SSブログ

鈴木茂とはっぴいえんど — ギターマガジン12月号 [音楽]

SuzukiShigeru_2021_211127.jpg
鈴木茂 (BARKSより)

「鈴木茂とはっぴいえんど」 というのが『ギターマガジン』12月号の特集タイトルなのだが、ギター雑誌という性格からすれば、大瀧詠一でも細野晴臣でもなく、まず鈴木茂という選択なのだろう。
ざっと読んでみて強く印象に残ったのは、鈴木はバンドの中で最年少で、1stアルバム《はっぴいえんど》を録音したとき、彼はまだ18歳だったのだという。影響を受けたのがバッファロー・スプリングフィールドとかニール・ヤングとか、もちろんその時代はそういうのがトレンドだったのかもしれないが、18歳の音にしてはとてもシブい。逆にいえば、はっぴいえんどというグループは若いメンバーでありながらすでに一種の老成した思考を同時に備えていたのではないかとも考えられる。

その1stアルバム (通称・ゆでめん) についての各曲解説があるのだが、〈しんしんしん〉に関しては 「これはデイヴ・メイスンだね」 という発言がある。アルバム《Alone Together》(1970) に収録されている〈Only You Know and I Know〉が大好きだったとも言っている (といっても直接の影響というわけではない。なぜなら《Alone Together》のリリースは1970年7月、〈しんしんしん〉の録音は1970年4月だからだ。あくまでデイヴ・メイスンのプレイ全体を指すと考えてよいだろう)。
そして〈あやか市の動物園〉はバッファロー・スプリングフィールドの〈Uno Mundo〉だという。そう言われて聴けばなるほどと思うが、何もなしに特定することは不可能だ。それだけ鈴木自身の中で消化されたうえで出てきたプレイだというふうに思える。

〈12月の雨の日〉は、鈴木茂がはっぴいえんどに加入するに際しての運命的な曲であり、過去の日本のロックにおけるエピソードの中でもはや伝説に近い。こんな曲がある、と細野晴臣が披露した〈12月の雨の日〉に対して、鈴木は 「1発であのイントロ・フレーズ」 を弾いてみせたのだという。それがきっかけとなって、彼ははっぴいえんどのギタリストになったのである。
その鈴木のフレーズの解釈についても言及があり、作曲者の大瀧詠一は 「最初のコードがAmなのにキーがトニックのDだってよくわかったなと。最初がAmだと普通はAmのキーで弾いちゃうじゃん。でも茂のギターは、Dに行くことをガイドしている」 と述懐したのだという。

だが〈かくれんぼ〉に関して、鈴木はジュディ・コリンズのアルバム《Who Knows Where The Time Goes》の〈My Father〉の影響があるかもしれないと述べているが、ジュディ・コリンズのことを私はよく知らないのだけれど、音に関しての影響というのなら〈My Father〉ではなく同アルバムの中では〈Pretty Polly〉の音か、あるいは〈First Boy I Loved〉の最後のほうのギターワークなのではないかという気がする。

また〈飛べない空〉はほとんど細野晴臣単独で作られた曲であるが、鈴木は 「これはプロコル・ハルムっぽい」 「サイケデリック」 などと述べている。プロコル・ハルムはそんなにハマッたわけではないが鈴木も好きで、2ndの《Shine On Brightly》を涙しながら聴いていたのだという。

1stアルバムは音もくぐもっているし全体のトーンがダークだけれど、このグループの表情が最も読み取れるアルバムのように感じる。2nd、3rdアルバムについての解説もあるのだが、それは同誌をご覧ください。

ギターなどの機材に関する話題はいつもながらいかにも『ギターマガジン』的で面白い。
《ゆでめん》で使用したギターはヤマハ渋谷店からレンタルした1968年から70年頃のストラトだったのだという。といってもオリジナルそのままではなく、ピックアップがP-90を2本というかたちに付け替えられていたギターであったという。当然ピックガードも対応したものに変更されているので、ストラトでありながら音のキャラクターはかなり異なるはずだ。その時代にしてすでにヤマハ渋谷店はマニアックである。

