルズだからである。

特に楽曲に合わせて作成された動画が、新旧の動画が入り混じっていて、ところどころワザとスラプスティックっぽく構成されている個所もあったりするけれど、動画の編集技術のすごさに驚かされる。最後に画面がモノクロになり、若き4人の演奏風景が映し出される。お辞儀をして終わり、そして4人は消えてしまい、マイクスタンドとドラムセットだけが残るエンディングが美しくて悲しい。
これはつまりポールからのメッセージなのだ。これでビートルズは終わったのだ、と。

Short Filmのほうには、抽出されたジョンの声のみのトラックが収録されている (7:02〜7:27あたり)。「クリスタル・クリア」 な声。興味のあるかたは是非聴いて欲しい。
もっとも〈Now and Then〉というタイトルは、カーペンターズの最も有名なアルバムと同じであることを連想してしまう。よくある言葉ではあるのかもしれないが、最初にそれを知った時、ちょっと戸惑った。

YouTubeの 「みのミュージック」 というチャンネルの解説によれば〈Now and Then〉のジャケットは文字が斜め右上がりになっているが、その角度は、アルバム《プリーズ・プリーズ・ミー》や、あるいは《赤盤》《青盤》で使われている建物の手すりから顔を出している4人を下から見上げた有名な写真の手すりの角度と同じなのだそうである。

コード進行の解説では 「サッカリン 弾いてみたチャンネル」 が適切で細かくて参考になった。最初のAm→G6という進行は、G6をEm/Gとしている解説もあるが、音としてはまぁ同じであるからどちらでもよいとのこと。
その後、Am→Fmaj7→E→E7→Asus4→AmだがAsus4のときのメロディはd音なので、Aadd9が正解なのでないか、という。そしてオリジナルの歌唱でもジョンはAadd9を弾いているので、sus4を加えたのは現在のポールなのだ、と言い切っているのが素晴らしい。それ以後の転調の解説もわかりやすくて、最後の半端な小節数の収め方もまさにジョン・レノン・マジックというのがよくわかる。ざっと観たなかではここの解説が秀逸だった。

「David Bennett Piano」 でも、同じような分析をしているが (Am→G6もサッカリンと同じ解釈)、ベースとしている影響曲として〈Here, There and Everywhere〉〈Eleanor Rigby〉〈Because〉をあげている。これは多分に現在のポールの嗜好が反映しているともいえるが、もちろんレノン作の〈Because〉が重要である。
〈Because〉のC♯m→D♯m7♭5→G♯7→A→C♯m→A7→B13→D→Ddimの部分のD→Ddimと〈Now and Then〉のD→Dmという進行とは、その効果に共通性があると解く。
ただ、映像でポールはギターではG6を弾いているが、この曲でジョンはピアノを弾いていたのだから、G6の個所は、何となくだがEm/Gのような気がしないでもない。

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The Beatles/Now And Then (Official Music Videoより)

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ビートルズ最後の新曲「Now And Then」解説 (みのミュージックより)


The Beatles/Now And Then (Universal Music・国内盤)
ナウ・アンド・ゼン (生産限定盤)(SHM-CD)




The Beatles/Now and Then (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=Opxhh9Oh3rg

The Beatles/Now and Then ー The Last Beatles Song (Short Film)
https://www.youtube.com/watch?v=APJAQoSCwuA

     *

サッカリン 弾いてみたチャンネル/
【THE BEATLES】NOW AND THEN 徹底解説
【コード進行&歌詞】【隠されまくった秘密】
https://www.youtube.com/watch?v=6gD24IszlQc

みのミュージック/ビートルズ最後の新曲「Now And Then」解説
https://www.youtube.com/watch?v=gXpV8W9dH5Q

David Bennett Piano/
Comparing John’s demo to the final Beatles track
https://www.youtube.com/watch?v=Xk88M4ABo_4
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2023年のあいみょん [音楽]

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あいみょん (SWEET LOVE SHOWER 2023)

「치카 チカ」 というYouTubeチャンネルにあいみょんの動画が上がっていて、数曲だけだが今年のライヴを観ることができる。
ROCK IN JAPAN FES. 2023の動画は2023年8月12日・千葉市蘇我スポーツ公園におけるライヴ。
SWEET LOVE SHOWER 2023は2023年8月25日・山梨県山中湖交流プラザきららにおけるライヴである。

もはやシンガーとしての貫禄が出て来たと思えるあいみょんだが、どちらのライヴもテンションが高く、SWEET LOVE SHOWER 2023の〈マリーゴールド〉で、照明が黄色に変わるところなど、スタッフのセンスも優れていて、心に迫るものがある。

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あいみょん (rockin’on .comより)


あいみょん/ROCK IN JAPAN FES. 2023
貴方解剖純愛歌 ~死ね~/夢追いベンガル/君はロックを聴かない
2023.08.12 千葉市蘇我スポーツ公園
https://www.youtube.com/watch?v=2sqFuih7kp4

あいみょん/SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2023
貴方解剖純愛歌 ~死ね~/愛を伝えたいだとか マリーゴールド
2023年8月25日 山梨県山中湖交流プラザきらら
https://www.youtube.com/watch?v=QZc0n8laXQI
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THE FIRST TAKEのアイナ・ジ・エンド [音楽]

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アイナ・ジ・エンド

金曜日の昼のTokyofmをだらだらと聴く。ヒコロヒーがカヒミ・カリィの〈ハミングがきこえる〉を選曲していたのでちょっと驚く。この人工的ウィスパー・ヴォイスはすごいな。

まぁそれはいいとして、その後の《Jump Up Melodies》をよく聴くのだが (パーソナリティは鈴木おさむとTHE RAMPAGEの陣)、昨日 (2023年10月27日) の放送のゲストに、とたが出演していた。鈴木おさむはゲストからの話の引き出しかたがうまいので、いつも楽しみ。今回も辛いものが好きとか、パクチーの話で盛り上がるところが面白い。で、〈コワレモノ〉なのだがオフィシャルのMVが出たばかり。→a)

それをYouTubeで聴いていたのだが、次の選曲候補にTHE FIRST TAKEがちらつく。
THE FIRST TAKEは一発録りの緊張感がよくわかるからたぶん好評なのだろうが、単に音楽としてだけでなく、その歌手の人間性というか、ときとして意外な表情もわかったりすることがあるので良い企画だと思う。そして、とたのTHE FIRST TAKEは〈紡ぐ〉。歌いながら弾くギターの音がちょっと良い。→b)

それでTHE FIRST TAKEを次々に辿って行った。UruのことはまだアマチュアのYouTuberだった頃から聴いていて、このブログにも何回か書いているが (例えば→2022年05月22日ブログ)、その人気ドラマの主題歌〈それを愛と呼ぶなら〉のオリジナルでなくTHE FIRST TAKEでの歌唱もさすがである。世界の描き方が絶妙だと思う。なお、オリジナル版の編曲は小林武史。→c)
でもTHE FIRST TAKEでは〈振り子〉のほうが余裕もあるし、良いかもしれない。→d)

さて、以上は前フリだったのですが、今、最もシュンなのは9日前にupされたアイナ・ジ・エンドの〈キリエ・憐れみの讃歌〉だろう。最近よく見かけると思っていたら岩井俊二の映画のプロモーションのようで、これも原曲は小林武史の作詞作曲編曲で、このTHE FIRST TAKEでキーボードを弾いているのも小林武史。キリエというのは映画の中の彼女の役名だとのこと。かつての菅野美穂の蓮井朱夏とか、柴咲コウのRUIと同じ。
しかしキリエというネーミングはKyrie eleisonのキリエから来ているわけで、私はすぐにクラシックの宗教曲を連想してしまう。曲の終わりに近く、スネアがボレロのリズムになってしまうのはシャレなのだろうか。→e)
1stアルバムが出たときはあまり良いと思わなかったのだが、それは多分に1stのジャケットデザインがいまひとつ垢抜けなかったから。楽曲と写真のイメージが違う。ということでジャケットデザインは重要です。

このアイナ・ジ・エンドでこの記事を終わりにすればよいのだが (シャレで言っているのではない)、THE FIRST TAKEでこれが最高と思わせられてしまうのは、あの〈ちゅ、多様性〉です。オリジナルMVも良いけどこのTHE FIRST TAKEは衣裳がかつての篠原ともえのようで、多分それを超えてる。→f)
演奏の TAKU INOUE、真部脩一、西浦謙助のそれぞれのリズムの細かさがスリリング。
その後で中川翔子を聴くとあまりにオーソドクスな印象を持ってしまうのだが、でもこれはこれでいかにもなアニソン風味で良いのかも。→g)