また、鈴木が最初に買ったギターの紹介もあって、それはエルクのElk Deluxeというモデルであったという。Elk Deluxeはジャガーのコピー・モデルであるが、ヘッドのかたちが異なっていて、ストラトだと丸くカーブした部分が逆に尖っているのが特徴的だ。
エルクというブランド名は久しぶりに聞いたような気がするが、その当時の日本製ギターのメインストリームはグヤトーンやテスコのはずで、エルク、ハニー、ファーストマンといったブランドはどちらかといえばマイナーだったのではないだろうか。以前出されていたビザールギターを扱ったムックにもそのようなニュアンスで掲載されていたような気がするが記憶が曖昧である。
それにエルクはビザールではなく正統派なのだが、鈴木はVOXのティアドロップ型シェイプに憧れ、このエルクを丸みを帯びたかたちに切ってしまったのだとのことだ。どのように切ってもティアドロップにはならないのに……。

実はElk Deluxeを私は知っていて、まだ子どもの頃だが、友人のかなり年齢の離れた従兄が所有していたのを見せてもらったことがある。やや無骨だが非常に良い材を使っていて緻密な仕上げの楽器だったように憶えている。たぶんその当時の楽器としては上位クラスの品位のあるギターだったと想像できる。たとえばヤマハのSG-3のような高級モデルと較べるのは無理だが、ジャガー・コピーとしては未完成かもしれないがその時代の熱気を感じ取ることができるように思う。
この雑誌には大瀧詠一が使用したElk Customというかなり大きなセパレートアンプの写真も掲載されている。Elkというメーカーはあまり知られていないように思えるが、1978年にミュージックランドという社名になり主に楽器販売業となったが、ミュージックランドKEYとして現在も存続している会社である。

プロコル・ハルムはSolid Recordsによる《Regal Zonophone Years》が発売されたが、まだ聴いていないし簡単にかたづけられる内容でもないのであらためて書きたいと思う。松任谷由実もプロコル・ハルムからの影響について語っていたが、特に最大のヒット曲〈A Whiter Shade of Pale〉は今も色褪せない。


ギター・マガジン2021年12月号
(リットーミュージック)
ギター・マガジン2021年12月号 (特集:鈴木茂とはっぴいえんど)




はっぴいえんど/はっぴいえんど (ポニーキャニオン)
はっぴいえんど




はっぴいえんど/12月の雨の日
オリジナル
https://www.youtube.com/watch?v=SWEsylPqImI

はっぴいえんど/かくれんぼ
https://www.youtube.com/watch?v=6EgYBEb-0CE

はっぴいえんど/12月の雨の日
中津川フォークジャンボリーlive 1970
https://www.youtube.com/watch?v=YA96KLuSWU8

Procol Harum/A Whiter Shade of Pale
https://www.youtube.com/watch?v=CJxpKlTID2Q
nice!(79)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

カヴァーについて [音楽]

hikokigumo_jk_211120.jpg

カヴァーというのは他の歌手の曲を歌うことだが、モノマネでない限りその歌手の個性が出て原曲とは違う印象を受けるので、その曲の本来の持ち味と意外性とがミックスされて、いつも 「フーン」 というふうにして聞いてしまう。「フーン」 じゃなくて 「エッ?」 だともっと好ましい。

モーニング娘。の曲の中で私が一番好きなのは、以前にも書いたのだけれど〈Memory 青春の光〉で、極端にいえばこの曲にモームスとつんく♂のすべてが籠められているというふうに私は感じている。その〈Memory 青春の光〉を松浦亜弥と後藤真希がデュエットしている動画があって、これはいわばカヴァーなのだが、なぜなら松浦亜弥はモーニング娘。に在籍したことはなく、後藤真希が加入したのは同曲がリリースされたのよりも後なので、つまり同じハロプロの曲ではあるのだがカヴァーといってよい。

でもそのうちに単なるカヴァーということでどんどん検索して行くと、いつの間にかユーミンのカヴァーを聴き較べていることに自分で気がつく。どうしてそのような思考経路になってしまうのかは省略するが、サーチするのってそんなものなんだと思う。

松浦亜弥の〈ひこうき雲〉は最も若い時の歌唱が私にはしっくりくる。もっと後の時期のほうが歌はうまいのだろうが、少しつたないほうがふさわしいような気がして、それは〈ひこうき雲〉という曲自体についてよく考えると (いや、よく考えなくても) 実はかなり重い曲で、だからって重い曲を重く歌わないほうが良いと思うのだ。