オマケとしてTHE FIRST TAKEではないのだが、さいたまスーパーアリーナでのYOASOBIのライヴの〈アイドル〉。原曲は最近リリースされた黄色い表紙のBOOK 3に収録されている。BOOK 1も今、再々発売中。ちっとも限定じゃないじゃん!→h)
やまもとひかるの使っているATELIER Zのベースが目をひく。ピックガードは本来透明なのだが、そこに白い紙を挟んでいるので白いピックガードっぽく見えているのだとのこと。どうでもよい情報でした。


Kyrie/DEBUT (avex trax)
DEBUT(AL+Blu-ray)




あの/猫猫吐吐 (通常盤) (トイズファクトリー)
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YOASOBI/THE BOOK 3 (ソニー・ミュージックレーベルズ)
【Amazon.co.jp限定】THE BOOK 3 (特製バインダー用オリジナルインデックス(「祝福」ver. MVコンセプトアート・アニメーター:米谷聡美 描き下ろし)付)




とた/Oidaki (RAINBOW ENTERTAINMENT)
https://tower.jp/item/5633063/Oidaki
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Uru/それを愛と呼ぶなら (SMAR)
それを愛と呼ぶなら (初回生産限定盤)




a) とた/コワレモノ (official music video)
https://www.youtube.com/watch?v=OfayMTYjTeY

b) とた/紡ぐ THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=QU-Vq9NTASc

c) Uru/それを愛と呼ぶなら THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=zVOqiEQJj0w

d) Uru/振り子 THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=ue4irL_g-UE

e) Kyrie (アイナ・ジ・エンド)/
キリエ・憐れみの讃歌 THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=qLHoHf_WTVk

f) あの/ちゅ、多様性 THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=r5nIHDZw9gI

g) 中川翔子/空色デイズ THE FIRST TAKE
https://www.youtube.com/watch?v=o8Z2cDFVVBc

h) YOASOBI/アイドル
YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”
さいたまスーパーアリーナ 2023.6.4
https://www.youtube.com/watch?v=RzXTe-QfWTw
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マイルス・デイヴィス《the complete live at the plugged nickel 1965》 [音楽]

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マイルス・デイヴィスのプラグド・ニッケルは通常流通盤としてはvol.1とvol.2の2枚組だが、この2日間のライヴを完全収録したセットがあり、1992年に日本製造のセットが発売され、その後、少し収録時間を多くしたアメリカ盤がリリースされたのだというが、それは20世紀末のことであった。今回、そのコンプリート盤がハイブリッドSACDとなって再発されたのである。この完全盤には12月22日の3セットと23日の4セット、計7セットが収録されている。収録時間はアメリカ盤と同じなので、完璧な完全盤としての日本盤発売は初めてということになる。
だが、メディアとしてはずっと再発されなかったのだが、音声のみであるけれどYouTubeで聴くことが可能だ。

プラグド・ニッケルでのライヴが録音されたのは1965年12月22日と23日だが、この年のマイルスのレコーディングはセッショングラフィによれば1月20日〜22日のColumbia CL2350のアルバム《E.S.P.》のコロムビア・スタジオにおけるレコーディングと12月のプラグド・ニッケルしかない。
プラグド・ニッケル後のレコーディングは翌年の1966年5月21日のポートランド・ステート・カレッジ・ジャズ・フェスティヴァルのライヴであり、スタジオ・セッションは10月24日〜25日のアルバム《マイルス・スマイルズ》セッションとなる。つまりプラグド・ニッケルは《E.S.P.》と《マイルス・スマイルズ》の間のライヴということである。

タワーレコードの紹介文によれば、

 当時、周辺のジャズではフリー・ジャズが新しい潮流として台頭してい
 た頃ゆえ、マイルス以外のバンドの若手メンバーたちは、マイルスのソ
 ロが終わると、ステージ上でフリー・ジャズ寄りの演奏を展開し始め、
 再びマイルスが吹き始めるとまた元通りの演奏に戻るといった、緊張感
 の高いライヴ・パフォーマンスが聴ける全39曲の究極のドキュメントに
 なっている。

とあるが、これは他の批評記事でも読んだことがあるニュアンスである。果たしてそうなのだろうか。
ディスコグラフィを見ると1959年の《Kind of Blue》を挟むようにして《Miles Ahead》(1957),《Porgy and Bess》(1959),《Sketches of Spain》(1960),《Quiet Nights》(1963) というギル・エヴァンスとの4部作があるが、これらはほぼオーケストレーションを基盤としたアルバムであり、コルトレーン等と別れた後のスモール・グループとしての出発は、1963年の《Seven Steps to Heaven》あたりからと考えてよい。
wikiには次のように記述がある。

 Following auditions, he found his new band in tenor saxophonist
 George Coleman, bassist Ron Carter, pianist Victor Feldman,
 and drummer Frank Butler. By May 1963, Feldman and Butler
 were replaced by 23-year-old pianist Herbie Hancock and 17-
 year-old drummer Tony Williams who made Davis “excited all
 over again”.