柴田淳はよくカヴァーの女王と呼ばれたりするが〈卒業写真〉はそうしたカヴァー曲の中でベストではないかもしれない。ではなにがベストかと聞かれてもそれはわからない。人によって感じかたは違うし、そしてベストであること、100%であることより、少し低いクォリティのほうがリラックスして聞けるということがあるような気がするのである。その少し緩い、こころのゆらぎのようなものをしばじゅんの歌はいつも持っている。

そしてSugar Soulの〈あの日にかえりたい〉は〈Those Days〉という英語詞になっているが、このシングルを私は飽きるほど聴いた。飽きなかったけれど (その頃のシングルだと、あと、ブリグリの《Bye Bye Mr.Mug》も聴いていた。ブリグリは結局、最初のシングル2枚が一番好き。ギターの音は割れてなくちゃ)。
Sugar Soulのアルバム《on》は宇多田ヒカルのデビューアルバム《First Love》と同時期で、宇多田の前で《on》はかすんでしまったけれど、私にとっては《First Love〉と《on》は対等だった。〈on〉はCDだけでなくアナログ盤も2セット持っている (両方とも中古盤だけれど)。

こうしてみると3曲とも荒井由実時代の作品であり、〈ひこうき雲〉は1stアルバムの1曲目、〈卒業写真〉は3rdアルバムの2曲目、そして〈あの日にかえりたい〉は3rdアルバムの後にリリースされたシングルである。だから荒井由実時代のボックスセットさえあれば良いのかもしれないが、それは暴論だと思うけれど、でも荒井由実時代は特別なのだという感じもする。

アルバム《ひこうき雲》はCDになってからも何度も再発されているのだと思うが、私の持っているCDは銀色でなく金色である。音が違うのかどうかはよくわからない。


Yumi Arai 1972-1976 (EMIミュージック・ジャパン)
Yumi Arai 1972-1976




松浦亜弥/ひこうき雲~LOVE涙色
https://www.youtube.com/watch?v=MLruTh9QkkQ

柴田淳/卒業写真
https://www.youtube.com/watch?v=Xz2nPvNPzAI

Sugar Soul/Those Days
https://www.youtube.com/watch?v=nOjUTIaOmTU

あやごま/Memory 青春の光
https://www.youtube.com/watch?v=mOGE5yOEiWc

the brilliant green/Bye Bye Mr.Mug
https://www.nicovideo.jp/watch/sm9164633
nice!(79)  コメント(16) 
共通テーマ:音楽

コシミハル《秘密の旅》 [音楽]

KoshiMiharu_211113.jpg
コシミハル

金曜日、TokyofmのALL-TIME BESTを聴いていたら、いきなりニルヴァーナの〈Smells Like Teen Spirit〉がかかって《NEVERMIND》発売から30周年で記念アルバムが出たのだそう。それはいいとして、番組パーソナリティのLOVEちゃんは中学生の頃、コピーバンドをやっていてこのニルヴァーナもコピーしたのだそう。なつかしい〜、って言ってたけど、やぱフツーの人とはちょっと違うよね。
と、ニルヴァーナに軽くふれておいて。

コシミハルのアルバム《秘密の旅》は6年ぶりのリリースとのことである。
細野晴臣が見い出した何人ものミュージシャンの中で、特異なのがコシミハルと戸川純であり、まさに細野の慧眼ここにありとあらためて思う (もっともスターボーという黒歴史もありますけど)。

コシミハルは1978年にデビューしたシンガーソングライターであったが、最初の頃はアイドル的な扱いでしかなく、NHKの歌番組《レッツゴーヤング》のサンデーズのメンバーとして出演していた。同番組は1974年から1986年まで放送されていたとのことだが、サンデーズというのは若手歌手を適宜チョイスしてグループとして位置づけたNHKの番組特有のアイデアだったといえる。
コシミハル (当時は越美晴) は1979年にサンデーズのメンバーとなったが、翌1980年4月に加わったのが新人歌手の松田聖子である。
下記にリンクした動画は同番組の1979年4月15日放送分である。オープニングで登場してくるピンクのジャケットの女性3人のセンターが越美晴、左が倉田まり子、右が佐藤恵利 (だと思う。すみません、よくわからなくて)。この動画の28’25”あたりから越美晴の〈きまぐれハイウェイ〉が収録されているが、この当時のアイドル全盛時代にはやや異質に映る。