つまりヴィクター・フェルドマンとフランク・バトラーがハービー・ハンコックとトニー・ウィリアムスに変わったときがいわゆる黄金のクインテットへの布石である。マイルスはたぶんテナー奏者に不満を持っていた。そしてテナーがコールマンからサム・リヴァースにかわり、さらにウェイン・ショーターとなったときがこのクインテットの完成形となる。
そしてこのクインテットにおけるスタジオ・レコーディングのアルバムが《E.S.P.》(1965),《Miles Smiles》(1967),《Sorcerer[》(1967),《Nefertiti[》(1968) という4部作だが、このアルバム群のコンセプトは表面的にはウェイン・ショーターが握っている感じがある (もちろんあくまで表面的であって、それを 「庇を貸して母屋を取られる」 と書いていた評論家がいたような記憶がある)。

さて、先に述べたようにプラグド・ニッケルは《E.S.P.》後のライヴであるが、まだバンドとしての一貫性は固まっておらずやや流動的というふうに見ることができる。「フリー・ジャズ寄りの演奏」 といわれればそうなのかもしれないが、たとえばショーターのソロも、音を外してフリー風にというよりは、まだ試行錯誤の最中というように私には聞こえる。これはその後の電化マイルスのはじめの頃のキーボードの音がまだこなれていない、と以前書いたことに通じる初期のチャレンジのごこちなさといってよいのかもしれない。
もっとも山下洋輔が言っていたように、フリーの演奏は失敗したらもう一度やり直せばよい、という方法論に従うのならショーターのアプローチは確かにフリーっぽいのかもしれない。

したがって、以前のストックホルム1967年のライヴの記事に書いたように (→2023年03月05日ブログ)、このグループの最もすぐれたライヴ演奏は電化マイルスになる直前の1967年であり、つまりメディアとなって確立されているもので言うのならばThe Bootleg Series vol.1の《Live in Europe》であると思うのだ。

でも、それではこの《プラグド・ニッケル》の立場がないのかといえばそんなことはなくて、むしろ張り詰めた緊張感の中でのプレイの記録という点でこの全セットを聴くのには重要な意義がある。特に速度を変幻自在にコントロールしてゆくトニー・ウィリアムスのドラミングが素晴らしい。このとき、彼は20歳なのである。
ただ、マイルスがテーマとソロをごく少なめに吹いて、マイルスがいなくなると他の4人がフリーになって勝手なことをやり出すというようなインプレッションを読んだこともあるが、それはちょっと違うのではないかと思う。圧倒的にリーダーシップをとっているのはあきらかにマイルスであり、他の4人はまだ試行錯誤というのが1965年時点での状況というふうに考えたほうがよいと思う。
前述の1967年のストックホルムのセッションでは、このグループはもっとずっと完成していて次のエレクトリックの直前における爛熟の美を醸し出しているともいえるが、マイルスの圧倒的なリーダーシップさは終始変化していないように思える。


miles davis/the complete live at the plugged nickel 1965
(Sony Music Labels)
https://tower.jp/item/6160059
(タワーレコードのみの限定販売)


Miles Davis/December 22, 1965 Plugged Nickel Club, Chicago (3rd set)
https://www.youtube.com/watch?v=_EAwsUdB7KE

Miles Davis/December 23, 1965 Plugged Nickel Club, Chicago (3rd set)
https://www.youtube.com/watch?v=T3NxhgT3EqE
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関ジャム〈誰かの事を想って書いた曲特集〉 [音楽]

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さかいゆう

TV朝日・2023年10月15日の《関ジャム 完全燃SHOW》は〈誰かの事を想って書いた曲特集〉で、ゲストは本間昭光、はっとり (マカロニえんぴつ)、さかいゆうの3人。