この頃の無理矢理アイドル時代がコシミハルにとってどうだったのかはよくわからないが、細野晴臣にプロデュースされて以後のコシミハルは、本来の自分のポリシーを獲得できたのか、それからはほぼ同じ路線である。

《秘密の旅》は素晴らしい内容なのであるが、動画サイトではほとんど聴くことができない。タワーレコードの当該ページで各曲45秒だけ聴くことができる。

細野晴臣とのコラボ動画があったのでそれもリンクしておくことにする。
そして細野晴臣とのユニット swing slow の1996年にリリースされたユニット名をそのまま冠したアルバム《swing slow》が今年の12月にリミックスされて発売されるということだ。


コシミハル/秘密の旅 (BETTER DAYS)
秘密の旅




コシミハル/秘密の旅
https://tower.jp/item/5213886/

細野晴臣 with コシミハル/The Song Is Ended
live 2012.06.05
https://www.youtube.com/watch?v=Il0a99TgqIU

コシミハル/You do something to me
Madame Crooner (2013)
https://www.youtube.com/watch?v=FpWYBatd8DA

レッツゴーヤング 1979.04.15
きまぐれハイウェイ 28’25”〜
https://www.bilibili.com/video/BV1TW41147Jf
nice!(80)  コメント(8) 
共通テーマ:音楽

ジョン・コルトレーン《A Love Supreme: Live in Seattle》 [音楽]

JohnColtrane_Liveinseattle_211109_jk.jpg

挾間美帆のニューアルバム《Imaginary Visions》のプロモーションを見ていて、ビッグバンドのスリリングさを思い出した。といっても穐吉敏子のようなストレート・ジャズではなくて、確かにジャズ・イディオムは存在するのだが、ときに現代音楽風に聞こえたりするのは、彼女がもともとクラシック畑だったことにも拠るのだと感じる。それにしてもデンマーク・ラジオ・ビッグバンドが挾間の曲を評して 「こういう難しい曲がやりたい」 と言ったとのことだが、かなりトガッているなぁと思うし頼もしい (現在、挾間は当ビック・バンドの首席指揮者である)。それでいて挾間の作品は決して難解ではなく、健康的で直裁な明るさを持っている。

ただ、この時期にとりあえず話題にしなければならないのはジョン・コルトレーンの《A Love Supreme: Live in Seattle》だろう。1965年10月2日にシアトルのペントハウスにおけるのライヴ演奏の録音である (念のために書いておくと《Live in Seattle》というタイトルの既発売のアルバムは同年9月30日の同じペントハウスの録音であるが〈A Love Supreme〉はもちろん演奏されていない)。
だが、今回のCDジャケットの惹句には 「ジャズの聖典を巡る、音楽史を揺るがす大発見!」 と記されているがそれは大げさ過ぎるというものだ。コルトレーンのライヴというと、どうしても〈My Favorite Things〉のテーマばかりが思い出されてしまうので〈至上の愛〉のライヴ音源というのは珍しいのかもしれないが、このシアトルの録音より以前の7月26日にアンティーブ・ジャズ・フェスティヴァルで全曲が演奏されているし、それはアルバム《A Love Supreme: The Complete Masters》にセッション録音とともに収録されている。
それにマッコイ・タイナーによれば、1964年12月の〈A Love Supreme〉のオリジナルのセッション録音本番より前に、テスト演奏をライヴで10回くらいは行っているとのことなのだ。そしてアンティーブやシアトル以外にもライヴで演奏している可能性も当然あるから、そのうちそうした演奏録音が出現してくる可能性もある。

このライヴの特徴としてPart 1のAcknowledgementが21分53秒もあることで、パーソネルはセッション録音と同様のコルトレーン・クァルテットにプラスしてファラオ・サンダース、カルロス・ワードの2本のリード、それにドナルド・ギャレットのベースが加わったセプテットになっている。
コルトレーンがフリーフォームへの傾斜を顕著にしてゆく鍵としてファラオ・サンダースとラシッド・アリの存在があるように思えるのだが、ファラオ・サンダースは1965年6月28日の《Ascension》に参加した後、9月〜10月のペントハウスでのライヴで演奏している。オリジナルのクァルテットによる《A Love Supreme》とひと味異なる所以である。
そしてラシッド・アリは1965年11月23日の《Meditations》録音にエルヴィン・ジョーンズとのダブルドラムとして参加し、翌1966年5月28日の《Live at the Village Vanguard Again!》時にはエルヴィンの抜けた後のドラマーというかたちになっている。同時にピアノはアリス・コルトレーンで、このファラオ・サンダース、アリス・コルトレーン、ラシッド・アリが晩年のコルトレーンの最も過激なフリーを支えた人たちである。

《A Love Supreme: Live in Seattle》の録音はアンペックスのデッキを使用していて、テープはスコッチなどではなく量販店のオリジナルテープで (廉価品だろう)、7インチリールに4トラック、つまり往復で録音されていたのだという。とするとおそらくテープスピードは38cmではなく19cm/sのはずだ。正式のレコーディングのようなセッティングではないので、音が小さいとか遠いとか不満をいうのは無理である。だがテープの状態が非常に良好だったとのことで、それでインパルス盤として正式にリリースされるきっかけになったのだと思われる。

メディアは輸入盤はCD、国内盤はSHM-CDであるが詳細な翻訳解説が付いているので国内盤がオススメである。長3度で転調を繰り返していくいわゆるコルトレーン・チェンジの解説から始まって大変に詳しい内容で読ませる。LPは2枚組だが、レコードショップではオリジナルの《A Love Supreme》のLPも一緒に販売されているけれど現在市場に流通しているのはEU盤である。ところがこの《Live in Seattle》はUSインパルス盤である。US盤にこだわるのなら買いである。

尚、この《Live in Seattle》はYouTubeのJohn Coltraneサイトで公開されている。

JohnColtrane_211109.jpg
John Coltrane

John Coltrane/A Love Supreme: Live in Seattle
(universal music)
至上の愛~ライヴ・イン・シアトル (SHM-CD)(特典:なし)




YouTube: John Coltrane
https://www.youtube.com/channel/UCGiKlUaxFFNXkEYIW6mfbBQ

John Coltrane/A Love Supreme, Pt. I: Acknowledgement
https://www.youtube.com/watch?v=28FDmhoAV0M

挾間美帆 BLUE NOTE TOKYO Interview & Live Streaming 2020
https://www.youtube.com/watch?v=trhCfFJyUl4

挾間美帆 イマジナリー・ヴィジョンズ
https://www.youtube.com/watch?v=26PJuYVikKc
nice!(70)  コメント(8) 
共通テーマ:音楽

金原瑞人『翻訳エクササイズ』 [本]

TetsuyaWatari_kanehara_211107.jpg

固有名詞をどう読むか、について金原瑞人が大変示唆に富んだ解説をしていた。研究社から出された『翻訳エクササイズ』という翻訳入門書であるが、翻訳に関する誤訳とか失敗談のエッセイといった内容で気軽に楽しめる。その中からちょっとだけ抽出。

まず固有名詞をどのようにカタカナ表記するかという問題なのだが、Franklin Rooseveltは 「フランクリン・ルーズベルト」 では失格、とのこと。現在、高校の教科書や歴史関係の本ではほとんどが 「フランクリン・ローズベルト」 になっているのにもかかわらず、大手新聞の表記は 「ルーズベルト」 のまま。そろそろ正しい表記に、と書かれていて、ええっ、そうなの? と驚いてしまった。でもwikiでは 「ルーズベルト」 になっている。 「ローズベルト」 「ローズヴェルト」 とも表記するという注があるが。
「oo」 というつながりはウーと発音するという刷り込みがあるのだが、でも人名は必ずしもそうならないということなのだろうか。シンセサイザー・メーカーのmoogが、昔はムーグ、最近はモーグというのに似ている。ネットをサーチしてみると、色々な意見があるらしい。