槇原敬之の〈もう恋なんてしない〉は本間昭光が失恋したときのことを、槇原が聞き取ってアレンジした曲だったというのにもうびっくり。というか、それをあのような曲に仕上げる槇原の才能をあらためて確認する。
タイマーズがモンキーズの〈Daydream Believer〉をカヴァーしたときの歌詞は、清志郎が亡くなった母に宛てて書いたものだったという解説があったがそれは知らなかった。つまり彼女というのは母親だったのであって、それを知るとこの歌詞は余計にせつない。

そしてはっとりが姉の結婚式のために書いたという〈キスをしよう〉をギター弾き語りで披露。これはすごいよね。そんな結婚式があったのなら理想だ。お姉さんはぶっきらぼうに 「よかったよ」 と言っただけだったというがそれはテレでしかないはず。

さかいゆうは山崎まさよしの〈One more time, One more chance〉の歌詞には死生観が漂うみたいなことを語っていたが、まさにその通り。そうそう、この前の歌謡スクランブルの記事で私は 「日本のシンガーソングライターといえば、私の好みではダントツで草野マサムネと槇原敬之」 と書いたが、もうひとり、山崎まさよしを忘れていた。

そしてさかいは番組の最後に、若くして事故で亡くなってしまった友人に向けて書いたという〈君と僕の挽歌〉を歌ったが、そうした事情を知ってから聴くと歌詞の中の 「調子どうですか?」 というのは向こうにいる友人に問いかけている言葉、そして 「こちらはツライこともありますが」 という 「こちら」 はこの世にいる自分のことで、あまりのリアリティと切実さに心が痛む。というかこれはあくまで私事に過ぎないのだが、そのおそろしいまでの喪失感に同期する記憶がよみがえる。
さかいはグランドピアノの弾き語りでこの曲を歌ったが、途中のサビの部分で一個所、不思議なコードがあった。意図して弾いたのかミスタッチなのかがよくわからないが (いや、ミスタッチというのはありえないな)、その突き刺さるようなテンションが強く印象に残った。

さかいゆうのYouTubeチャンネルには数時間前にこの〈君と僕の挽歌〉がupされている。番組内での歌唱とは異なるが、あらかじめ用意してあったのだろう。YouTubeチャンネルのリストには、かまやつひろしの〈ゴロワーズを吸ったことがあるかい〉のカヴァーもupされていてちょっと楽しめる。


Hattori_KanJam_231016.jpg
左から 本間昭光、はっとり (マカロニえんぴつ)、さかいゆう
(はっとりinstagramより)


さかいゆう/君と僕の挽歌 (Studio Live version)
https://www.youtube.com/watch?v=gcCByMQ7Uyo

槇原敬之/もう恋なんてしない (MV)
https://www.youtube.com/watch?v=naz0-szzYXk

THE TIMERS/デイ・ドリーム・ビリーバー
https://www.youtube.com/watch?v=HSoKZOg3QEw

山崎まさよし/One more time, One more chance
https://www.youtube.com/watch?v=BqFftJDXii0
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歌謡スクランブル — 涙のラブソングと森高千里作品集 [音楽]

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西山毅 Official Channel (西山毅と奥野敦子)

10月6日のNHKFMで《歌謡スクランブル》を聴く。
この日のテーマは 「涙のラブソング(5)▽森高千里作品集」 とのこと。FMはいつもTokyofmに固定なのだが、この時間はchatGPT云々とかいう番組がつまらないのでNHKFMに切り替えることにしている。全部を聴いていたわけでなく切れ切れなのだけれど。
この番組、アナウンサー・深沢彩子の落ち着いた声が素敵だ。アナウンスだけでなく番組の構成もしているとのこと。

前半の 「涙のラブソング」 は涙にまつわる曲を集めている。「艶姿ナミダ娘」(小泉今日子) 「なみだ涙のカフェテラス」(ジューシィ・フルーツ) 「悲しくてやりきれない」(松本伊代) 「涙がキラリ☆」(スピッツ) 「祈り~涙の軌道」(Mr.Children) 「涙のイエスタデー」(GARNET CROW) 「この涙 星になれ」(ZARD) 「ハッピーエンド」(back number) 「初恋が泣いている」(あいみょん) 「half of me」(平井堅) 「Farewell」(Superfly) といった選曲。このなかで 「悲しくてやりきれない」 が松本伊代というのがナイスな選択。
KYON2もガネクロも懐かしいけど、たまにスピッツを聴くと良いなぁといつも思う。日本のシンガーソングライターといえば、私の好みではダントツで草野マサムネと槇原敬之です。