ほとんどの固有名詞は現地の発音に従うというセオリーで、英語圏では 「チャールズ・ボイヤー」 と発音されているフランスの俳優は日本では 「シャルル・ボワイエ」 と表記されている。ところがイタリアの 「ベニス」 もイタリア語発音に従えば 「ヴェネチア」 なのに、シェイクスピアの戯曲はまだ 「ベニスの商人」 のままなのはどうなの? という不統一なことへの指摘。最近の翻訳ではトーマス・マンの 「ベニスに死す」 を 「ヴェネチアに死す」 というタイトルにしているのがあるとのこと。
ただ、 「ベニスの商人」 や 「ベニスに死す」 は日本ではひとつのかたまりの言葉として認識され、あまりに使い慣れているから転換するのはむずかしいのかもしれないと思ってしまう。さらに細かいことを言えば、金原は 「ヴェネチア」 と表記しているが (p.078)、光文社古典新訳文庫のタイトルは 「ヴェネツィアに死す」 とのことだし (p.080)。 「ヴェネチア」 「ヴェネツィア」 「ヴェネッツィア」 などと考えているとさらに悩ましい。「コロンブス」 や 「アンデルセン」 は今さら現地発音には直せないよね (p.080) とも書かれているが 「ベニス」 もそれに近いんじゃないかと思う。

発音の間違いとは外れるが面白い間違いに 「聖林」 があるという。外国の地名や人名を漢字で表記していた頃の時代の産物で 「聖林」 → 「ハリウッド」 なのだが、これはHollywoodをHolywoodと読み間違えたのではないか、という。holy→聖なる、なのだがholly→柊なので 「聖林」 でなく 「柊林」 とするべきだったのだとのこと。これにもびっくり。だっていまだに 「聖林」 って表記、見かけますよね。

このように漢字で地名や人名表記する方法論は中国にもあって、しかも日本と中国で同一だったり少し違ったりするのだそうだが、倫敦とか希臘とか、聖林と同様に今でも時々見かけるのは、わざとそこから醸し出される古風な雰囲気を利用したいからだろう。でも一番の傑作は 「剣橋」 で、金原も 「いったい誰が考えたんでしょう」 と書いている。水野晴郎の 「007 危機一発」 というタイトル考案と同じように、アイデアマンは昔から何人もいたというふうにも考えられる。
かつてのアメリカ大統領レーガンは最初 「リーガン」 で、訂正されて 「レーガン」 になったとのことだが、ショーン・コネリーがデビューしたての頃はシーン・コナリーと表記されていたとも聞く。昔、玩具のミニチュアカーの広告ページで 「プゲオット」 という車名を見たときがあった。何だこれ? 見知らぬ小さな自動車会社かと思いますよね。プジョー (Peugeot) でしたけど、
もっともフランス語の発音が特殊なのは確かで、私のフランス語の教師は生徒を呼ぶとき、「小田切」 は 「オダジリ」 で、 「外間」 は 「オカマ」 だった。giの発音は 「ジ」 になるのでオダギリでなくオダジリなのだが、hは発音しないのでホカマでなくオカマ……でも最初に聞いたとき、ドッキリ! 他にもミッキーマウスはフランス語ではミケなので 「ネコかよ?」 というツッコミもありです。
Stephenはスティーヴンなのかステファンなのか本人に聞いたら、本当はスティーヴンなんだけど、相手がフランス人のディレクターだったのでステファンだよと答えたりとか、そのときそのときの事情もあるようだ。

NHKの音楽番組ではMaurizio Polliniをマウリツィオ・ポルリーニ、Maria João Piresをマリア・ジョアン・ピレシュと呼んでいたが、今もあいかわらずそう言っているのだろうか。あえてそうした表記にしたのかもしれないが、Pires本人の発音ではピレシュよりピリスのほうが近いし、ポリーニがポルリーニだとピアノが下手そう。どうしてもあえて表記したいのなら、小さい 「ㇽ」 を使ってポㇽリーニとするか、あるいは 「ポッリーニ」 くらいのほうが適切だと思う。