でもこの中で異彩を放っていたのがジューシィの 「なみだ涙のカフェテラス」 (近田春夫・作詞、柴矢俊彦・作曲) でした。ジューシィといえば 「ジェニーはご機嫌ななめ」 ばかりが有名だけれど、この 「なみだ涙……」 はコーラスやバックの音など、あちこちにワザがあるし、何よりもサビの部分で涙ということばが8回もヴァリエーションをつけて繰り返されるのが秀逸。この音作りはGSのパロディでもあり、いわゆるテクノ歌謡といってもよいけれど近田春夫はそんなストレートな解釈だけではとらえきれない。

後半の森高千里は 「17才」 「雨」 「私がオバさんになっても」 「渡良瀬橋」 「ハエ男」 「風に吹かれて」 「二人は恋人」 「気分爽快」 という選曲だったらしいのだが、このあたりはラジオから離れていたので聴いて無くて 「二人は恋人」 と 「気分爽快」 だけ聴きました (知ってる曲ばっかりだし、まあいいか)。
森高は 「17才」 とか 「私がオバさんになっても」 などが出世作だと思うんだけれど、もっとずっと後期の作品のほうが私としてはしっくりと来るので、アルバムでいうと《TAIYO》《DO THE BEST》あたり。《TAIYO》に収録されている 「SO BLUE」 が私の好みのベストトラックです。この《TAIYO》では森高が全曲ドラムを叩いているのにも惹かれる。ポンタさんが森高のドラミングを褒めていたのを思い出す。
「二人は恋人」 も 「気分爽快」 も好きな曲なのだけれど、もともとシングル曲で、アルバムではベスト盤の《DO THE BEST》にしか収録されていない。《DO THE BEST》をフェイヴァリットにあげたのはそれが理由です。
そして森高のPVなら上記の 「SO BLUE」 と、以前にもリンクしたけれどカーネーションとの 「夜の煙突」、これっきゃない。

それで西山毅 Official Channel に奥野敦子の回があった。ごく最近の奥野敦子ですが、ピンクのブギーで西山と合奏しています。トリッキーなイリアのソロをすぐに弾いてしまえる西山毅はやっぱりすごいです。ギターを弾き始めの頃の奥野が、ELPをガットギターでコピーしていたという話題が面白い (YouTubeの7’00”あたりから。2人での演奏は19’12”から)。
そういえば半年くらい前、某楽器店にイリア・ヴァージョンのピンクのブギーがぶら下がっていた。もちろん新品。デッドストックなのだろうか。でもすぐに売れてしまったのです。残念!(調べたら2017年にも再生産があったとのこと。それなら在庫がある可能性もあるよね)


西山毅 Official Channel
昭和の名ギターソロ探訪『ジェニーはご機嫌ななめ』
https://www.youtube.com/watch?v=xr53eit0ycI

ジューシィ・フルーツ/なみだ涙のカフェテラス
https://www.youtube.com/watch?v=D21i148ZoLQ

森高千里/SO BLUE (PV)
https://www.youtube.com/watch?v=yQyyWIf58kI

森高千里/二人は恋人 (PV/Color)
https://www.youtube.com/watch?v=S3Lpi9Ev9FI

森高千里 with CARNATION/夜の煙突 (PV)
https://www.youtube.com/watch?v=b9ZMzQ3-ERk

《参考》
Chisato Moritaka DVD Collection No.1〜15
(LD or VHSで発売されていた映像の再発盤)
以降にリリースされたライヴ映像作品 (〜1999年まで):

◆森高ランド・ツアー
  1990.03.03 森高ランド・ツアー NHKホール
◆1990年の森高千里
  1990.08.28 森高ランド・ツアー 浜松市民会館
  1990.11.29 森高ランド・ツアー 宇都宮市文化会館
◆古今東西~鬼が出るか蛇がでるかツアー’91完全版
  1991.03.03 古今東西~鬼が出るか蛇がでるかツアー 中野サンプラザ
◆ザ・森高
  1991.08.22 ザ・森高ツアー 渋谷公会堂
◆CHISATO MORITAKA CONCERT TOURʻ92 LIVE ROCK ALIVE
  1992.09.30 LIVE ROCK ALIVE 中野サンプラザ
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