名前のカタカナ表記の 「・」 (中黒) 問題というのも参考になった。
ファッションブランドのシャネルでは名前の表記に中黒を使わず半角アキにするのがきまりなのだという。例として 「ロバート・メイプルソープ」 でなく 「ロバート メイプルソープ」。中黒は大げさでうるさいから半角アキのほうが自然で、今後そうなって行くのではないかと金原も書いている。
複合姓に用いられる 「=」 も同様に思われる。「クロード・レヴィ=ストロース」 とかウザったいですよね。といって 「クロード レヴィ ストロース」 と全部半角アキだけにしてしまうと見慣れないからちょっと不安定な気もする。でもヴィリエ・ド・リラダン (Villiers de l’Isle-Adam) なんて昔はリール・アダンという読み方だったのだが、そんな発音はないです。とはいえリラダンのフルネームはwikiに拠れば 「ジャン=マリ=マティアス=フィリップ=オーギュスト・ド・ヴィリエ・ド・リラダン伯爵」 なので、これを全部半角アキだけで処理するのはかなりキツいような気もします。「ジャン マリ マティアス フィリップ オーギュスト ド ヴィリエ ド リラダン伯爵」 となるので。

他にも面白いエピソードがたくさん。翻訳者はホントに大変なんだということがわかります。
earringは英語ではイヤリングもピアスもearringなので、最近の作品ならピアスのほうが断然多いはずだから、どちらかわからないときは、まずピアスにするとか (p.017)。
He wore dark shades. は (誤) 彼は暗い影をまとっていた → (正) 彼は黒のサングラスをかけていた (p.015)。これはヤヴァい誤訳ですがメチャメチャ笑ってしまう。怖いですね。


金原瑞人/翻訳エクササイズ (研究社)
翻訳エクササイズ

nice!(67)  コメント(8) 
共通テーマ:音楽

いきものがかり THE LIVE 2021ファイナル [音楽]

kiyoe_YELL_211104_a.jpg

いきものがかり3人での活動の最後のライヴが発売された。タイトルを正確に書くと《いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!!》である。ツアーファイナルの横浜アリーナのライヴを収録したものでブルーレイ通常盤、DVD通常盤、それにすべてのメディアの全部乗せ限定盤の3種類でリリースされた。

ネットを見ていたら 「3人組アーティスト『男子1人辞め』の法則とは」 という記事を見つけてしまい、あぁ確かに、と苦笑してしまう。DREAMS COME TRUE、Every Little Thing、the brilliant green、Do As infinity、m.o.v.eと皆そうなのだが、もっというとドリカムを除く各グループは私が比較的聴いていたグループばかりなのだ。あと、globeもややこの範疇に入るかもしれない (ドリカムは、私が気がついたとき、すでにもう大物だったのであまり思い入れの余地がなかった)。
遡ってもう少し古い記事を探すと 「いきものがかりは例外!? 女1人+男2人のグループは誰か脱退する法則とは」 というタイトルがあって、その頃はまだ大丈夫だったのだろうけれど、結果としていきものがかりも例外にはならなかったということになる。
たまたまなのか、それともやはりこの女1人+男2人という組み合わせはグループを存続させるのには危ういバランスなのだろうか。でも、凛として時雨もかなり長くやってるし、洋楽ならCHVRCHESはまだ大丈夫だし、ピーター・ポール&マリーは長かったし (古過ぎる!)、必ずしもこの 「女1人+男2人だと脱退あり」 の法則があてはまるとは限らないのかもしれない。

1stシングルの〈SAKURA〉は森山直太朗の〈さくら〉という曲があったため、印象としてカブッてしまってどうなのかなと思ったのだが、同時に、私にとってはこのいきものがかりの〈SAKURA〉のほうが心にしっくりと届いて来たようだった。それはきっと歌詞の中に 「小田急線の窓に 今年もさくらが映る」 があるからで、山崎まさよしの〈One more time, One more chance〉の 「明け方の街 桜木町で」 と同じく、具体的な名称に、感性に響くなにかがあるからだと思う。

そして〈YELL〉はもはやスタンダード・ナンバーになってしまったが、まさに別れの歌として聴いてしまうしかない。「ともに過ごした日々を胸に抱いて 飛び立つよ 独りで 未来の空へ」 という歌詞に複雑な幾つもの意味を読んでしまうのは考え過ぎなのかもしれないのだけれど。

kiyoe_YELL_211104_b.jpg


いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!!
(BD通常盤)(ERJ(SME)(D))
いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!! (通常盤) (2BD) (特典なし) [Blu-ray]




いきものがかり/YELL
https://www.youtube.com/watch?v=lz8frtP6_kk

いきものがかり/SAKURA
https://www.youtube.com/watch?v=61z-cqg28R8
nice!(69)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

My Bloody Valentine《Loveless》 [音楽]

MBV2018_211101.jpg
SonicMania 2018より

レコードショップに行ったら壁面のフォルダーに《Loveless》のLPが何枚もずらりと飾ってあって、思わず手にとって、そのずっしり感に惹かれて買ってしまった。
マイブラの《Loveless》を最初に買ったのはたぶんオリジナル盤ではないけれどレコードで、その後もCDは3種類くらい買ったはずなので、今回の《Loveless》は5枚目ということになる。私にとって《Loveless》は特別なのだ。

『別冊ele-king』の 「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界」 では《Loveless》のアルバム評を杉田元一が書いている。冒頭の部分で、過去に彼はFM雑誌の編集をしていたこと、その頃はFM放送からカセット録音をすることが全盛だったことなどが書かれていて、この前、私が話題にした『FMステーション』の話と同じで、その頃のエアチェックがとても重要だったことをあらためて知ることになる。

杉田はその後、クラシック音楽雑誌の編集者となるが、その編集方針になじめず、無理して現代音楽特集をして当時、名前の出てきたアルヴォ・ペルトやシュニトケ、そしてスペースメン3とラ・モンテ・ヤングのドローンのことなどを取り上げてそこを辞め、ポピュラー音楽雑誌に移った。そこで出会ったのが試聴用としてレコード会社から送られてきた《Loveless》であり、その音に衝撃を受けたのだという。カセットを繰り返し聴いたというところにその当時の時間のリアリティが感じられる。

現在の杉田元一はレコーディグ・プロデューサーで、前橋汀子のバッハの無伴奏や小菅優のベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集にかかわっているが、その小菅優と作曲家・藤倉大との鼎談がネットにあって、録音に関しての話がちょっと面白い。
小菅優は藤倉のピアノ協奏曲第3番〈インパルス〉の演奏者であり、藤倉は小菅が演奏することを想定して書いたのだと語っている。ちなみに第2番〈ダイヤモンド・ダスト〉はメイ・イ・フーの録音で同名アルバムに収録されているが、メイ・イ・フーについては過去に少しだけ書いた (→2014年12月22日ブログ)。藤倉とのレッスン風景動画を再リンクしておく。

さて、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの話題に戻るが、『別冊ele-king』の特集はかなり深くて詠みごたえがある。杉田元一はマイブラの2013年来日時にずっと同行していたとのことだが、マイブラといえば2018年のライヴにおける終曲〈You Made Me Realise〉の轟音演奏がシューゲの到達点 (なのだろうか?) として有名である。もっともいきなりこれだけ聞かされたらなんだかわからないし、きっと腹を立ててしまう人もいるのではないかとも思う。


My Bloody Valentine/Loveless (Beat Records)
(これはCDです)
loveless (Amazon限定マグネット封入) [解説書付 / 高音質UHQCD仕様 / CD1:リマスター音源 CD2: 1/2インチ・アナログテープからマスタリングされた音源 / 国内盤 / 2CD] (BRC667)




別冊ele-king マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界
(Pヴァイン)
別冊ele-king マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界 (ele-king books)




Yu Kosuge Piano Recital/Four Elements Vol.4 Earth
Sumitomolife Izumi Hall
https://www.youtube.com/watch?v=Gqz-HL6IkBY

Dai Fujikura/Piano Etude I “Frozen Heat”
https://www.youtube.com/watch?v=-xwjS8mi8Qo

My Bloody Valentine/You Made Me Realise
Summer Sonic Extra 180815
https://www.youtube.com/watch?v=v543u913x40

My Bloody Valentine/To Hear Knows When
フジロック2108
https://www.youtube.com/watch?v=bmV94kFnQuc

小菅優、藤倉大、杉田元一鼎談
https://daifujikura.com/withyukosugesugitafujikura_1.html
nice!(66)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